300 名前:隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM [sage 四日目・夜:猫のような少女] 投稿日: 2007/02/04(日) 03:44:34

巻き込まれた被害者。
その少女はすぐに見つかった。
瓦礫に潰されかけていたが、奇跡的なバランスで別の瓦礫と支え合うことで少女は潰されることなく存在していた。

気絶しているのか、ぴくりとも動かない。
駆け寄り、様子を確かめる。
「生き……てる?」
規則正しく呼吸する音が聞こえた。
月明かりに照らされた少女は服こそボロボロだったが、外傷は見る限り無い。
猫のように、体を丸めて、眠るように気絶しているだけだ。
鮮やかなブルネットは闇に眩しく、それは戦場跡を思わせるこの場所では異様にさえ映った。


気絶した少女を抱きかかえようとして、その眼が士郎を見つめていることに気付いた。
丸まったまま、少女が問うた。
「……誰?」
警戒しているわけではない、ただ純粋な疑問の声で問うた。

とりあえず、名前を答えた。
「衛宮士郎、怪しい人じゃないよ、一応ね」
警戒させないように、出来るだけ優しく言う。
「しろう……士郎……?」
「ああ、士郎だ」
軽く笑みを見せる。
それは安堵から。
何人もの人を救えたわけじゃなかった。
だけど、誰も救えなかったわけじゃない。
犠牲を容認したわけじゃない、だけど、意味がなかったわけじゃない。
それは、この戦いの中では極めて僅かな救いでしかないのかもしれない。
それでも、救われた人に「無意味だった」と突きつける事なんてできない。
だから極自然に笑みを見せた。

ふ、と。
少女は極自然に抱きついていた。
「え?」
疑問に思うと同時、破砕音が聞こえて。
少女を抱きかかえてその場から飛び退く。

間一髪の差で瓦礫のバランスが崩れ、押し潰した。
「あつつつ……大丈夫か?」
「うん、平気……ありがとう士郎、優しいね」
そう言うと少女は抱きついたまま胸に顔を埋めた。
「と、とりあえずここは危険だから行こうか」
「うん!」
周囲を見れば、ビルはボロボロで、それこそいつ崩れてもおかしくなさそうだった。


「はあ……なるほど」
先生が簡単な治療を受けながら呆けている。
それはそうだろう。
なにしろ少女の懐き方が尋常でない。
一言で言えば刷り込みを思わせる程の懐き方だ。
他の人間は警戒したまま、抱きついている。
まるで信じられるのは彼だけだというような懐き方だった。
「は、わかりました、では……君達はこれから教会に来て貰うが、構わんな?」
通信機を切り、隊長らしい人が話しかけている。
「ええ、構いません」
「よし、決まりだな」
隊長らしき人物が手を振ると、その先から車両……HMMWV<<ハンヴィー>>が数台向かってきた。
民生用のハマーではなく明らかな軍用のそれは、きっちりと武装が取り付けられている。
映画や紛争地帯のニュースなどで見たことはあったが、実際に見るのは当然始めてであった。
「あんな物をよくもまあ……」
「さあ、乗りたまえ」
隊長の言葉は、高圧的ではないが少しだけ威圧感があった。


301 名前:隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM [sage 四日目・夜:記憶喪失の少女] 投稿日: 2007/02/04(日) 03:45:35

教会に辿り着くと、遠坂とキャスターが明らかな疑いの眼差しを向けてきた。
先に到着して治療を受けていたなのはとフェイトも、どういう顔をして良いのやら、戸惑っているようだ。
それはそうだろう、別行動して少女を拾ってきた、しかもこの懐き具合。

……バゼットは、どうやら教会には居ないようだ。
単独行動をして分かれたきり、彼女はどこかへ行ってしまった。
少しだけ不安だった。

「……その子、何?」
「あ、ああ、この子は、巻き込まれた子で、助けたら懐かれちゃって」
「とても信じられないわね」
ぴしゃりと一刀両断、容赦無しだ。
「そ、そうは言われてもだな、まず俺はこの子の名前も知らないぞ?」
「……小児誘拐?」
キャスターが言ってきた。
「いや違うから」
さすがに即答する。
更に色々と疑いの言葉を即答して切り返していると。
「……ノイン」
少女が後ろでポツリと言った。
「ノイン……名前、で良いのか?」
「うん、ノインは、ノインだよ……覚えているのは、それだけ」
声が沈む。
……そうだとすればあの懐きようも少しは分かる。
そして、その理由も分かる。
あれだけの無惨な死体を見せられて、平気なはずがない。

全てを忘れてしまったのなら、そう自覚してしまったのなら、精神状態は生まれたばかりの小鳥とそう変わらないだろうと思う。
助けてくれた人、生かしてくれた人だけを頼りにするだろう。
衛宮士郎が切嗣に憧れたように。

「……ふむ」
成り行きを見守っていた神父が近づいてくる。
手元に書かれたファイルには、犠牲者の名前などの情報が書かれている。
「荷物を持っている様子も無し、真実記憶喪失ならば教会で引き取る、というのも難しいだろう、なにしろ、親代わりが目の前にいるのに引き離す、と言うことになるからな」
何を言い出すのかこの神父様は。
予想は付くが……
「どうかね? 君も参加者である以上負担はあるだろうが、この少女を暫く君の住居で預かる、というのは」
その言葉に、最初は反発を。
「いや、危険があるでしょう」
「危険があるのは教会も同じだ、みたまえ、君や、ハンヴィーで治療を受けている男性に比べれば随分と軽傷だが、彼女たちも負傷した……教会が襲われたのだよ、ジョン達のおかげで撃退は出来たがね」
一度言葉を切る。
その言葉が事実ならば、確かに教会よりも、複数のサーヴァントが居る衛宮邸の方が安全かも知れない。
「我々教会側も戦力を保有してはいるが、自ら事態を解決できるとは自惚れておらん、身を守ることは出来ようとな」
全員が神父の話を聞いていた。
「引き受けて貰えるならば……幾つかの状況も提供しよう、リスクと引き替えと言うことだ、どうするね? 少年」


傷だらけの帰還:少女を衛宮家に連れて帰る
少女の涙:少女は教会に置いていく
放浪:その前にバゼットを探しに行くというのはどうか?

投票結果

傷だらけの帰還 5 決定
少女の涙 0
放浪 0

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最終更新:2007年07月19日 18:20