274 名前:隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM [sage 四日目・夜:解放] 投稿日: 2007/01/31(水) 04:31:13

この場から離脱する。
万全の状態であっても役に立つことは難しいのがこの戦争だ。
ましてこの状態では役に立つことは出来ないだろう。

ふらつく足で、かつて廊下だった場所を歩いていく。
屋上は壊れ果て、既に廊下が屋上と化していた。
階段を下がる。
悔しさに、己の無力さに涙が出そうになった。


「チッ!」
舌打ちが聞こえる。
殺せなかったことへの怒りで満ちている。
だがその舌打ちで、セイバーは衛宮士郎がひとまずの安全圏まで離脱したことを理解する。

バーサーカーの足下を見れば足下が大腿近くまでが消え始めている。
如何に魔力が十分にあろうと、バーサーカーに単独行動のスキルはない。
マスターが失われたことで、現世との縁が消えつつあるのだと理解した。

窮鼠猫を噛むの言葉を、セイバーは熟知している。
故に、噛まれる前に決着をつけに行くと決めた。
「はあっ!」
気を吐き、分身したかのように急所に連撃を叩き込む。
その全てを受けてバーサーカーが蹌踉めく。
だがその連撃を代償に、セイバーの腕を掴んだ。
バーサーカーの周囲に黒い気が巻き上がる。
「しまっ……」
黒い蛇がセイバーの体に噛みつかれると同時、異様なほどの浮遊感を受けた。

屋上に僅かに残る瓦礫まで吹き飛ばされ、叩き付けられる。
「ぐっ……!」
だがまだ終わらず、さらに虚空へ持ち上げられ、地面に向け叩き落とされる。
自由落下を遙かに超える速度で激突すれば、死との距離は途方もなく短くなる。
だが噛みつかれたのは体、腕と足は動く。
「おおおっ!」
諦めることなく全力で地面を叩き付け、受身を取る。
地面にめり込み、体の端から全身に痺れが走る。
だがここで休んでいるわけにはいかない。
幸い叩き付けると同時に蛇のような黒い気は消失したようで、足で勢いをつけて飛び起きる。
「ですが……」
己の失策を悟る。
自身が消失し始めていることはバーサーカーも気付いているはずだ。
ならば自滅さえも考慮から外した大技を使ってくるだろうと予測を立てる。

上を見上げれば、月を背後に侍らせるようにバーサーカーが浮いていた。
膝近くまで消えて尚、その存在感は薄れることはない。
捧げるように上へ向けられた右腕に途方もない魔力が集中する。
「ク、タ、バ、レエッ!」
その魔力が解放される。

放たれたのは黒い弾。
直線軌道で、速度は遅い、大きさも数メートルに満たない程度でしかないそれは、途方もない驚異だった。
その正体を、セイバーはすぐに理解する。
否、この場に居合わせた人間ならば、誰であろうとこの正体に気付いただろう。

「ミニブラックホール……」
セイバーが己の出した結論に驚愕する。
学究者としての興味はあるが、足を踏ん張り耐える他ない。
周囲の小物体が次々と吸い込まれていくのが見える。
発生した超重力は実際のブラックホールには遠く及ばない程度でしかないが、人間が吸い込まれればどうなるか、試すようなつもりは流石に彼とて毛頭無い。
瓦礫が、立て札が、砕けたガラス片が、ズタズタに寸断されたまま放置されていた人間の臓物が飲み込まれていくのを見た。


「がふっ……」
階段を下りる最中、突然叩き付けられ、壁に押さえつけられるように全身が圧迫される。
取り落としたはずの剣は落下することなく壁にめり込む。
「な、何が……?」
周囲を見渡すが何もない。
重力など、見えはしない。
「ぐ……なんだか知らないが……」
両手、持てる力の全てで壁を押し続け、壁から体を離す。
「邪魔を、すんなよ……」
呼吸さえ難しいような状況で、現場から離れるために、全力で壁を押しながら、全力で歩き出す。
全身のありとあらゆる傷口から、血が噴き出していく。
薄れそうになる意識を握りしめ、歩き続ける。


人間の重量が飲み込まれ始めるまで、そう時間はない。
だが、残る魔力は決して多くない。
セイバーは決断した。
重力と共に跳び上がる。
瓦礫を足場に更に加速する。
黒い弾の脇を抜けると同時、減速が始まる。
見据えたのは上空より飛来する瓦礫。
その瓦礫を足場に、超重力の檻を振り切る。
「おおおおっ!」
バーサーカーの頭上を取る。
「ナニ……ナニィッ!?」
セイバーの予測通り、同じ重力の檻の中にあって、バーサーカーは平然と佇んでいた。

振り切った重力の檻が再びセイバーを捕らえ、加速を始める。
そんな中セイバーは――


火神カグツチ:己が剣を解放した
グスコーブドリ:バーサーカーを抱きかかえブラックホールに突入した

投票結果

火神カグツチ 5 決定
グスコーブドリ 2

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最終更新:2007年05月21日 17:52