774 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/05/20(日) 23:57:24

「了解した。この小僧のために淹れてやるのは遺憾だがね」

 アーチャーはそう言うと、即座に霊体化して消えた。
 恐らく、そのまま台所に向かったんだろう。

「あ、ちょっと待てよ、俺はまだ飲むとは一言も……!」

「士郎」

 俺は思わずアーチャーに文句を言いかけたが、真紅の言葉がそれを遮った。

「あせっても水銀燈は帰ってこないわ。
 今の貴方に必要なのは、身体と心を落ち着けることよ。
 アーチャーの紅茶の腕前は、私が保証するわ。
 彼の事が嫌いなようだけど、だからと言って彼の淹れた紅茶まで嫌うのはお門違いよ。
 いいわね?」

「あ……ああ、わかったよ」

 本当はまだ少し、納得してはいなかったのだが、真紅に強く念を押されたので、思わず頷いてしまった。

「そう。いい子ね、士郎」

「いっ、いい子?」

 いい子って……藤ねえ以外の人にそんな風に言われるとは。
 しかも、人形であることを差し引いても、真紅はどう見ても俺より幼い少女だぞ。

「では、居間でアーチャーを待ちましょう。
 こっちよ」

 そう言って手招きする真紅に、俺は大人しく付いていった。
 そのまま、遠坂邸の居間に足を踏み入れる……って、勝手知ったる他人の家なんだけど。
 真紅はまっすぐに、部屋に置かれた椅子に向かった。
 そして、小さい身体で器用に座席に上り、きちんと席に着いた。

「士郎も座りなさい。
 ……紅茶がやってくるまで、少し話し相手になって欲しいのだわ」

「あ、ああ、わかった」

 真紅に勧められて、俺も椅子に腰掛ける。
 俺と真紅は、丁度、テーブルを挟んで対面に座る格好になった。
 しかし、話と言っても、なにから話せばいいものか……。
 俺が話しあぐねていると、真紅のほうから話を切り出してきた。

「……まずは、謝らなければならないわね。
 私はあの時、士郎が水銀燈に殺されそうになっていたのに、それをすぐに止めようとしなかった。
 その結果、貴方をとても危険な状態においこんでしまった……」

 真紅はそこで言葉を切ると、俺に向かって深々と頭を下げた。

「……ごめんなさい。
 私が、もっと早く、水銀燈を止めるべきだったのだわ」

 それは恐らく、心からの謝罪。
 しかし、そんなことされても困るのは俺のほうだ。

「や、やめてくれ真紅。
 結局助けてくれたことには変わりないんだから、こっちが感謝することはあっても、そっちから感謝される筋合いはないぞ」

「しかし……」

「いいから、頭を上げてくれ。
 この件に関しては、真紅が謝ることなんか何も無い」

「……わかったわ。
 貴方、意外と頑固な人間ね」

 ようやく真紅が折れてくれた。
 頭を上げると、再び椅子に座りなおす。

775 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/05/20(日) 23:58:31


「…………」

「…………」

 ……会話が途切れる。
 部屋に備え付けられた、柱時計の刻む振り子の音だけが聞こえてくる。
 このまま黙っていても仕方ないので、俺は思い切って、今一番気になっていることを聞いてみることにした。

「えっと、それで、水銀燈はあの後、一体どうなったんだ?」

 すると真紅は、辛そうに目を伏せた。
 まるで自分自身が傷つけられたみたいな表情だ。
 そして、ぽつりぽつりと、俺が意識を失った後のことを話し始めた。


~~ここから~~


【α】
「実を言えば、私は、水銀燈が自分から束縛を解くのを期待していたの……。
 ギリギリまで士郎を助けなかったのも、それが理由。
 でも、あの子は最後まで、士郎を殺すのを止めようとはしなかったのだわ」

 そう言って、真紅はぎゅっと拳を握り締めた。

【β】
「あの時、士郎の最後の言葉を聞いた後、水銀燈は一瞬力を緩めたわ。
 私はその隙を突いて、力を使って、士郎を縛る羽根を払い飛ばしたのだわ」

 ……そう言われてみれば……確かに最後の瞬間、身体が軽くなったような気がした。
 てっきり、俺が死んだから楽になったんだと思ってたけど……あれは幻覚じゃなかったのか。

【γ】
「水銀燈はとても怒ったわ。
 どこまでも邪魔をするつもりか、って。
 私は、士郎を殺したら水銀燈は絶対に後悔する、と言ったのだけど……あの子の心には届かなかったみたい」

 真紅は……最後まで、水銀燈のことを心配してくれていたのか。
 そう思うと、俺の胸は少し、熱くなった。

【δ】
「結局、水銀燈は……士郎なんか自分とはもうなんの関係も無い、って……。
 そのまま、nのフィールドから出て行ってしまったのだわ」


~~ここまで~~


 語り終えた真紅は、沈痛な面持ちをしている。
 恐らく、水銀燈が他人を完全に拒絶してしまったことを悲しんでいるのだろう。

 ……だが、俺はそうは思わなかった。
 もし、水銀燈が本当に他人を拒絶しているのなら。
 今の真紅の話の中で、明らかに『ムジュン』している箇所があったからだ。
 その『ムジュン』が実際に起こったことならば、まだ希望は残っているかもしれない。

 その、『ムジュン』とは……。



*特別ルール*

 文中の、
~~ここから~~
 と
~~ここまで~~
 の間に、真紅が語った4つの言葉のうちのどれかに『ムジュン』が隠されている。
 その言葉を選んで、揺さぶりをかけろ!


α:「実を言えば、私は~」
β:「あの時、士郎の最後の言葉を~」
γ:「水銀燈はとても怒ったわ。~」
δ:「結局、水銀燈は……~」

投票結果

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2007年05月21日 01:11