751 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/05/20(日) 21:17:21

 ……気がついた時、俺はベッドの上にいた。

「…………?」

 なぜ、自分がこうして寝ているのか理解できない。
 確かに俺は、水銀燈の怒りを買って、殺されたはず……。

「水銀燈……」

 声に出して、その名前を呟いてみる。
 今こうして俺が生きているってことは、水銀燈はあの後、俺に止めを刺さなかったということだ。
 俺のことを赦してくれた……?
 いや、あの水銀燈の怒りから考えて、そんなことは有り得ないだろう。
 じゃあ、一体何故……?

「目が覚めたか」

「っ!?
 アーチャー!?」

 不意に声をかけられ、思わずそちらに目をやると、そこには開かれたドアの前に立つアーチャーの姿があった。

「アーチャー……そうか、あの場にはお前たちもいたんだったな」

 アーチャーがいるということは、ここはもしかして、遠坂の館か?
 寝た姿勢のまま、首を周囲に巡らせる。
 そこには椅子、机、箪笥……見覚えのある格調高い家具が揃っていた。
 どうやらここは確かに、遠坂の館らしい。
 俺は、改めてアーチャーに視線を戻す。

「……ってことは、俺を助けてくれたのはお前……な、わけないよな」

「分かっているなら一々聞くな。
 私がお前を殺すならともかく、その逆の行為を率先してやったりするものか」

 俺が途中まで口にしかけた推理を否定すると、アーチャーは当然とでも言いたげに肩をすくめて見せた。
 くっ、やっぱりこいつとは絶対そりが合わない。

「……そりゃどうも。
 じゃ、俺がここで寝てるのは、やっぱり真紅の方の意向なんだな?」

「そういうことだ。
 それより、目が覚めたのならさっさとベッドから降りろ。
 元々そのベッドは、お前を寝かせるためにセットしたわけじゃないからな」

「げ、これベッドメイクしたの、お前かよ……」

 途端にイメージが悪くなったぞ。
 俺だって、アーチャーのセットしたベッドに、いつまでも寝ていたくは無い。
 そう考えて、ベッドの横に降り立とうとした瞬間。

「いぎっ……!?」

 身体の節々に、一斉に鈍痛が走った。
 思わず、バランスを崩して床に突っ伏しそうになりかける。

「な、なんだこりゃ?」

 体中が、ジンジン痺れるような痛みを訴えている。
 そんな俺の姿を見て、アーチャーめ、軽く笑いやがった。

「ふん。
 ま、あれだけ強力に拘束されていれば、そうなるのも当然だが……無様な姿だな、衛宮士郎」

 そこのハウスキーパー、うるさい。
 しかしそうか、この痛みは水銀燈の羽根に縛られてたせいか……。
 まあ、痛みを覚悟していれば、耐えられないほどじゃないだろう。
 気合を入れなおして、今度はしっかりと立ち上がる。

「ふう……。
 それでアーチャー、水銀燈は?」

 これこそ、俺にとっての本題だ。
 しかし、アーチャーは俺の問いには答えなかった。

「……そのことについて、真紅がお前と話がしたいらしい。
 下の階の居間でお前を待っている……ついて来い」

 そう言うとアーチャーは、俺に一瞥もくれずに部屋から出て行こうとする。
 慌てて俺も、節々の痛みを堪えながら、小走りに付いていく。

「おい、待てよアーチャー。
 水銀燈は? どこにいるんだ?」

「………………」

 アーチャーは無言で先を歩く。
 階段にさしかかると、変わらぬ歩調でそれを下りていく。

752 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/05/20(日) 21:18:27

 その態度に、自然と腹が立った。
 思わず、階段の上から怒鳴りつけてしまった。

「おい、お前なら知ってるだろ!
 水銀燈はどうしたんだって聞いてるんだ!」

「ここには居ない」

 簡潔に。
 アーチャーはいともあっさりと、俺の問いかけを切って捨てた。

「え……どういう、ことだ?」

「分からんか。
 ならばはっきり言おう」

 階段を下りきったところで、アーチャーは足を止めた。
 一階のフロアから、階段の上に立つ俺を見上げる。
 そして、言った。

「あのドールは、お前を見限ったのだ」

「……………………」

 じわじわと。
 大地が水を吸収するように、その言葉は、俺の真っ白になった頭にゆっくりと浸透して言った。
 そして、それはどろりとした焼け付く塊となって、俺の胸の中に重くのしかかった。
 水銀燈が、俺を、見限った。

「…………そっ、か」

 呻くように呟く。
 だが、頭の片隅では、ああ、やっぱりな、と、どこか納得もしていた。
 あれだけの仲違いをしてしまったのだ、殺されなかったにせよ、見限られるくらいは当然だ。
 俯き、手すりをぎゅっと握り締める。

 その時、ドアが開く音が聞こえた。
 見れば、居間に通じる扉が開き、その中から一人の少女が姿を現していた。

「真紅」

 赤いドレスに身を包んだ薔薇乙女《ローゼンメイデン》……真紅は、俺の姿を認めると、小さく一つ頷いてみせた。

「目が覚めたようね。
 丁度、これからお茶の時間にするところなの。
 せっかくだから、ご一緒して欲しいのだけど?」

「え? あ、いや、でも、今は……」

「どんな時でも落ち着いた振る舞いをするのが、レディのたしなみよ。
 それは紳士でも同じこと。
 ……アーチャー」

 俺に否を言わせないまま、真紅は近くに立っていたアーチャーにこう言った。

「紅茶を淹れて頂戴」


α:「了解した。この小僧のために淹れてやるのは遺憾だがね」と、アーチャーは言った。
β:ちょっと待った、アーチャーの入れた紅茶を飲むくらいなら、俺が紅茶を淹れる!
γ:いや、今は本当にそんなことしてる場合じゃないんだ!

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最終更新:2007年05月20日 22:25