780 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM [sage 四日目・夜:女の戦い] 投稿日: 2006/12/24(日) 04:19:17
ガントで狙う。
宝石魔術は消耗が激しいし、格闘戦は危険が大きい。
ならば折衷案のガントが最適だと判断する。
「我が心の炎、天をも焦がせ、業火よ、大地を焼き尽くしたもう……!」
謳うような上空の詠唱。
魔術刻印のみではなく、詠唱を使ったブーストを掛け、それを上空より放つ。
「……っと、凄い魔力……でも狙いが甘い!」
低空でナパーム弾のように撒き散らされる炎を転がって回避する。
上空からの降下攻撃は有効とはいえ、何度も何度も同じように繰り返せばそれは有効たり得ない。
それどころか、その経験は反撃の為に生かされることになりかねなるだろう。
離脱するその背中にガントを数発撃つ。
「ふふっ……そんなものあたりはしないわよ!」
高笑いと共に、少しふらつきながらも空中で回避する。
だがこれは命中することが狙いではない。
「もう少し右……あと、まだ上ね……」
最大の一撃を確実に命中させることを狙っての軌道観測である。
如何に使い慣れたガントとて、消耗は当然ある。
それに、相手も魔術師である以上、対魔術防御はあるだろう。
想定される防御を突き破り、ダメージを与えるにはある程度の集中が必要で、それと同時に音速近い対象に命中させる程の射撃能力は、将来的にはどうあれ今の凛にはない。
ならばどうするか、目眩ましと軌道限定の為に弱威力のガントを放ち、本命のガントの射線上に追い込み相手自ら命中させる事が確実だ。
その為に対象の軌道を観測し、その先を予測する。
大粛正後に弱体化したソビエト軍の一部が用いた防衛戦時の砲撃戦術と同じ代物だ。
その事を知っているわけではないが、低い射撃精度という現実を打ち破るための発想という意味では同じだ。
「完全に捉えられるのはまだ無理……あと数分、欲しいわね……」
そう、彼女の勝利のための布石は既に打たれ、それは功を奏しつつある。
撒き散らされる炎がリンのブーツの先を焼く。
「あつっ……精度が少し上がってきてる? ……でもこの位ならまだまだ!」
だが経験を積むのは上空の彼女も同様だ。
これまでセイバーの実力のみで生き残ってきた彼女は、ここに来て己の扱う『かつての魔法』の精度を上げつつあった。
「ハハ……楽しいわ、最高よ、私の魔法」
最初は、直線移動時はともかく旋回の際にはふらついていた。
だがそれは変わりつつある。
ふらつきが減り始め、それどころか迷い無く動き始めている。
「これで貴方を殺したら……どれだけ最高なのかしらねえっ!」
再び放たれた炎の精度は更に向上している。
凛を完全に捉えるまで、数分とかからないだろう。
女の戦いの勝利の天秤は、未だ揺れている。
それはもう一方の戦いも同じであった。
781 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM [sage 四日目・夜:EQUILIBRIUM] 投稿日: 2006/12/24(日) 04:21:19
意志が消えた。
その事に驚愕する。
どのような人間であれ感情はある。
心は世界中で『大切な物』として扱われる。
中国の五情、欧州の七感情、インドのナヴァ・ラサ(九つの感情)。
他に数の大小こそあれど、感情に関する言葉は多い。
漢字の『心』を部首に持つ言葉などがその好例だろう。
その感情が消失している。
「なるほど、一刀如意……生まれた世界、理論は違えど達した境地は同じ物か」
セイバーが至近に迫る銃弾を目視で回避しながら口元に笑みを浮かべる。
プレストンは刀をして意ならぬ銃をして意の境地にあった。
そこに意志はなく、その銃弾を己の意志よりも早く、射程内へ踏み込む敵へと命中させる。
そのような存在と相対していることが、何故か無性に嬉しかった。
そう、『滅ぼすべき世界』にあって尚、セイバーは『嬉しさ』という感情を抱いていた。
プレストンの銃口から迸るマズルフラッシュは十字。
即ち彼の生まれた国<<リブリア>>の紋章だ。
愚昧なる反乱分子、そう断ぜられ彼等の前に立つこととなった存在達はその最後の断末魔と共にその十字を網膜に焼き付けられた。
『摂理と統制』を表す十字を象る『威厳と意志』の浄火。
かつて彼自身が幕を引いたその十字を背負いながら、プレストンは疾駆する。
何はともあれ、銃に対しては接近をしなければ勝利し得ない。
セイバーはただの一息、ただの一歩で亜音速まで加速し、刀を振るう。
十分以上に速度の乗ったセイバーの刀は因果律の破断を意味する。
そう、刀身に刃がある以上、この速度域で刀とレイピアの違いなど存在しない。
だがその一撃は背後の花壇の積み石を切り裂くのみだ。
「ぬっ?」
確実に殺すつもりで振るう一撃が空を切った。
そこに生まれた隙の間、プレストンの拳銃から銃弾が飛ぶことはなかった。
『妙だな、弾切れか?』
そう考えると同時の金属音。
その金属音は、拳銃が鈍器へと変ずる音。
プレストンの脳は演算の結果、刀を持つ敵との格闘戦を最適解と弾き出す。
甲高い金属音。
振り向くと同時に振るわれた拳銃のグリップをその細身の剣で受け止める。
「……厄介な」
切り裂くならば今手に持つレイピアで十分に過ぎる。
だが受け流すのではなく受け止めるのであれば刀の方が格段に優れている。
そう、刀を振るえぬほどの連撃を前にすれば。
互いに、見る物を恐怖させるほどの視線を交わす。
その直後――
戦場の鈴音:振るわれる一撃の勢いにあわせ、セイバーが後退した
抵抗する意志:振るわれる一撃の勢いに反し、セイバーがプレストンに体当たりを敢行した
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最終更新:2007年07月19日 17:41