740 名前: 371 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/08/14(月) 01:17:55


「なぁ。どうして玄関に落ちてたんだ?」

 一番最初に気になっていたことを尋ねてみる。
 もし持ち主がいたのなら、水銀燈ほどの貴重な人形を
 他人の家の玄関に落とすとは考えにくい。
 そうするとなにか理由があって置かれたということになるが……。
 しかし、水銀燈の答えは俺の予想を大きく外れていた。

「どうして、って質問は無意味だわぁ。
 私があなたに拾われたのは、必然だけど故意じゃないしぃ」

「必然だけど、故意じゃない?」

 一体どういうことなんだろう?
 水銀燈の入ったトランクが俺の家の前に落ちていたのは
 理由があってのこと、だけどわざとやったことじゃない……?
 いかん、頭がこんがらがってきた。

「すまん、俺にもわかるように説明してくれないか?」

「……面倒くさぁい。下僕になる気のない人間に話しても仕方ないじゃなぁい」

 どうやら説明する気がゼロの様子。
 よくわからないが、どうも俺の家の前に落ちていたことと、
 下僕になることとは関連性があるらしい。
 いやそもそも、水銀燈の言う下僕、という言葉が、
 本来の意味での下僕なのかどうかも疑ってみるべきだろう。

「話してくれたら気が変わるかもしれないだろ?
 内容次第ではどうにかしてやれるかもしれないし」

「……本当ぅ?」

「本当だって」

「……仕方ないわねぇ。お馬鹿さんのために、少しだけ説明してあげるわぁ」

 そう言うと、水銀燈はここに至るまでの所以を説明し始めた。
 相変わらず表情は変わらないが……実は説明したかったのか、水銀燈……?

「私たちは自らのミーディアムたりえる存在の元に届けられるわぁ。
 けれど、それを選ぶのは私の意志じゃなくて、メイメイの選定に任されているのぉ」

「メイメイ?」

「この子よぉ」

 水銀燈が軽く右腕を振るうと、そこに纏わりつくように光の結晶のようなものが現れた。
 光の結晶は掌まで到達すると、その上を無音で停滞する。

「これが人工精霊。
 この子の問いかけに同意した人間が、発条を巻くことが出来るのぉ」

 俺には光の結晶にしか見えないが、どうやらその人工精霊とやらは知性を持っているらしい。
 魔力で少し目を『強化』して見てみると、若干魔力を帯びているようだった。
 しかし、問いかけ?
 俺はそんなもんに同意した憶えは……。

 ――まきますか? まきませんか?

「あ」

 あった。
 偶然とは言え、血の印をつけてしまったあの謎のアンケート。
 どうやらあれが、人工精霊の問いかけというものだったらしい。

741 名前: 371 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/08/14(月) 01:19:34


「そうして、目覚めた私たちは、ミーディアムになるにふさわしい人間と契約して、
 人間を媒体にして力を使うことが出来るのよぉ」

 媒体、ということは、人間の持つ魔力を人形に分け与えるのだろうか。
 ……ん?
 ということは、ひょっとして……。

「なあ、そのミーディアムってのは、さっきから言ってる下僕のことか?」

「その通りよぉ、お馬鹿さんの癖に察しがいいわねぇ」

 ……なるほど。
 水銀燈が言うところの下僕というのは、魔術師で言うところの パスを繋ぐことを指しているらしい。
 俺の知っている世界の言葉に置き換えられただけで、 随分話がわかりやすくなった。
 わざわざ下僕などという表現をしているのは……まあ、水銀燈の性格だろう。

「それで、どうするのぉ?」

 俺が独り納得していると、不意に水銀燈が尋ねてきた。
 しかし、主語抜きで言われてもなんのことだかわからない。

「え、何が?」

「……本当にお馬鹿さんねぇ。自分の言ったことも忘れたのぉ?」

 俺の言ったこと?
 ええと、まずなんで玄関にいたのか尋ねて、
 俺に判るように説明して欲しいと頼んで、
 そして……あ。
 もしかして、話をしたら気が変わるかも、って言ったことか?
 でもそうすると、水銀燈は俺の気が変わったか、と聞いているわけで、
 それはつまり。

「俺にミーディアムになれ、ってことか?」

「……ふん。さっさと見限って、新しい下僕を探しに行こうかと思ってたけどぉ……」

 気がつくと、水銀燈は俺の目の前に立っていた。
 左手の甲を差し伸べて、そこに光る指輪を見せ付ける。

「気が変わったわぁ。
 もう一度だけ、下僕になるチャンスを与えてあげる。
 この指輪に口付けなさぁい。そうすれば契約は結ばれるわぁ」


α:契約する。
β:契約しない。

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最終更新:2006年09月15日 06:40