444 名前:隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM [sage 五日目・朝:喧嘩するほど仲が良い] 投稿日: 2007/02/23(金) 04:42:35
「藤ねえ、お、ち、つ、け……」
薄れ始めた意識を総動員して腕を掴んで抵抗する。
「ええぃ、抵抗するかこの色魔!」
「人聞きの悪いことを……言うんじゃ」
拮抗している。
単純な力なら勝っているだろうけど、このマウントポジションの体勢はまずい、上手く力を入れられない。
「間桐嬢、いつもこうなのかあの二人は」
平然と食事を続けながら質問する。
「ははは……時々ですよ、どっちかが素っ頓狂な事をしちゃって喧嘩になっちゃうんです」
「ああ……成る程、先生にしろ衛宮にしろ何となく分かる、特に衛宮は普段から自己献身の度が過ぎるからな……」
どこか抜けていたとしても不思議はないか、と続ける。
「そうですね、誰かがそんなに凄いってことは無いことですからね、それに喧嘩するほど仲が良いって言葉もありますし」
人の精神を杯に例える思考法がある。
どのような人間もその杯の形は変わらないとする物だ。
もしかしたら杯の大きさも少しは違うのかも知れないが、それとてそう変わる物ではない。
普通の人間を台座に置かれた杯だとすれば、天才、奇人と呼ばれる類の人間は傾けられた杯だ。
一部は深くなるが、それ以外の部分は逆に浅くなる。
彼女はそう言っているのだと言うことをきちりと理解した桜の表情は慈愛に満ちている。
「あ、あの……二人、止めないんですか?」
「む、由紀香、不安なのか?」
「う、うん、なんだか二人とも全力で喧嘩してるように見えるんだけど……」
「さすがにそれはあるまい、兄弟のような二人なればある程度加減はしているだろう」
実際の所は全力なのだが。
「なに、心配はありませんよ」
二人の会話にセイバーが参加する。
「兄弟……家族というのは時々喧嘩するくらいが正常だと思いますよ、喧嘩も無くなったらそれは寂しい物です、互いを無視しているのと変わりませんからね」
ま、喧嘩ばかりというのも多少問題ですがと、少し寂しげに続ける。
「でも、兄弟喧嘩はいけないと思います……」
「なに、取っ組み合いをしろと言っているわけじゃありません、互いに意見を戦わせて切磋琢磨できると言う意味でも、必要だと言うことです。
……まあ、今回の件は士郎君が迂闊だったとは思いますがね」
「あの、なのはちゃんと、フェイトちゃんも喧嘩、するんですか?」
「……ええ、時々は」
「しますよー」
二人が笑みを向ける。
実際二人が全力で喧嘩をすればこの家、どころか近隣区画位はまとめて吹き飛ぶだろうが。
「ぜはーっ!」
筋力の限度を超え、倒れ込む。
のし掛かるようにぐったりと身を寄せ合って息を乱すその姿は、見ようによっては事後のようで非常にエロチックである。
「……士郎、反省した?」
身を寄せたまま聞く。
「誤解ではあるけど、誤解されるようなことをしたってことは反省する……」
「ん、それでこそ士郎」
「……それはそれとして、本気で首を絞めるのは良くないぞ、藤ねえ」
「……それは反省するわよ」
胸元で少しだけ頬を膨らませて返答するその姿は少女の仕草とそう変わらない。
「なるほど、すぐに仲直りしたな」
「いつものことですから……それはそれとしてあんまりくっついちゃダメですー!」
その後は特に大したことはなく、朝食の時間は終わる。
445 名前:隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM [sage 五日目・朝:朝食後の光景] 投稿日: 2007/02/23(金) 04:43:44
見事に綺麗に食べ終えた皿の一群を満足げに台所へ運んでいく。
こういう風に綺麗に食べて貰えると洗う方も嬉しい物だ。
桜も嬉しげに流しに水が張られるのを待っている。
「こういう風に食べて貰えると、作る方も嬉しいですよね」
「そうだな……ところで桜、今日の御飯いつもと微妙に味が違ってたみたいだけど、新しい米に変えたんだっけ?」
この家でいつも炊いているのは標準米だが、この前藤村組からお裾分けして貰った新潟産の米があったはずだ。
「あ、気付いちゃいました? お米はいつもの通りなんですけど、テレビでやってたので炊くときにちょっとお酢を入れてみたんです……ダイエットの効果もあるらしいので」
少し顔を赤らめながら蛇口を捻って水を止める。
「ああ、成る程、でも気にすることはないと思うぞ?」
桜に限らず、我が家の女性陣は別に太っているわけではない。
まあ、女性というものは得てして過剰に気にする物らしいが。
「さて……」
皿を洗いながら考えに沈む。
気付いてしまえば、あの格好でノインの服を買いに行くというのはできない。
朝食の時に言われて助かったと言ったところか。
とにかく、こういう事になれば一人で買いに行くか、誰かに服を借りるか、と言うことになる。
かといって女の子の服を一人で買いに行く、というのは避けたい。
ただでさえ色々言われそうな状況なのに一人で女の子の服を買いに行ったら何を言われる事やら想像するのも恐ろしい。
つまり誰かに服を借りるという事になる。
では誰が適任だ?
あのサイズの服ともなれば、イリヤが適任だろうが、替えの服があるとすればあの城だろうから取りに行くというのは止めておこう。
と、すれば――
ウサギに水:桜は物持ちが良さそうだ、聞いてみよう
犬にたまねぎ:遠坂は思い出にと取っておきそうだ、聞いてみよう
猫に小判:三枝さんは兄弟が沢山いるって聞いたことがある、借りられるか聞いてみよう
虎に翼:藤ねえならなんか持っていそうな気がする、聞いてみることにしよう
投票結果
最終更新:2007年05月21日 19:14