128 名前: くとぅるふクロス ◆69.0kY8lhQ [sage] 投稿日: 2007/04/01(日) 00:03:03

 「人目のある場所で魔術を行使するのは厳禁じゃ無かったのか?」

 「大丈夫だよ、人払いの魔術を掛けてたし」

 何時の間に発動したのやら、と謎が浮かぶが士郎は気にしないことにした。
 慌てふためいて逃げる必要は無かったらしく速度を落としイリヤに話しかける。

 「どうする? 服」

 「どうしよう……
  城に帰れば替えの洋服はあるんだけど」

 憂鬱を帯びた瞳がスカートを眺めている。
 純白の衣装に緑がこびりついておりただでさえ
人目を惹く容姿を持つ少女は白いため息をついた。

 「家に来るか?
  ジーンズの裾を折ってベルトを、いやベルトじゃ無理だな。
  紐で括れば大丈夫だと思う」

 イリヤは歩幅を併せて速度を落とした士郎に笑みを浮かべて声を返す。

 「淑女の扱い方は心得てるようね。
  招待に与り光栄です」

 レディというには小さな背丈のイリヤが
尊大に腕組みして頷く姿はコミカルで士郎はこらえ切れず笑ってしまう。
 おそらくは魔術師であるという推測とベンチに八つ当たりした際の膨大な魔力に
怖れはあったが不満気にわき腹を叩いてくる少女は親近感を与えていた。

 ──この子は何なのだろう?

 魔道書は歓迎の意を示した。
 初めての光景であり過去の持ち主達と所縁があるのかも知れないと想像する。
 巻末の方には手にした人物について記述があり本格的に自分が用いるなら四人目となる。
 一番初めのページには契約を求める術が記述されてあるがその気はない。

 義父は幸せになって欲しいと言ってくれた。
 結末における代償は忘れる事無く覚えており二の足を踏んでしまう。
 二代目の持ち主は運命に抗い魔王との約定を破棄しようとしたが叶わなかったらしい。
 そもそも約束とは守られるべきモノであり契約を交わしたのならば
履行しなければならないと士郎は思っていた。

 軽快に歩む赤毛と銀髪はこの一時を貴重なモノに感じて家路につく。
 柔らかそうなイリヤの髪が揺れて微香を周囲に振り撒く。
 繋いだ手だけでは無く身体が稀に触れ合う距離は二人にとって心地よさを保っていた。


 終わりは唐突にやってくる。
 イリヤは眉を顰めて立ち止まり右手を握り締める。
 士郎も同じく息を潜め歩みを止める。

 フェンス越しに赤い衣服が映える少女と黒より暗い黒人が向かい合っている。
 奇妙なのは何処からとも無く短剣が疾り神父の服装をした偉丈夫に突き刺さってゆく。
 苦痛を感じるであろう彼は宇宙を内包した様な暗黒の口内を開き哂い声を発する。

 名状し難い音色が響き、微量の狂気を伴った風が少年少女を縛りつけ嬲る様に身を包む。
 世界を汚染して駆け抜けるそれは絶望の開幕。

129 名前: くとぅるふクロス ◆69.0kY8lhQ [sage] 投稿日: 2007/04/01(日) 00:06:19

古来より人は素晴らしき明日を望み欲望という原動力を身に宿して歩んできた。
 大空を制覇し、成層圏を越えて伸ばした手は何処までも高みへ。
 たとえ障害物が在ろうとも年代をかけて克服し偉大なる先人達の理想を抱えて
足掻き、苦しみ、最後には討ち克つのだ。

 その姿を見て皆が我も続け、追い抜けと心を奮い立たせて邁進してきた。
 姿勢に問題など無かったはずである。だというのに母なる大海を侵略し、
深遠の彼方で禁忌との邂逅を果たした日に勘違いに気がついた。

 その偉容を垣間見た矮小な生物の行く末は三種類に分類される。
 遠いある者は忘却の彼方へ存在を送り込み無かった事にする。
 近いある者は邪悪で強壮な姿に心を打ち砕かれ精神を破綻させる。
 またある者は大いなる形を直視し、矮躯を実感しながらも人の持つ強さを信頼して行動に移す。

 ヒトが文明を築く以前の時代を生き続けて幾星霜。
 現在は別の銀河へと飛び立った旧き神々(Elder God)の封印に屈服し眠りにつく。
 ルルイエの館にて死せるクトゥルー夢見るままに待ちいたり。

 旧支配者(Great Old One)の存在を人は知ってしまった。


 人類賛歌を謳う惑星は人類惨禍へと方向を転進し加速し続ける。
 舞台は冬木市。役者は彼の地に根ざした人々と聖杯の寄る辺に従い具現化した英雄、
そして理解し難き生命達である。 

 今此処に、第五次聖杯戦争の狼煙が上がった。

299 名前: くとぅるふクロス ◆69.0kY8lhQ [sage] 投稿日: 2007/04/09(月) 23:45:02

 宵の口という時間帯ではあるが静寂に包まれた
学園のグラウンドで平穏な日常とは程遠い光景が展開されている。

「お嬢さん、人の話は聞きたまえよ。パパに教わらなかったのか?」

 幼児の悪戯を咎めるといった面持ちをした長身痩躯の男が
絶対感さえ漂わせた荘厳な声で赤を基準とした服装の少女に語りかけ足を踏み出す。
 その一歩に地表は主が帰ってきた事に悦びを表すかの如く極彩色の波紋を広げだした。

 彼女は朗々しい声を無視をして指と指の間に挟んだ綺羅星達を人物へ向けて再び投合する。
 猛る炎が黒地に金をあしらった豪奢な衣服を包み追撃の黒色短剣が角度を問わず神父を襲う。
 常人ならば皮膚は爛れ、白刃に晒された身から流血するはずの鉄槌をものともせず、
軽々と受け入れて歩む姿は男が畏怖を抱かせるにたる存在である事を示していた。

 ──遠坂?

 士郎は戦場を前に自身の切り替えが出来てない事を悟り心の中で呪文を唱え精神を統一する。
 仮にも魔術師の端くれであり非常識な怪異との出遭いから
学んだ経験は裏切らずに身体を動かせる。
 客観的な視点では無く自己の視た風景をあるがまま受け入れて最良の選択を決めて実行に移す。

 はずだったのだが──
 背に庇おうとしたイリヤはいつの間にか手を離し士郎を見つめていた。
 何処か切なげな顔で口から声を出す前に圧迫感を与える音がグラウンドに響き渡る。

 「なあ少年少女、そう思わないか?」

 「っ!」

 神父の話しかけた先を見た少女は対峙する以外の存在に誰何の視線を投げかける。
 短い観察を終えた彼女は狼狽した動作を見せる。
 それも一瞬、後方へ跳躍し士郎達を視界に入れるためか神父との距離を取る。

 「人払いの結界を忘れるなんて……」

 「主、チガう。ますたーと……キリツグ?」

 赤い衣装の少女と人間性を欠落したつたない声が響く。
 気配の欠片も無く少女の前に立つ背を丸めた人物に士郎は音声で気がついた。

 ──爺さんを知ってるのか?

 「シロウ、私から離れないで。
 マスターじゃないのに巻き込んでごめん」

 「イリヤ?」

300 名前: くとぅるふクロス ◆69.0kY8lhQ [sage] 投稿日: 2007/04/09(月) 23:47:05

 士郎の隣に立つイリヤは告げて庇う様に前へ出て無邪気な声で挨拶をする。
 少し前に士郎が受けたそれと同様のはずなのだが決定的に友好性が欠落した印象を受ける。

 「初めまして。遠坂とそのサーヴァント、それとマスターの見当たらない従者さん。
 イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと申します。短い間になりますがよろしくね」 

 空間が揺らめき巨人がイリヤの隣に具現化する。
 瞳は紅く燃え上がり勇壮な肉体からは熱量を感じさせる程の躍動を士郎に与える。  
 黒よりの灰色の髪が風に揺れ口から暴力的な咆哮が迸った。

 士郎は動揺を隠し切れない。
 混乱気味の思考で再び現状を把握する様に周囲を見渡した。


 学園のアイドルであるツインテールの少女は巨人を警戒感あらわに注視している。
 彼女の隣に立つ人型は主とは別の者に興味を示す。
 豪奢な衣装を纏った神父は無感動に巨人を眺め、茶番はどうでもいいという風に口を開く。

 「夜は始まったばかりだよ少女。まだ慌てる時間じゃあるまい。
 とはいえ気懸かりな事は早めに処理しておかなければ我慢ならん性分でね、
 しばし待っていてくれたまえよ」

 「私のサーヴァントを遠坂の貧弱なのと一緒にしないで。
 殺しなさい、バーサーカー!」

 子供特有の残酷な感性がイリヤの声に乗って放たれる。
 命を受けた巨人が身にふさわしい石剣を手に駆け抜ける。
 赤い瞳が軌跡を残しながら疾走する姿は
もはや人という印象は無く絶対的な現象の一つを思わせる。

 巨人は石剣を横薙ぎに振るい神父を襲う。
 当れば致命傷、または即死という無慈悲な一撃は神父に直撃する。
 されどかの聖職者らしき黒人は圧倒的な斬撃を受けても
微動だにせず腕組みしたまま平然と語りだした。

 「イルカ臭いお嬢さん、如何にも不愉快な懸念が消えんのだよ。
 君がこの世界におけるタイタス・クロウでは無いかと。
 私の遊技場で掟破りの行為がまかり通るのは拙かろう?」

 「知らないわよそんなの、それより何で……」

 死に至る襲撃を受けてなお悠然と立つ男に
気圧されたツインテールの少女は驚きを隠せず胸に手を当てよろめく様に後退する。

 巨人は神父の動作を問わず手に携えた獲物をぶつけている。
 その全てに効果は無く胴に当っても、
 頭を砕かんと振り下ろしても刀身がかの身に触れれば止まってしまう。 

 「なんで死なないの……バーサーカー、狂いなさい!」

 イリヤの声に従い巨人は更なる暴力を偉丈夫に振るう。
 石剣が神父の頬に当たり口から血液ではなく黒い液体が流れ落ち大地を穢した。

 ここに至って士郎はようやく見知った異端の影を察知し心臓が更なる早鐘を打つ。
 背に担いだケースから今まで経験したことの無い
情熱的な意思が圧し掛かり胎動するかの如く蠢いている。


 「いい加減にしたまえ、木偶。
 教育者に人の嫌がる事は進んでやりましょうという意味を曲解した訳ではあるまいに。
 そんなに加虐心を満足させたけれりゃ其処のロリータにSMしてればいいだろうが! ええ!!」

301 名前: くとぅるふクロス ◆69.0kY8lhQ [sage] 投稿日: 2007/04/09(月) 23:50:46

 神父の荘厳な声のトーンが揺れて罵声を飛ばして
怒りも顕わに巨人の石剣を黒い手で掴み跳躍した。
 巨人の首辺りまで浮いた彼が真横に脚を振るうと
衝撃音を従えてバーサーカーと呼ばれた超人の首が主の方へ放物線を描いて吹き飛んだ。

 イリヤは呆然と転がってきた巨人の首を視線で追いかけている。
 地に流れた黒がまるで版図を拡大せんと侵略を開始する。
 逃れる間も無く闇は大地に広がり士郎は
神父の足元からのたうち伸びて来た血管の様な朱に脚を捕らわれ動かせなくなる。
 赤い衣服の少女とイリヤも同じ様に脚は捕らえられ
精神は不安定な所へ置き去りにされた様な脅威に曝されてゆく。

 ──拙い、桁違いだ。まるであの時の……!

 士郎はまだ近くに居たイリヤを背後から抱きしめる様に
二の腕で耳を塞ぎ両手で彼女の目蓋を下ろす。

 「シロ、」

 「視るんじゃないッ!」

 ケースが爆ぜ言語が我が子を守る様に二人を包む。
 黄金色ではなく深紅と暗黒の彩りを帯びたアラビア語が
空へ向かい指向性を持って二重螺旋を描き出す。
 竜巻の如き色彩に身体を拘束していた朱は引き裂かれ平常な夜空を舞う。
 もう一組の主従へ向けて士郎はあらん限りの声を張り上げて叫ぶ。

 「逃げろ!」 

 「逃がす訳ねぇだろうがッ! 泣いて喚いて許しを乞うても挿入してくれる。
 目には目を、歯には歯をの教えは君の分野じゃないか、回教徒よ。
 さあ強姦される準備はととのえたかよ大人の玩具ら!」

 神父が清廉な印象をかなぐり捨ててもなお神聖な声で哂い出す。
 幼児を折檻で殴り殺してしまおうとでもいわんばかりに腐敗した黒の大地が
心神喪失状態に近い少女と矮躯で盾にならんとする忠臣を──


 A 黒は神父の口に戻り夜空全てに銀色の時計が浮かび上がり左向きへ針を疾らせていた。 
   (Pocket watch of De Marini──凛の持っていた懐中時計発動)

 B 黄色の食屍鬼は凛に渡していなかった。(死亡エンド)

 C 螺旋が矮躯の英霊を掴んだ。(凛死亡のまま物語続行。末はバッドエンド)

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最終更新:2007年04月10日 03:39