652 名前:隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日:2006/12/14(木) 04:48:53
まだ大魔法を使える程には回復し切れていない。
敵の状況を確認する。
右足の筋肉は断裂し、出血している。
それに左脇腹を抉り取ったダメージも大きいはず。
だがそれでも、まるで闘志は萎えていない。
そのダメージに頓着することなく迫ってくる。
その姿は、止まるところを知らぬ狂戦士そのものだ。
「……いける? バルディッシュ」
<<Yes,sir>>
バルディッシュの受け応えでフェイトの腹は決まった。
迫るセイバーへ突撃する。
鎖剣を弾きながら接近する。
フェイトも、バルディッシュもその攻撃に対応しつつあった。
「凄く、強いけれど……一本調子の攻撃なら!」
続く一撃を弾いた瞬間、その鎖が再びフェイトを襲う。
それに気付き、全速で飛び去る。
「攻撃が単純な軌道だけだと思ったか?」
「今のは……普通の動きじゃなかった、まるで、腕の延長のような、動き……」
垂らされたままの鎖が地面を這うようにフェイトを襲う。
弾いたとしても回避しながら突撃したとしても追撃が来る、そう判断すれば逃げる他ない。
<<Arc saber>>
光刃を飛ばして牽制する。
「おおおっ!」
手元へ戻した剣を地面に叩き付ける衝撃でアークセイバーの一撃を吹き飛ばす。
「……凄い」
「目は覚めたか? かかってこい」
負傷していようと、どんな状況だろうと、途方もなく強く、油断などできない、故に己の負傷は絶対。
目は覚めた。
「ええ、目は覚めました……いきます!」
唯ひたすらに全力を叩き付けるのみ。
時は数年前に遡る。
元より片親であった彼は父親と同じ学者の道を歩む事に異論はなかったし、それは当然のことだと思っていた。
そして、『それ』を見つけたのも本当に偶然であった。
父親は、彼が見つけたときには根刮ぎ『奪われて』既に死んでいた。
そして、偶然ではあったが、彼はそれを制御する才能を持っていた。
表向き彼の父の死は発掘調査中の事故として扱われ、そして彼の手には『それ』が残っていた。
まずはそれがなんなのか、様々な手段で調べ上げ、遂には倫敦の時計塔の事を知った。
それがコスタス・バルギリオの魔術師としての始まりであった。
手にした物体は、代償と引き替えに途方もない力を与えてくれたから、唯ひたすらに力を求め、目指した先は、多くの魔術師の例外に漏れず、根源であった。
「古代遺産<<ロスト・ロギア>>――!」
「……さあ、俺を食らえ、そして俺はもっと強くなる!」
宝石が光を発し、何かがコスタスの身体から吸い取られていくのが見える。
「ククク……行くぞ!」
放出される魔力は先程よりも遙かに強い。
吸い取られた何かを代償にして魔力を強化している。
そして唐突に理解する。
この人は、誰を犠牲にすることも厭わない、それが自分であっても躊躇いなく犠牲にしてしまう。
「それじゃあ最後に何も残らない……」
「残るのだよ! 俺の記憶も! 親父の記憶も! コイツの中でなあっ!」
「記憶……!」
記憶を吸う物体。
どこかで魂が訴えかける。
それは知っている物だと、叫んでいる。
この世界の自分が直接体験したことはない、それでもとても近い、彼女の魂が訴えかける。
「イデアシード……!」
人間の過去、その記憶を純粋で莫大な力に純化する結晶体。
「ほう、どこで知ったかしらんがなあっ! 知ってるなら、もう諦めろおっ! 俺の記憶どころか親父の記憶も丸々コイツの中に入っている! そこから生まれるその純粋なパワー! 分かっているのか少女よおおおっ!」
生成されていく影の中から膨大な魔力が空中へと放たれ、全速で回避しながら突破口を探る。
放たれた膨大な魔力は真後ろに位置した大木を薙ぎ倒して虚空へと消えていく。
「記憶は、なくしちゃいけない! ……そんな過ちを、見過ごしはしません!」
突破口は、その手から奪い取り、そして記憶を無理矢理にでも戻す事!
「過ちだというなら正せるか! 俺が正しいと信じた道を正せるか!? 既に正道に入っている俺をなあっ!」
影から生まれた魔力が鞭のようになのはに迫る。
「正します! その道が歪んでいることを教えて、過ちだって分からせて! 記憶が必要な物だって事も教えてあげる!」
迫る鞭の一撃を、レイジングハートで思い切り叩いて吹き飛ばす。
「ペラペラしゃべってあれもこれもと! 記憶など求める物に比べれば泡沫の幻も同然! 泡を気にして水中を泳げるものかよ!」
その言葉で、なのはのどこかで何かが切れた。
「ッ……! レイジングハート!」
最終更新:2007年05月21日 02:09