177 名前:隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM [sage 四日目・夜:思い返す光景] 投稿日: 2007/01/23(火) 04:05:28

膝立ちの姿勢で胴体を狙う。

右膝を床につけ、左の爪先を敵へ。
立てたままの左足に魔力を通し、次の行動を瞬時に起こせるように準備する。
胴体では致命傷にならない、故に次に行うべきは相手に対応させる間もない近接戦闘だ。
ちらりとベルトに挟んだままの莫耶の様子を見やり、存在を確かめ、視線を敵に戻す。
睨み付けたのは胴体にある身体の中心、その奥にある心臓。

『人を指差す』ことを無礼だとする常識のある場所は、世界中かなりの地域に存在するという。
そして特に北欧においてその風習は強いのだが、その理由は魔術である『ガンド撃ち』にあるという。
彼自身は知らないが、倫敦の時計塔でも指差すことで相手を呪うその魔術が存在することが広まってしまった証拠であるという説もあるらしい。

指差すように拳銃を向ける。
放たれるのは魔術に非ず、鋼鉄の弾丸なり。


弾幕が再開される瞬間、発射音に紛れるかの如く、弾丸は発射された。
その瞬間、思考を炸裂させる。
弾丸の軌跡を目で追い、同時に強化を発動。
立ち上がるのと最初の一歩は同時に、そして次の一歩で最高速に達する。
両手で構えた拳銃は左だけで握り乱射する。
痺れた左手での射撃に精度は期待しない。
空いた右手でベルトから莫耶を抜き、斬りかかる。
室内に絶叫が木霊する。


機関銃の弾幕に遮られ拳銃の発砲音は聞こえず、男はその身に銃弾を受けた。
痛みが内臓を焼いていく。
だが蹲るわけにはいかない。
それは己の死を意味する。
倒れ込みながら傍らのM16を手に取り、銃口を向ける。
木霊する絶叫を耳に、自らも咆えた。

敵が咆えながら連続でトリガーを引く。
三点バーストの弊害か、弾幕を瞬間的に張ることができない。
だがそれは慰めにもならない。
銃弾が後方へ飛び去る中での突撃は恐怖を招き、最中の一発が拳銃を構えた左手を撃ち抜く。
落ちそうになる左手を振るい、残り少ない弾丸ごと拳銃を敵に向かって放る。
空中でザウアーが弾ける。
弾けた一発は軌道を逸れ、肩口を掠めて消え去る。

腰に机が当たり、倒れ込む身体が止まる。
引き金に込めた力を抜く。
――ま、良いさ
男は微かに笑う。

剣を振り上げる。
それと同時、銃口の下、M203グレネードランチャー<<擲弾発射機>>から、擲弾が放たれた。
剣を振り下ろした直後、衛宮士郎の真後ろで擲弾が弾けた。
衝撃波と破片が背面に突き刺さる。
吹き飛ばされる感覚。
破片が突き刺さる感触。
背中が削り取られる感触。
だがそれでも意識は消えず、込められた力も失せず。
吹き飛ばされながらの莫耶の一撃は、男の脊髄近くまでを切り裂き、深々と突き刺さった。

倒れ込むように左膝で着地し、身体が弾ける。
続く右足で思い切り床を蹴り、己の慣性を止め、反転する。
相打ち覚悟で自らも衝撃と破片を受けたのだろう。
ぐらりと揺れた敵の身体を目掛け、飛びかかる。
その手には何もない。
手にした剣は身体に深々と突き刺さっている。
「っ……干将!」
故に夫婦剣のもう一対を呼ぶ。
衛宮士郎の力では引き抜くことさえ出来なかった一刀が、意志ある者の如くあっさりと壁を突き破り、飛翔する。

音速を超え敵へ向け飛翔する一刀を、手に掴み、勢いを制御する。

揺れた身体を、首を掴んで床に押し倒し、再び剣を振り上げた。
狙ったのは同じく心臓。
振り下ろす剣先。
「――あ」
その瞬間、『あの瞬間』の光景が浮かんでしまった。

無意識に、であろう。
心臓を抉る剣先は逸れ、左腕を床に縫いつけるに止まった。

そして僅かな静寂が訪れ――


モルトリブレ:「甘いな」男が呟いた
ビターピース:「私の負けか」男が呟いた

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最終更新:2007年05月21日 17:28