846 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM [sage 四日目・夜:教会戦終局] 投稿日: 2006/12/29(金) 04:18:26

……これ以上の無茶はするべきではない。
何しろ、両足を焼かれた上に魔術回路のある左腕で音速を超える相手の衝撃を受け止めたのだ。
そう、全身に強化を施してこのザマなのだ、普通の人間なら腕は肩から吹き飛び骨の大部分は粉砕骨折、ついでに内臓はほぼ全てが破裂し、そうでない部分もまともに機能することはあるまい。
ついでに言えば火傷にしても足どころか下半身、下手をすれば全身が炭化しているくらいの状態にはなっていただろう。

それを自覚し、ちらりと二カ所、壁の向こうと教会の入り口付近、シャルロットと敵のセイバーへ意識を回す。
……どうやら戦いは拮抗し、シャルロットにしてもすぐに動き出すほどの元気はないようだ、運が良ければ先の一撃で戦闘不能となっただろう。
だが援護に向かうにせよ、生死を確認するにせよ、この状態で向かうのは無謀だろう。
そう判断し、意識の殆どを己の内に沈めた。

握った使い捨ての宝石に込められた魔力を全身に巡らせる。
中国武術の内家のように、魔術と共に気息を巡らせる。
呼吸を整えていく。
身体に張り巡らされた魔力が傷の応急処置を済ませていく。
あくまで応急だが、走ったり戦ったりと言った行動をしなければ、つまりはただ歩くだけならば問題なく行えるだろう。
それだけの魔力を通し終えると、使い捨ての宝石は蓄積されていた魔力の全てを失っていた。
溜息を一つ。
今、この瞬間も彼女の有する三体のサーヴァントへの魔力供給は続いている。
なのはとフェイト、二人のキャスターへの供給量は尋常でない。
数時間前の衛宮邸での戦闘でもそれなりに消耗したが、それとて彼女自身が毎日寝て起きれば補充されている量を超えては居ない。
霧島家に向かったセイバーに至っては魔力供給を殆どゼロで、ランプの強化とそう変わらない程度の供給だけで戦闘を終えている。
だが今行われているであろう戦いは、彼女が倫敦の一年で溜め込んだ宝石を三つも消費していた。
殆ど全てが使い捨てレベルの、彼女がかつての冬木の聖杯戦争の為に用意した十の宝石から見れば取るに足りないレベルの代物だろうが、それとて通常ならば十分な保有量を持っていたはずだった。
恐らく宝石魔術など使っていたら瞬間的な魔力不足で彼女自身が自滅していただろう。

「……よし」
ともあれ、魔力を全身に巡らせるのは終わった。
思考を打ち切り、周囲に意識を巡らせる。
拮抗する戦いは、援護したいのは山々だが、如何せん早すぎて両者の区別すら殆ど着かず、援護できるかと言われれば甚だ疑問だ。
そして恐らく、あの速度が直線移動でも発揮できるのならば、一瞬だけ離れ、自分を殺すことは容易だろう。
それに、マスターさえ倒せばサーヴァントは現界出来ない。
その大原則を考えれば援護ではなく、マスターを倒すこと。
そう考え、壁の向こうに向けて歩を進め、その壁の向こうの女性の姿を見咎める。
「な……まだあんな元気があったの?」
女性は空をふらふらと飛んでいる。
ガンドで追撃するべく指を向けるが、今度はシャルロットの方が早く行動を起こし、音速で消え去る。
発射する時間すら与えられなかった。
「なら――」
視線をセイバーとプレストンへと向ける。

音速を超えて尚拮抗し、停止していた両者の戦いは、主の撤退と共に終焉を迎える。
「やれやれ、主がああではな……とはいえ大願の為だ、仕方あるまい」
その言葉と共に音を超え、銃弾さえも超える速度で消え去るセイバーを追撃する手段などありはしない。
教会での戦いは一応の閉幕を見た。

「……キャスター、大丈夫?」
遠坂凛はキャスターの容態を確かめた後、この戦いや空戦の後始末を手伝うことになるだろう。
……夜はまだ長い


スターリングラード:かくして舞台は市街地へ
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最終更新:2007年05月21日 02:14