652 名前: 371 ◆snlkrGmRkg [スレの流れを読まないで投下sage] 投稿日: 2006/08/13(日) 01:55:54


 土蔵の中に入ると、はたして水銀燈は其処に居た。
 もしかしたら、セイバーと話しているうちにどこかに行ってしまうのではないかと心配していたが、どうやら杞憂だったようだ。

 ひらり、と一枚、黒い羽根が綿雪のように舞い落ちる。
 その奥で、水銀燈はこちらに背を向けて立っていた。

「…………」

 それは一枚の絵画のよう。
 窓から差し込む日光に照らし出された黒い翼。
 背を向けたまま黙して立つその姿は。
 まるで、天使のようだと言ったら……笑われるだろうか?

「……ねぇ、人間」

 沈黙が、水銀燈自らの言葉で破られる。
 顔は、未だにこちらを向かない。

「なんだ? ……いや、その前に俺、名前を」

「ここにある色々なもの、一体なんなのぉ?」

 名前をさっき名乗ったよな、という俺の言葉は、
 水銀燈の更なる問いかけによって封殺された。
 ちょっとへこむが、気を取り直して水銀燈に説明する。

「ん、まあ……ガラクタの山だよ。中には壊れていないものも混じってるけど」

 土蔵の中身は、二つに大別される。
 直したらまた使えるかもしれない、と俺が持ち込んだものと、
 なぜ置いてあるのか判らない出所不明の代物。
 後者については、持ち込んだ人物(虎)は判明しているが、持ち込んだ理由は不明である。
 ……そろそろまた若衆の人たちに引き取ってもらおうかなー、とか考えないでもない。

「ガラクタ……」

 その単語を呟くと、水銀燈はくるりと翻り、土蔵を一望した。
 壊れたラジカセがあった。
 冷たいストーブがあった。
 刻まない時計があった。
 歌わないスピーカーがあった。

「そう……これ、みぃんな、ジャンクなのね」

 果たして、その言葉にどれほどの意味と想いが込められていたのか。
 振り仰いでガラクタの山を見上げる水銀燈は、なぜか遠い目をしているように見えた。

「みんなみぃんな、イカレてしまった成れの果て。
 ここはまるで墓場《ジャンクヤード》ね」

 ……ふむ。
 水銀燈がガラクタに対して抱いている感情は、俺には全く知ることができない。
 だが、とりあえず間違いは正しておこう。

「別に墓場ってわけじゃないぞ、俺がちょくちょくいじって直してるからな」

 手近なところにあったカメラを手に取りながら言う。
 すると、水銀燈の首が、つい、と俺のほうに向けられた。

「……直している? あなたが?」

「趣味と実益を兼ねた労働、ってところか。
 直して使えば新しく買う必要もないし、なにより――」


α:壊れたものを直すのは楽しいしな
β:魔術の鍛錬になるからな
γ:俺にはコレしか出来ないからな

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最終更新:2006年09月03日 17:46