68 名前:隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM [sage 四日目・夜:確信と共に] 投稿日: 2007/01/16(火) 03:52:07
ビルの壁を足場に駆け上がる。
地上は闇に溶け始め、より攻撃に適した位置へと跳ね回る。
だが、それはただ一方のみ、もう片方は哄笑と共にただ宙に浮いていた。
セイバーの拳が放たれる。
だが、壁面という支えから離れてしまった以上、その軌道は単純な物にならざるを得ない。
ナイフよりも鋭い爪が拳と共に迫り、セイバーの拳が出血する。
だが抉られた拳と、相手の爪を支点に軌道を変え、近接戦を敢行する。
手刀で延髄を狙う。
この一撃とて必殺。
一瞬でも意識を奪えば、その瞬間に地面に向けて両の拳をあわせて叩き落とすだろう。
だが、敵、バーサーカーは狂っていても尚冷静だ。
空を足場にするかの如く下へと向かい手刀は回避され、同時に爪という支えを失ったセイバーは重力に従って落ちていく。
その直前、足を掴み放り投げるように投げ飛ばし、その反動で逆方向のビルへと回避する。
数分における戦いで互いに決定打を繰り出せない。
否、繰り出そうとすればバーサーカーのみ一方的に繰り出すことは出来ただろう。
だが、バーサーカーはそれをしない。
それとて異常ではあるが、飛行し、物体を飛行させ、牽制する事しかしない。
再び闇に哄笑が響く。
放置された鉄骨が、コンクリート片が、放置されたままの工事現場の物資が次々と、まるでバーサーカーの周囲を護るように集う。
そして集った後、セイバーへ向け次々と放たれる。
一つ一つが神秘を帯びぬ物体とはいえ、空より迫る高質量高速度の弾幕は驚異に他ならない。
ビルの壁まは数秒、その数秒に物体が次々と襲いかかる。
「くっ!」
元より姿勢は上下が逆。
壁への着地すらままならず、弾幕へと晒される。
最初に向かってきた鉄パイプの側面を掴み、腕力のみで真上に軌道を変える。
続く材木は身を捻り回避し、カラーコーンを弾いて姿勢の上下を戻す。
壁面へ着地し、立ち入り禁止の鉄柵を右腕で弾き飛ばす。
この戦いの終幕をセイバーは想像する。
体力を失い、地面へと落下する己の姿を。
だが逃げるわけにはいかない。
ちらりと下を見れば、闇の中にポツリと目立つ、気絶した少女の姿があったからだ。
「これ以上、人を巻き込ませはしませんよ……!」
ぐいと足を撓らせ、再び虚空へと飛びかかった。
勘に頼り追跡することは避けるべきだ。
魔術による空間転移などの例外を除いて考えれば分かる。
完全に足取りを消すなどと言うことは不可能だ。
そうである以上、この荒れ果てた室内で追跡の手掛かりを探すべきだ。
とはいえそう長い間調べることは出来ないだろう。
調べすぎて逃げられては元も子もないからだ。
倒れていたはずの壁は航空機――ファントム――が墜落したことと、その爆風で完全に壊れていた。
「潰されたとか、そういう楽観論は禁物だよな……」
未だ燃える航空機とその煙に気をつけながら倒れていたであろう近辺を調べる。
「……右腕、か?」
黒く焦げていたが、それは人体の一部のように見えた。
そしてその手には拳銃が握られている。
まだ弾は残っているようだ。
「……気味が悪いし、使ったことはないが……念のためだ」
指を離させ、自動拳銃――SIG SAUER P226――を拾い上げる。
ふと後ろを振り向く。
己の歩いた足跡が残っている。
気付かなかったが先程の爆発で微細な埃や破片が大量に降り積もったらしい。
今もパラパラとだが上から落ちてきている。
拳銃を拾うために屈まなければ分からなかったであろう足跡。
「……だとすれば」
周囲を見渡す。
……発見した。
既に埃が積もり始めていたが、僅かに足跡が残っている。
それによく見れば、血の跡も残っている、相当出血している証拠だろう。
……既にロックは解除されている。
マガジン内にも弾丸は十分残っている。
動作不良は心配だが、この拳銃は信頼性が高い。
刀剣所持:拳銃を胸ポケットにしまい、莫耶を手にして追跡する
拳銃所持:莫耶をベルトに挟み、拳銃を手にして追跡する
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最終更新:2007年05月21日 17:27