708 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/05/19(土) 23:44:04

 真紅の言うとおり、ドールが孤独だというのは間違いだと思う。
 そう考えた俺は、今にも攻撃を仕掛けそうな水銀燈を思いとどまらせることにした。

「もうやめよう、水銀燈。
 今日は戦いに来たんじゃなかっただろ?
 これ以上は、言い争いだけじゃすまなくなる」

「なによ、黙ってなさい士郎!
 真紅なんかに見下されたまま、黙っていられるほど、私はお人好しじゃあないのよ!」

 水銀燈は、興奮で周りが見えていない。
 俺は、なるべく刺激しないように、水銀燈に語りかける。

「そういう問題じゃないだろ。
 先に喧嘩を売った側が、まず謝るのが筋ってもんだ。
 なら、先に言い出した水銀燈が、手を引くべきだろう?」

 ちらりと、真紅のほうを見る。
 真紅は俺が水銀燈を止めるのを、感心したような目で見ていた。

「ふうん、人間にしては利口な方のようね。
 ……貴方、名前は?」

「ああ、名乗ってなかったっけ。
 俺の名前は衛宮士郎。
 水銀燈の……その、一応ミーディアムをやってる」

 尋ねられた名を、馬鹿正直に答える。
 それが、俺と真紅が最初に交わした会話だった。

「そう。
 私の名は真紅、誇り高き薔薇乙女《ローゼンメイデン》の第5ドール。
 水銀燈とは敵同士だけど……貴方とは仲良く出来そうね、士郎」

「あ……そ、そうか?」

 名乗り返す真紅は、ほんの少しだけ微笑んで見せた。
 俺はそれを見て……不覚にも、ドキリとしてしまった。

「なに馴れ合ってるの、士郎!
 貴方も真紅の肩を持つつもり!?」

 しかしそれも束の間。
 水銀燈が間に割って入り、俺の顔を睨みつけてくる。

「な、馴れ合ってるわけじゃないぞ!
 それに、どっちの肩を持つとか、何でそんな話になるんだよ!?
 俺は水銀燈のミーディアムだぞ?」

「ふん、どうかしら?
 戦うのが嫌いな臆病者同士、意外と気が合うんじゃないのぉ?」

「そりゃあ……戦わないなら、それに越したことは無いと思うけどさ」

 確かにその点に関しては、真紅の言うことには賛成だった。
 俺がそう答えると、水銀燈は軽蔑するように頭を振った。

「ほら見なさい。
 雛苺のマスターの時もそうだったけど、ホント、女には節操がないのねぇ。
 しかも揃いも揃って不細工ばっかり。みっともなぁい」

 その言い草に、正直ムッとした。
 俺のことはともかく、氷室のことを悪く言われるのは、不愉快だ。

「今話してるのは、これ以上お前が無意味な戦いをしようとするのをやめてくれってことだろう。
 関係の無い氷室のことは、持ち出さないでくれ」

「無意味な戦いですってぇ?
 アリスゲームは私たちの生きる目的、生きる理由なのよ。
 それを貴方は、侮辱するつもりなの?」

「違う、そうじゃない。
 俺はただ、真紅の言い分にも一理あると思って……!」

「じゃあ士郎は、水銀燈が間違ってるって言いたいわけ!?
 ふざけるのもいい加減にしなさい!!」

 話が噛み合わない。
 人の話を聞かない水銀燈に、俺もだんだんとイライラしてくる。

「ああもう、だから、そうじゃないって!
 なんでそうなるんだ!?
 考えが極端すぎるぞ、水銀燈は!」

709 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/05/19(土) 23:45:20

「じゃあ、何なのよ!?
 言いたい事があるなら、はっきり言ってごらんなさい!」

「ああ、じゃあ言わせて貰うけどな!
 『アリス』を目指すのに、なんで姉妹で戦い合うなんて馬鹿な真似をしたがるんだ、水銀燈は!!」

「なんですってぇ……!?」

 それは、今さっき思いついたことではなく、もっと前から……水銀燈に、アリスゲームについて教えてもらったときから、ずっと頭の片隅に引っかかっていたこと。
 それを、感情が高ぶるままに、水銀燈にぶちまけた。

「お前が一人で戦えるって言うなら、俺は手出ししない。
 ああ、『アリス』になるって言うなら、それもいいだろうさ。
 でもな!
 自分の姉妹を切り捨てて、一人だけ高みを目指して、それで究極の少女になれると思ったら大間違いだぞ!!
 目的のために手段を選ばないような奴は、いずれ自分の目的にすら裏切られるんだ!!」

 それは、例えば。
 憧れた夢を追い続けて、最後には、夢にすら裏切られた男のように。

 ふと、背後から視線を感じた。
 気になって振り返ると、そこには、我関せずと沈黙を守っているアーチャーが居た。

 ――フン、まるで自分が経験してきたかのように語るじゃないか、衛宮士郎。
 だが、それ以上は止めておけ。
 お前にも、そして私にも、それ以上のことを言う資格はないのだからな。

 アーチャーは無言のまま、俺にそう語りかけているようだった。
 その視線を感じた俺は、頭に上った血が徐々に収まっていくのを感じた。
 ……そうだな、アーチャー。
 今回ばかりは、お前の意見を尊重してやるよ。

 俺は、一回大きく深呼吸をして、再度水銀燈に語りかける。

「……なぁ、水銀燈。
 さっきお前は、一人で戦って、一人で勝ち残るって言ってたけどさ。
 もっと、他の方法はないのかな?
 そんなんじゃ、いつか、壊れちまうぞ?」

 ……あとになってから考えれば。
 あるいはその一言が、決定的なトドメだったのか。

「………………………………さい……」

 ぽつり。
 水銀燈の口から、低く、暗いナニカが微かにこぼれた。
 こぼれたナニカは、徐々に徐々に増えていき、そして……臨界を越えた。

「……さい……るさい……うるさい、うるさいうるさい五月蝿い!!
 私は壊れない、壊れてなんか無いっ!!」

 瞬間、最大限まで展開される黒い翼。
 呆気に取られていた俺を、漆黒の奔流が襲う!

「がっ……!?」

 抗うことも出来ず、俺の身体は黒羽の嵐の中に飲み込まれる!
 腕、脚、胴、首、指、頭……その全てが拘束される。
 身動き一つ取れなくなった俺をキッ、と睨みつける水銀燈。
 その目に宿っているのは、明確な……殺意!?

「私は完璧なドールよ……!
 お父様は言ってくれた!
 私にも『アリス』になる資格があると!
 だから私は『アリス』にならなきゃいけないの!!
 そのためには、他の子たちが邪魔なのよ!!
 馴れ合いなんて、冗談じゃないわ!!」

 自分の肩を抱き、自分に言い聞かせるように、絶叫する水銀燈。
 これは……殺意だけじゃない。
 ほんのわずか、混じっているのは……怯え、なのか?

「ばっ……バカを言うなっ……!
 自分の娘に殺し合いを命じる父親を、どうしてそこまで信じられるんだっ……!」

 かろうじて動かせる口で、なんとか言葉を紡ぐ。
 自分の身体のことよりも、今は水銀燈の心のほうが心配だった。
 だが、水銀燈はかぶりを振って俺を拒絶する。

「うるさいって言ったでしょう……!
 下僕のくせに、どこまで私に楯突くつもりぃ!?
 その首を切り落とされたいの!?」

 身体を拘束が、更にきつくなる!
 首が絞まって、息が出来ない……!
 こ、このままじゃ……!?


α:死んでも自分の意思は貫き通す!
β:最後まで、助かるためにあがき続けてやる!
γ:死ぬくらいなら、今までの発言を全て撤回する。

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最終更新:2007年05月20日 01:48