318 名前:隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM [sage 四日目・夜:少女と神父] 投稿日: 2007/02/06(火) 05:41:53
……そう迷うべき事でもない、記憶を失った、自分を信頼してくれている少女を放っておくなんて事は出来ない。
「引き受けます」
「……そうか、よろしい、ではこちらへ来たまえ、情報の提供をしよう」
そう呟いて私室へと歩き出す。
「ノイン、ちょっとここで待っててくれるかな? すぐ済むから」
後ろをちょこちょこと歩いてくる少女に目線の高さをあわせる。
「いや、一緒が良い」
あからさまに不機嫌そうになるノイン。
怒った表情で頬を膨らませる姿は、言っては何だが愛嬌しか感じ取れない。
「そんなに我が儘を言ってはいけないよ」
聖書を手に、別の神父が近づいてくる。
中世的な少年、ブラック神父である。
「用事もすぐ終わるから、待っててくれないかな? ほら、飴食べるかい?」
にこやかに微笑むと、ノインはおずおずと飴を受け取り舐めだした。
「……すいません、ありがとうございます」
思わず敬語になってしまうほど、彼と少女の組み合わせは様になっていた。
「いえ、気にならさないでください、慣れていますから……さ、行ってください」
「それじゃあ、ノインをよろしくお願いします」
互いに一礼して、私室へ向かう。
319 名前:隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM [sage 四日目・夜:二人の将軍] 投稿日: 2007/02/06(火) 05:42:55
「さて……まず現状小康状態に入った市街地の戦い、その中で一際際だった存在達、空戦を行ったジェネラルの存在についてか」
ぱらりと市内の地図を広げる。
「空戦は市外全域に広がったが、旧型機を中心とする部隊と、現行機を中心とする部隊がある、ひとまずこれをA、Bと分類した」
地図の上にチェスの駒を二つ置く。
「旧型を中心とするジェネラルAの部隊は杜王港を通って海へ離脱、恐らく海上になんらかの航空母艦を保有しているのだろう」
Aの駒が海上に置かれる。
「空母を? そんなに詳しくないですが……そんなものを個人が所有できるのですか?」
空母は現代戦に於いて最強を誇る戦力群だ。
洋上の基地司令部としての機能を有すると共に、離着陸して攻撃を行う数十機の航空機はただそれだけで小国を壊滅させることが可能だろう。
現在に於いてまともに運用できているのはアメリカ程度で、他に正規空母を有する国は数カ国のみである。
更に言えば原子力空母を有するのはアメリカ以外にはフランスしかない。
しかもフランスは予算の関係上まともに運用できていないのが現実だ。
そして問題は予算だけではない、数千人規模の人員も必要だ。
そんなものを個人が有するというのは極めて難しいだろう。
「宝具として空母を有する英霊かも知れぬな、機体が二次大戦後のものばかり故に誰かは想像も付かないがね」
そう言って楽しそうに神父は語る。
「第二次大戦は空母同士の戦いは行われた最初で最後の戦争だからな、山本五十六、チェスター・ニミッツ、
小沢治三郎、ウィリアム・ハルゼー、ジェームズ・サマヴィル……人物名だけでも枚挙に暇がないよ」
目を輝かせて語る彼も、その視線に気付いたのだろう、そこで話を打ち切り、市街地上に置かれた別の駒を手に取る。
「さて、続いてジェネラルBについてだが……はっきり言えば所在地も大凡掴んでいる」
彼に集中していた視線がより熱くなる。
「君達の中に、今夜上空に走った光を見た者はいないか?」
そう問われて、なのはとフェイト、それに凛が手を挙げた。
「戦闘中に一回だけどね」
「私達はここに歩いてくる途中に二回、見ました」
指を二本立てながらなのはが言う。
「そう、我々の部隊も二回確認した、初撃は市街地上空を抜け、二撃目は海上に向けて放たれた、これによって少なくとも三機が撃墜されている」
「……あっ!」
最初に気付いたのはフェイトだった。
思わず一気に立ち上がってしまい、その激痛で机に突っ伏した。
全身隈無く重傷を負ったセイバーに比べれば軽いが、彼女の負った斬撃も入院が必要なレベルの負傷なのだ。
多少遅れて全員が気付く。
「この二発の攻撃はいずれも直線、つまり、二つの直線を結ぶことで、少なくとも位置の予測は可能と言うことだ」
線引きを当て地図に線を引く。
「更に言えば、数分の間だけであれだけの攻撃を可能とする魔力を放っていれば遠からず自滅するであろう事から、
これを魔力ではなく非消費型の宝具、つまり兵器による物と想定した」
更にもう一つの線を引く。
二つの線が交差した。
「……ぶどうが丘高校北数キロの丘陵区画、ここにその兵器があると予想できる」
「ちょっと待って、そんな兵器、置いてあったらさすがに一般人も気付くわ」
昼間の間は撤去できるとか、そういうレベルの代物でないことはなんとはなしに理解できる。
「そうだろうな、だが、B部隊の航空機もこの地点へ戻った事、そして存在が突如消失したことから、
ここになんらかの結界か、別の場所へ移動可能なゲートのような物を置いてあることは考えられよう?」
「そんなことが可能なんですか?」
士郎が聞く。
「可能不可能の話で言えば可能だろうな、調査部隊は向かわせた、連絡が来るにせよ、来ないにせよ、想定できよう」
連絡が来れば正解か不正解か判明し、来なければ排除されたと言うことでその想定は正解と言うことだ。
320 名前:隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM [sage 四日目・夜:危険な敵、そして帰宅] 投稿日: 2007/02/06(火) 05:45:09
「続いて敗退したマスターから得られた情報の中から、特に危険な……人を巻き込むような存在が一体判明している、それについて話しておこう」
巻き込む危険性が少ない存在については聞かないでくれと続ける。
中立を破った上でも、可能な限り公正にあろうと言うことだろうか。
「機材の反応からバーサーカーだと思われる存在だ、2日前、深夜営業の店舗を戦闘で壊滅させている」
「な……被害は? 誰か怪我人とか出たんですか!?」
「落ち着きたまえ、話によればマスターが英気を養っているところを襲ったらしい、怪我人は3名ほど出たが死者は無しだ。
とはいえ死者が何人出てもおかしくない戦い方だったようだな、実際店舗は壊滅して暫く事後処理の時間が必要だった」
机に置かれた資料には壊滅した店舗の写真が貼り付けられている。
穴だらけになった壁、黒焦げになった床はそれだけでただ痛々しい。
「待ってください、そのマスターはどうしたんです? 教会には居ないようでしたが」
凛が問う。
冬木聖杯戦争の経験者として、ある意味で当然の質問だった。
「不安かね? 再出場の意志がないことを確認し、国外へ脱出させている。
とはいえまだ恐らくは東京発の沖縄行きのフェリーの上だろうな、そこからフィリピン経由で教会の上海支部に引き渡される予定だ」
密輸のルートと同じだよと神父が微笑んで見せた。
「ちなみに随伴したサーヴァントはアーチャーと言うことであり……敵サーヴァントの特性は『復活』ということだ」
「復活、ですか?」
「ああ、一度、その店舗での戦いでは仕留めたらしいが、その七時間後、夜明け直前の潜伏先でダメージを回復しきれぬまま再び襲われ敗退したとのことだ」
「同じサーヴァントだったと言うことは確実なんですか? 全く別のサーヴァントとか……」
「それはなかろう、戦闘現場の写真を見る限りバーサーカーの戦法は同じだ、近接武器から遠距離兵装までの様々な武器でとことん攻撃してくる輩らしい」
そんな危険な輩がそれほど多く居るとは考えたくないねと首を竦めてみせた。
「……わかりました、情報提供ありがとうございます」
凛が頭を下げる。
「いや、私に出来ることはこの位だ、正直に言えば今日話したバーサーカー、ジェネラルはさっさと倒してくれると嬉しいと考えている」
そう言ったのは彼の紛れもない真意だろう。
恐らく彼はこの後も後始末と情報操作に苦心するに違いない、そう考えれば多少の同情はしようというものだ。
実際に倒せるかはともかくとして、危険な輩の情報を頭に刻み込んだ。
「あ、士郎ー!」
飴を舐めながら教会の長椅子に座って足をぶらぶらとさせていたノインが気付いて走り寄ってくる。
「用事はもう終わったの?」
「ああ、終わったよ、それじゃあ、みんなで帰ろうか?」
「うん!」
微笑ましい光景のはずだが、背後からの視線が痛いのは気のせいだろうか?
終電は疾うに走り去っているから、家の近くまではとハンヴィーを出してくれた。
そうして衛宮邸に漸く到着する。
バゼットはどうしたのだろうかという不安はある。
だが、彼女は無茶をしないと言った。
それを信じるしかないだろう。
そんなことを考えながら家の前までの僅かな距離を無言で歩いていく。
玄関前では――
不安の解消と新たな不安:桜が不安げに皆の帰りを待ちわびていた
ローレライの歌:イリヤが歌を口ずさみながら立っていた
ノーブレスオブリージ:ルヴィアが壁を背にして立っていた
ふたりはライダー:二人のライダーが何事か話ながら立っていた
無私の行動:ジェネラルが歩哨をしていた
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最終更新:2007年05月21日 18:10