149 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/04/01(日) 11:37:50

 遠坂邸の門の前に立つ。
 ここから一歩踏み込めば、遠坂の敷地……魔術師のテリトリーだ。
 とは言っても、今回は遠坂と喧嘩をするためにやってきたわけではないので、そんなにピリピリする必要はないのだが。

「ふ、ふふふふふふ……」

 隣で必要以上にピリピリしている水銀燈さんには言っても聞かないんだろうなぁ。

「あのさ水銀燈、最初っから喧嘩腰じゃあ、まとまる話もまとまらなくなるぞ?」

「あらぁ、私はただ、真紅をからかいに来ただけよぉ?
 仲良くするなんて真っ平だし、あの子の話なんか知ったことじゃないわ。
 そんなことより、早く呼び出しなさいよぉ」

「……わかったよ」

 本当に、それでいいのか、水銀燈?
 そう心の中で呟きながら、俺は門の脇に備え付けられた呼び鈴を指で押した。

 リーン、という音が館に響く。

 ……ここで安っぽい電子音じゃなくて、本物の鈴っぽい音が鳴るあたり、流石魔術師と言うべきか、流石金持ちと言うべきか。

「とうとう会えるのね……真紅ぅ」

「……結局、今まで聞きそびれてたんだけどさ。
 その真紅ってドールは、一体どんな奴なんだ?」

 かなり今更な気がするが、気になっていたことを尋ねてみる。
 水銀燈は不愉快そうに、ふん、と鼻を鳴らした。

「……えらそうな態度の、生意気で不細工な人形よ。
 他人を見下して、自分だけは特別だと思ってるお馬鹿さん。
 レディを装ってるけど、所詮見せかけだけ。虫唾が走るわぁ」

 なんとも酷い言いようだな。
 どうも水銀燈の人物評を聞いていると、会ってもいない相手のイメージがどんどん悪くなっていく。

「……聞いた限りだと、随分仲が悪そうだけど。
 なにかあったのか?」

 再び疑問を投げかけると、水銀燈はふと、俯いて。

「………………貴方には、関係ないわぁ」

 そう言い捨てるまで、随分と間が合ったのが気になった。

「一つだけ言える事があるわ。
 真紅を壊すのはこの私。
 今まで、幾つもの時間で戦って、いずれも決着は付かなかったけど。
 今度こそ、この水銀燈の手で……。だから、士郎」

 俯いていた顔を、ゆっくりと持ち上げる。

「今回はからかいに来ただけだけど……雛苺のときみたいな『気まぐれ』は無いわぁ。
 また『正義の味方』とか言って、真紅に肩入れなんてしたら……赦さないんだから」

 相変わらず、真紅って奴に関しては水銀燈は本気だ。
 口ではなく、冷たい瞳がそう語っていた。
 なので、俺は小さく頷いて見せる。

「わかってる。
 もしその真紅って奴が、お前の言うような奴なら、俺も倒すことに反対しない。
 それに、俺のほうも、ちょっと馴れ合いたくない事情がある」

 なんせ、ミーディアムがアイツだしな。

「それにしても……」

 呼び鈴を鳴らしてから数十秒経ったが、いまだに沈黙したままの館を見上げた。

「おかしいな?
 誰も出てくる様子が無いぞ?」

 念のため、もう一度呼び鈴を鳴らしてみるが、反応は無い。
 誰も居ないのか? でも、まだ午前中なのに……。

「鍵は……あれ、開いてるのか」

 門を押してみたところ、あっさりとそれは開いた。
 少なくとも、だれも居ない、というわけでは無さそうだが。

「……よし、遠坂には悪いけど、中に入らせてもらおう。
 いいか、水銀燈?」

「ええ、もちろんよ」

150 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/04/01(日) 11:38:36


 門をくぐり、敷地に入る。
 一瞬、来た道を引き返すということも考えたのだが、鍵が開いているのに誰も出ないという状況はちょっと不審だし、なにより水銀燈が納得しないだろう。

「……なんだか、へんな感じぃ。
 入った途端に、空気が濃くなったみたい」

 遠坂邸の空気を敏感に感じ取ったのか、水銀燈が訝しげに眉をひそめている。

「まあ、一流の魔術師の陣地だからな。
 俺の家なんかとは違って、土地の魔力も強いみたいだし」

 遠坂なんかは、この敷地の土で傷を癒すこともあるらしいしな。

「ふぅん……でも、それだけじゃないような気がするけど……。
 まぁいいわ。早く行きましょう」

「……? ああ」

 門から玄関までは、さほど距離は遠くない。
 玄関の扉のノブをひねると、やはり鍵がかかっていなかった。

「行くぞ……」

 扉を開けて、中の様子を窺う。
 外観と同じく、洋風な造りの廊下はしん、と静まっている。
 ここには何度も来た事があるが、こんなに静かなのは一人で掃除しに来たとき以来だ。

「おーい、誰も居ないのかー?」

 呼びかけてみても、やっぱり反応無し。
 やはり誰も居ないのか?
 でも、だとしたらなんで鍵がかかってなかったんだ?
 不信感を募らせながら、さらに奥へ。
 この先には、居間と台所がある。
 誰かがいるなら、一目でわかるはずだけど……。

「あ……」

 居間に足を踏み入れたとき、そこで俺が目にしたものは――。


α:椅子に座った人形がお茶を飲んでいる、一枚の絵のような光景だった。
β:数え切れないほどの水晶が突き刺さった惨状だった。

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最終更新:2007年04月01日 21:13