300 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日: 2006/09/29(金) 04:32:28

その女性は早朝、朝靄の中から虎に乗ってやってきた。
先日シベリアにて捕獲した番の片方、雌種のシベリアトラだ。
「昨夜のプレゼントは我ながら会心の出来だった……喜んで貰えただろう」
さらに翌日の朝、つまり今朝であるが、番であることのサプライズを組み合わせれば正に無敵であると彼女は断言できた。

「よし」
虎から降りる。
虎と共に門をくぐり


そこで完全に動きを止めた。


昼近く。
その女性はやってきた。
片手には甘味処のどら焼きと鯛焼き、口元には笑顔と鼻歌。
「えーみやー、刑務所帰りの遠坂はどのくらいやさぐれてるかなーっ」
なんて、もの凄く物騒な言葉を楽しそうに放ちながら門をくぐり。


そこで完全に動きを止めた。


門に二人と一匹の彫像が出来上がる。
それを作った光景は余りにも予想外。
この現代日本では有り得ぬ光景だった。

その光景、作り上げた者達以外の住人で、最初に気付いたのは家主衛宮士郎と間桐桜であった。
共に朝食を作ろうと、どちらからともなく起き出して、彼らも同時に動きを止めた。
その二人の動きを再開させたのは。
「満足できまして?」
暫く経ってから発せられたそんな優雅な貴族の声だった。

まるで古びた、出来の悪いネジ人形のように振り返る。
「コレハアナタガヤッタデスカ?」
「ええ、私と、主にジェネラルが」
「戻しなさーい!」
桜が叫ぶ。
「これは何? これは!」
その『モノ』を思い切り指さす。
「何といわれても、155ミリカノン砲だが」
ルヴィアの背後からジェネラルが現れる。
朝から実にキマっている。
「何故に」
「いや、ただ修理するというのも不用心だと思ってね……
 外敵に対し立て籠もったり、もし敗北して逃げ込んだ場合撃退する物は必要だろう」
「いや、玄関に向けて砲とか据え付けられても」
彼の言ってる事は実にその通りなのだが……もうちょっと他にやりようはなかったのか。
これじゃあ他のお客さんとか来たとき、なによる藤ねえが見たら凄いことになるのは確定なのでは。
「ちなみに庭にも土嚢と重機関銃を設置させていただいたが」
「な、なんだってー!」
「それから台所には無事なところを残して数ランク上の代物に換装させておきましたわ」
それは実に嬉しい、嬉しいが……
「桜……は、台所の確認を、頼む」
言葉がうまく出ない。
ふらふらとした足取りで庭の確認に向かう。

そこで二人と一匹が固まっていた。
えーっと、この場合どう対応すればいいのやら。
「や、やぁ、おはよう」
爽やかに言ってみた。
結果バゼットさんの素敵なほど強烈なアッパーが炸裂した。

301 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日: 2006/09/29(金) 04:33:16

結論を言おう、シベリアトラの番はラブラブだった。
ついでにジェネラルとルヴィアの二人はこの異常っぷりを分かっててやったらしい。
というか、ルヴィアとしては半ば貴族的な(金を大変使用する)冗談だったらしい。

事情を説明できないことと冷めると美味しさが半減する事から美綴は固まったまま(眠ったまま)にしておいて、
話をしながら甘いモノは食べることにした。
ちなみにそうしようと言ったのはバゼットである。
最近では甘いモノにも手を出しているという事で、食べ歩きもしているらしい。

茶の間は比較的普通に改修がされていた。
とはいえ、そこから見える外の風景が土嚢と重機関銃では情緒も何もあった物ではないが。
「なるほど、S市で聖杯戦争ですか……そしてその大本である聖杯には異常が発生している」
「ええ、既に私達は解決のために参加している状況です」
「貴方のサーヴァントはどうなのです? 桜さんのライダーは知っていますが他の二人も貴方のサーヴァントではなさそうですが」
遠坂が俯いた。
「私はまだ召還していませんから……」
召還していないと言うよりも、これまでの怒濤の出来事によってうっかり忘れていたのだ。
「ふむ、そうですか……」
バゼットは少しだけ考え込み。
「私も参加しましょう、戦争そのものがどう、という話ではなく、異常を止めなければ魔術が流出する危険は大きい」
そう言った。
「それは実に有り難いわ、ミスバゼット」
元執行者という肩書きにも怯まず、平常心をもってルヴィアが言う。
「しかし良いんですか? 下手をすれば今度は死ぬかもしれませんよ?」
バゼットの、失われた腕−今でこそ義手があるが−を見ながら桜が言う。
そうでなくともかつての同僚とも戦うことになるのかもしれないというのに。
「構いません、負けませんから」
言われてルヴィアと桜は驚いたようだが、彼をよく知る二人のサーヴァントなら『こいつはそう言う女だから』と笑うだろう。
「ちなみに、共闘するという意志は?」
「共闘……」
彼女の思考は揺れている。
戦力は必要だし、何より今回の目的は勝つことではなく異常を止める事だ。
だが共闘、という言葉に今現在必要以上に過敏になっている事は事実である。
あの男の影がどうしてもちらつく。
それを振り切れない自分は弱いのだと、彼女は考えた。

そして結論は出た。
目を閉じ、再び開ける。


共闘の執行者:「お受けしましょう」バゼットは力強く応えた
執行者の参戦:「現状ではお断りします、敵対はしませんが可能な限り独力で行きます」バゼットは応えた
絶叫の虎再び:「これ何事よ士郎ー!」シリアスな場面を台無しにする絶叫が響き渡った
目を開ける弓道部:「ん……」美綴が目を覚ました

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最終更新:2007年05月21日 00:39