24 名前: くとぅるふクロス ◆69.0kY8lhQ [sage] 投稿日: 2007/03/25(日) 15:15:33



 士郎は無邪気な声の持ち主が告げた単語の前に警戒心を呼び起こす。
 表情に出す事はなんとか避けたが、イリヤスフィールと名乗った少女もまた
異質な人物なら短い人生の中で四人目となる。

 魔術師とは多くが利己的で根源を目指すために手段を問わない。
 今までに出会った者達は全て本来の魔術師というスタンスから遠くかけ離れており、
士郎は注意を喚起しながらも危険という意識は少なく少女の頼みを聞き入れて共に公園に向う。

 冷気を帯びた風が吹き、二人は身を竦ませる。
 暗い夜、ベンチの近くに自己主張の激しい青い筐体を発見して
 士郎は財布から小銭を取り出し、鉄貨を投入する。
 ぶつかり合う音を伴って落下してきた銀色の缶珈琲を少女に手渡し自身も購入する。
 受け取ったイリヤは熱い容器を両手でニギニギと掴み、疑問を声にした。

 「お兄ちゃん、この暖かいの何?」

 「? 缶珈琲だけど」

 「珈琲が詰まってるんだね……くれるの?」 

 「ああ」

 「ありがとう」

 何が嬉しいのかよく分からないが、大事そうに抱える姿を見て士郎は満足気に頷く。
 緑色の新品らしきベンチに二人で腰をかけて夜空を見上げる。
 天は陽光から月光に代わり何処か温もりを感じさせる色を携えている。
 そんな中、少女の迷うような声が聞こえた。

 「ねえ、アレはなんだったの?」

 「俺も分からない。えと、イリヤスフィール?」

 「イリヤでいいよ」

 「イリヤはまだアレを覚えているか?」

 イリヤは質問を質問で返されてムッとした様に士郎の横顔を睨む。
 茶色の缶を片手に黄色い月を懐かしむ様に仰ぎ見る彼を眺めていたら些細な事だと
気がついたのだろうか、先ほどの現象を回帰する様に彼女もまた空を見る。
 狼狽が小さな肢体を揺らす。不自然な声色で隣に座る男に伝えた。

 「え、と……ライオン」

 「そっか。ライオンか」

 「ホントだよ! 私覚えてるもん。
  青い服のおじさんとお兄ちゃんが助けてくれた」

 「そうだな、ライオンはともかくお巡りさんの事は忘れちゃいけない。
  イリヤの宝物になるさ」

 記憶を改竄してしまった少女を前に大切な事だけ告げる。
 正義の在り方を示した人物達は士郎の心に残っている。
 老いた身体に鞭を打って駆ける魔術師が居る。
 銛を手に魚人と戦いを演じた漁師、震えながらも職務をまっとうせんと現実を直視した警察官。 道半ばで消えてしまった義父の後を継ぐつもりで冬木の街を見回っていたが、
存外、人はしぶとく異質と闘争を続けていた。

 少女は肯定を主張する。首を縦に振り次の質問をした。 

 「お兄ちゃんはどんな人なの?」

 「俺? 猫を探してるかな……」

 要領を得ない答えに士郎の口から続きを待つ。

 赤毛の少年は遠い別の場所を目指すために、手を伸ばし続けている。
 届くかどうかはわからない。成す事が出来た暁には目標が近くなると信じている。
25 名前: くとぅるふクロス ◆69.0kY8lhQ [sage] 投稿日: 2007/03/25(日) 15:18:03
 「猫の足音を集めてるんだ。
  今日は持ち歩いてないけど白い筐に入れてる。
  イリヤは猫バスって知ってるか?」

 ファンタジーな事を語りだす士郎をイリヤはぼんやりと見つめている。
 何故貯めてるのか問いたかったが"猫バス"という単語に好奇心を引かれたのだろうか。

 「知らない。何それ」

 「映画の中に出てくる乗り物でね。
  道に迷った姉妹を乗せて望む所まで連れて行ってくれるんだ。
  本来はあんな優しい姿じゃないと思う。見た事が無いから断定出来ないけど」

 缶の中身を飲み干して、鉄製のゴミ箱へ放り投げる。
 放物線を描いて吸い込まれてゆく空き缶を見てイリヤは逡巡を顔に表していた。

 「飲まないのか?」

 「なんだか勿体無いなって」

 銀色の円筒形と睨めっこをしつつ唸る少女は愛らしく、頬が緩むのを感じた。
 結局、蓋を開けずにポケットへしまいこんだ彼女に士郎も疑問を問い掛ける。

 「イリヤは魔術師なのか?
  どうして此処に?」

 最大の謎である魔道書が何らかの意思を持って接触した事には触れずに
 士郎は朱色の瞳に視線で問い掛ける。
 イリヤは意を決した様に見つめ返すと願いを言葉として表現する。

 「ね、右手見せてもらってもいいかな。
  そしたら教えてあげる」

 頼みを聞き入れて、士郎は右手を差し出した。
 少女は何を思ったのか凝視した後、手を"ぎゅうっ"と握り締めて頬擦りをする。
 慌てて離そうとしたが、嬉しそうに聞こえないくらい小さな声で何事か呟く彼女を
振り解くのは躊躇われて為す術も無く固まってしまう。

 「えへへ、シロウは暖かいね」

 「そりゃさっきまで缶珈琲持ってたし。
  ……じゃなくて、なんでさ?」

 行為に戸惑う士郎だったが少女は勢いよく立ち上がり、
若さ溢れる大胆な足取りで地を蹴ろうとした。

 のだが、ベンチと少女の身体から何かを引き剥がす様な異音が聞こえた。
 イリヤは緩慢な動作で後ろを振り向き、やや潤んだ瞳で士郎を眼に写す。
 悲しげな声が容赦ない現実を知らせる。

 「お兄ちゃん……」

 既に手遅れな事実に逃れる術は無く、同様の異音を立てて士郎も身を立ち上げる。
 上半身を捻って緑色に侵食されたスラックスを視界に入れた。
 二人は並んで先ほどまで座していたベンチを複雑な思いで眺める。

 イリヤは眉を逆立てて小さな手を揺らしている。
 この状況は良くないと気がついた士郎が止める間も無く
少女は腕を振り上げ質量さえ感じさせる銀色の魔力塊を発射した。

 「バカぁ!」

 直撃を受けた目新しいベンチは木っ端に分解されて空へ舞う。
 その威力に唖然としながらも少女の手を取り逃げ出した──

 やや速い中途半端な速度でいつか修理しなきゃ、と考えながら駆ける士郎。
 不機嫌さを顔に表しながらも何故か楽しげな足取りのイリヤと手を繋いで
近くにある自宅に彼女の着替える服はあっただろうかと悩みながら学園経由で帰路についた。

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最終更新:2007年03月26日 20:10