463 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/05/02(水) 13:38:34
「……まぁ、しばらくはお手並み拝見ね」
そう呟くと、裂け目を越えて庭園の中へ。
意外なことに、水銀燈は二人に介入しようとはしなかった。
すい、と高い柵の上に停まると、そのまま、ゆったりと脚を組んで腰掛ける。
眼下の二人の対峙を、まるで面白い見世物であるかのようだ。
続いて俺も、柵の影に隠れるように身を寄せる。
「……いいのか? 真紅ってのは、お前の敵なんだろ?」
てっきり、攻撃を仕掛けるだろうと思っていたのだが。
しかし、水銀燈は二人から目を逸らさないまま、俺の言葉を鼻で笑った。
「お馬鹿さぁん。バカ正直に真紅の相手をしてたら、こっちが疲れちゃうじゃない。
せっかく勝手に潰しあってくれてるんだしぃ、水銀燈はここで高みの見物よぉ」
「漁夫の利を待つ、ってことか。
……なんか、意外だな」
「なにが意外なのよぉ?」
「いや、まさかそういうしっかりした作戦を考えてるとは思わなかっt「死にたいの?」俺、水銀燈の聡明さって好きだよ」
言い終わる前に前言撤回。
なぁんだ意外とよく切れるんですねその不思議羽根ったら。
薄皮一枚切られた首筋を押さえながら、水銀燈と共に二人のドールを見守る。
まあ、冷静に考えれば、水銀燈の言葉は戦略的には正しいと思う。
わざわざ割り込まなくとも、二人が戦い合って消耗したところを見計らって仕掛ければ、こちらの勝率はぐっと増える。
なにより俺にしてみれば、あの二人の力は全くの未知数だ。
最初は見ることに徹したほうが賢いだろう。
「でも、あの相手のドールが真紅を倒したときは?」
因縁の相手を、別のドールに倒されてしまってもいいのか?
そう尋ねると、水銀燈は一瞬、眉を動かしたが、すぐになんでもないように表情を戻した。
「……ふん。
そうなったら水銀燈があのドールを倒しておしまいよ。
所詮、真紅なんか私が相手をするまでもなかった……それだけの話よ」
そっけなく言い切るが、果たしてその言葉は額面どおりに受け取っていいものなのだろうか。
少なくとも、謎のドールのほうを倒すことに関しては、躊躇いがなさそうだけど。
「ふうん……って、そういえば、真紅のほうはともかく、相手のドールは一体何者なんだ?」
どうも昨日から、真紅のほうばかり気にしていて、もう片方のドールのことは眼中になかったみたいだけど、水銀燈なら謎のドールのことも知っているはず……と、思ったのだが。
「……さぁ?」
「へ?」
予想外の答えが返ってきたので、思わず間の抜けた声を上げてしまった。
それを気にした様子もなく、水銀燈は小首をかしげて言葉を続ける。
「知らないわ。あんなドール、今まで見たこともないもの」
464 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/05/02(水) 13:40:03
「な……」
なんでさ、と俺が尋ねようとした瞬間。
「アリスゲームに参加している薔薇乙女《ローゼンメイデン》は7体。
その内、今までの時間の中で見たのは6体まで。
最後のドールは、目覚めたという話すら聞いたことがなかったわ」
下から聞こえてきた真紅の声に、思わずぎくりとしてしまう。
まるで水銀燈の言葉を継いだようなタイミングだ。
「そ、そうなのか?」
「……ええ」
つまらなそうに頷く水銀燈。
どうも、真紅の言葉を肯定するのは癪であるらしい。
「じゃあ、あのドールが……最後の薔薇乙女《ローゼンメイデン》なのか?」
謎のドールを注視する。
紫のドレスを身に纏ったそのドールは、真紅の言葉が聞こえていないかのように、微動だにしない。
「もう一度聞くわ。
貴女は、誰?」
「……あなたは、だれ?」
真紅の誰何の言葉に、ようやく、謎のドールは口を開いた。
オウム返しに呟いたその声は、ひどく平坦で、抑揚がない。
言葉を返された真紅は、すぐに自分から名乗りをあげた。
「私は――薔薇乙女《ローゼンメイデン》第5ドール、真紅」
「真紅……」
平坦で、しかし含みを持った声が、真紅の名前を確認するように繰り返す。
そして、その名乗りを真似るように、自らもまた名乗り返した。
「私は、薔薇乙女《ローゼンメイデン》の第7ドール……薔薇水晶」
「薔薇水晶……」
それが、あのドールの名前か。
薔薇水晶、と名乗ったドールは、そのまま片手を――。
α:ゆらりと突き出した。「さぁ、アリスゲームを始めましょう」
β:真紅へ差し伸べた。「あなたの望みを叶えましょう、真紅」
γ:胸に当てて一礼した。「……お父様がお呼びです」
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最終更新:2007年05月03日 00:29