779 名前: 僕はね、名無しさんなんだ [sage] 投稿日: 2007/05/21(月) 00:17:22
―:それは出来ない
いきなりこんな事に巻き込まれた俺にとって、
それは非常に魅力的な提案で――――
それ以上に受け入れがたいものだった。
「有り難う、遠坂。
でもそれは出来ないよ」
リタイアするという事は、無関係な人達が
巻き込まれるのを見過すということで……
そんな事出来る筈が無いのだ。
だって俺は――――親父の様セイギノミカタになるって約束
したんだから。
「――そう、出来れば貴方とは戦いたく
無かったのだけれど仕方ないわね」
「え、何で俺が遠坂と戦わなくちゃなら
ないんだ?」
はぁ、とため息を尽き呆れ果てる遠坂。
「あのね、衛宮君。
貴方は今、聖杯戦争に参加するって言ったのよ?
だったら参加者である私達は敵同士。
当たり前じゃない。
勝者は一組だけなんだから」
あ~、なにやら勘違いしているようだ。
「俺は聖杯戦争に参加するつもりは無いぞ?
聖杯が欲しい奴らは勝手にやればいいさ。
ただ、関係の無い人達が巻き込まれるのは
許さないってだけだ」
「――――は?」
俺の言っている事がまるで解らないみたいで、
まるでアホな子の様にポカンと口を開いている。
「だから俺は聖杯に興味はないんだよ。
ただ、一般人を巻き込もうとする奴は止める。
遠坂はそんな事しないんだろ?
だったら戦う必要は無いじゃないか」
さっきまでの、鳩が豆鉄砲食らったよう
な表情が次第に歪む。
「――つまり貴方は魔術師にとって、
一つの到達点足り得る聖杯は入らないって事?」
額に青筋だ浮き出て、アンタ本当に魔術師?
とでも言いたげな表情である。
しかし遠坂の反応は当然なのだ。
魔術師とは根元を目指す者であり、
聖杯は其処に辿り着く手段になるかもし
れないのだから……
魔術師ならば是が非でも手に入れようとするのが
当たり前なのだ。
『魔術師』ならば……
だが、俺は魔術師では無いのだから仕方がない。
「そう言われても、別に叶えたい願いも無いし……」
「――はぁ……あのね~」
本日何度目になるであろう溜め息。
溜め息を吐く度に幸せが逃げてたら大変だよなぁ
「サーヴァントはボランティアで使い魔を
やってる訳じゃないのよ?
聖杯という莫大な見返りがあるからこそ、
精霊の域に達した彼らが人間如きに
使役されてるわけ。
でも、貴方は聖杯を入らないと言ったわね。
それは英霊にただ働きをしろって言って
るのと同じよ?
782 名前: 僕はね、名無しさんなんだ [sage] 投稿日: 2007/05/21(月) 00:19:31
下手したら、自分のサーヴァントに殺されるわよ」
ちらりとアーチャーに視線を移す。
「――我なら構わない。元より聖杯は我の物だ。
それに杯如きに叶えられる願望ネガイ
など生前に叶えている。
この余興に参加したのは、自分の財セイハイを
護るためだしな。」
「既にアンタのものですって?」
「我の真名を忘れたか、小娘。
我が名はギルガメッシュ。
全てを手にした王なり」
反論をしないのは、それが虚勢や大口では
無いのを遠坂自身が良く分かっているからだろう。
先ほど見せた古今東西の武具。
あれ等は、一つ一つが膨大な概念を宿していた。
そんなモノを弾丸の様に射出するのが
アーチャーの……世界全ての財を手に入れた
ギルガメッシュだからこその攻撃手段。
「聖杯がアンタの物だろうが誰の物であ
ろうが関係ないわ。
この聖杯戦争に勝つのは私達よ。
衛宮君がどういうつもりかは知らないけど、
私のお節介はここまでよ。
明日からは敵同士。これ以上は心の贅肉よ。
さぁ、行くわよライダー」
そう言って立ち上がると、ずっと霊体化が
ライダー姿を表した。
ライダーは此方を――アーチャーを一瞥し、
次は不覚は取りませんとだけ言い残し
遠坂を追うように部屋を出ていった。
「悪い、アーチャー。留守番頼むっ」
そして、俺はそれを追った。
783 名前: 僕はね、名無しさんなんだ [sage] 投稿日: 2007/05/21(月) 00:21:57
「お~い、待てよ」
「――何か忘れ物かしら?」
さっきまで会話していたとは思えない程
冷え切った遠坂の声。
「いや、そういうわけじゃないけどさ……」
「貴方頭がおかしいんじゃないの?
私達は敵同士だって言ったでしょ?」
苛立ちを隠す様子もなく、それどころか
敵意すら向けてこられた。
だけどそんなのは関係ない。
「遠坂が言ったんだろ?『明日』からだってさ。
まぁ俺はそんなつもりは無いけどさ。」
少しだけ意地悪く頬を緩める。
「――まったく。分かったわよ。そして
これが最後の忠告よ。
そんなに甘いと死ぬわよ」
「ああ、有難う」
諦めたように魔術師としての仮面を外す遠坂。
「それで――何?」
「いや、最近物騒だから送っていこうか
と思ってさ」
「プッ……衛宮君。それは暴漢の心配かしら?」
確かに遠坂達を襲ったりしたら、暴漢の
命の方が危ないだろうなぁ……
「でも、やっぱり女性だけってのは物騒だろ?」
「――私を女性扱いする魔術師が居ると
は思いませんでした」
「なんでさ?どう見たって……」
そう言ってライダーに視線を向けるが……正直目のやり場に困る。
「……スケベ」
ぼそりと言った遠坂の言葉が突き刺さる。
「い、いや違うんだ!変なことなんて
考えてないって!」
「焦るところが怪しいわよね、ライダー?」
今、遠坂に悪魔の尻尾が見えた気がした。
そしてライダーにも……
「ふふふ、そうですね。
特にこの辺りに視線を感じました」
そう言いながら、その白く艶めかしい太股
へと指を運ぶ。
そして少し動いただけで見えてしまいそうな
マイクロスカートよりさらに短いそれを上へと……
「わ~っ!わ~!ストップ!!」
鏡を見ないでも分かる。今俺の顔は真っ赤
になっているのだろう。
「それともこちらでしたか?」
大胆に開かれた胸元へと指を掛けると……
「――遠坂のサーヴァントは恥じらいって物が無いのかしら?ねぇ、アヴェンジャー」
12 名前: 381 ◆3WmQZKDzxM [sage] 投稿日: 2007/09/05(水) 19:51:17
「――遠坂のサーヴァントは恥じらいって物が無いのかしら?ねぇ、アヴェンジャー」
「っ!!」
そこに居たのは、陶器の様に白い肌の少女と、まるで生気を感じない死人の様な青白い少女だった。
アヴェンジャーと呼ばれた少女が発する魔力が反発じゃない。戦闘態勢に入っていないにも関わらず、だ。
正直、ランサーやアーチャーと比較しても引けをとらない。いや、それ以上かもしれない。
「――嘘。このイレギュラー桁違いじゃない……なんて化け物」
遠坂をして化け物と言わしめるサーヴァント。
目を合わせただけで心臓が止まりそうだ。それでいて心を奪われたかの如く視線を外すことが出来ない。
「初めまして、ミス遠坂。私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。アインツベルンって言えば分かるわよね」
「――アインツベルン。そう、貴方が……」
少女は優雅にスカートの端を摘み上げ、上品に頭を垂れた後に処刑宣告をした。
「それじゃサヨウナラ、ミス遠坂。残念だけど、お兄ちゃんは間に合わなかったみたいね。
それじゃ殺っちゃってアヴェンジャー♪」
ただでさえ圧倒的だった魔力が暴力的なまでに膨れ上がる。
確かにコレは化け物だ。こんなにも距離があるというのに、放出される魔力で肌が焼けるように熱い。
魔力を解放した少女の姿が一瞬だけ闇に呑まれ、先程までの年相応だった可愛らしい洋服から漆黒の甲冑へと変わっていた。
「――――ライダー、あれ何とか出来る?」
「その様な問い、サーヴァントにするものではありませんよ、凛。
相手が何者であろうと、主に勝利をもたらすのが私の役目です。――と言いたい所ですが、流石にまともに殺り合っては分が悪いですね」
見るとライダーの表情に余裕は無い。
「――お願いライダー。出来るだけ時間を稼いで。この場は引くわ」
このまま戦うにはリスクが高すぎると判断したのだろう。
「了解しました、マスター。
その前に一つだけ確認したい事が有るのですが……」
苦虫を噛み潰す様な表情でライダーの質問を促す遠坂。
「いいわよ、何?」
「時間を稼ぐのは良いのですが――――倒してしまっても構わないのでしょう?」
口元を妖しく歪め、不適に笑みを浮かべる。
遠坂はそれにつられるように、魔術師『遠坂凛』らしい笑みを浮かべた。
13 名前: 381 ◆3WmQZKDzxM [sage] 投稿日: 2007/09/05(水) 19:53:26
「えぇ、遠慮はいらないわ。ガツンと痛い目にあわせてやって、ライダー」
「はい。それではマスターの期待に応えるとしましょう」
それは恐らくライダーなりの覚悟だったのだろう。
「ほらっ、ぼさっとしてないで行くわよ! Es ist gros,(軽量、)Es ist klein(重圧)…………!!」
一呼吸で魔術を組み上げた遠坂は俺の腕を引っ張るが、当然俺はそれに付いていけるはずがない。
「ちょっ、衛宮君!?何してるのよ、早く逃げるわよ!」
「そ、そんな事言われたって、そんな難しい魔術なんて使えないぞっ!?」
「ったく、仕方ないわね、このへっぽこはっ!」
すると遠坂はこともあろうに……あれだ、所謂――――お姫様抱っこと呼称される行為を……俺にしやがった。
「なっ!?」
「喋ると舌を噛むわよっ!」
抵抗する間もなく、遠坂は駆け出した。
この速度、こりゃ間違いなく世界新を半分以下に縮めるぞ?
普通ならおかしな絵面だが、抱えてるのが遠坂ってだけで、不思議と違和感が無い。
決して抱えられてるのが俺だからでは無い……よな?
14 名前: 381 ◆3WmQZKDzxM [sage] 投稿日: 2007/09/05(水) 19:57:41
――――Interlude1-2――――
しかし参りましたね……最初の相手があんな化け物とは。
――いえ、むしろ幸運ですね。他のサーヴァントとの戦闘で、疲弊した状態で戦う事になれば万に一つも勝ち目は有り得ない。
ですが万全とは言え、正面から闘っては此方が不利。どうしましょうか……
「マスター達を追わなくても宜しいのですか、イリヤスフィール」
やはりここは定石通り、あの小さなマスターを狙うか……
「追うわよ。その前にこの生意気なの殺しちゃって、アヴェンジャー」
不愉快そうな表情を露わにし、隠そうともしない。私の先程の発言が余程気に食わなかったのでしょう。
こんな住宅街では天馬は使えませんし、出来れば『眼』は温存したいですが……おそらく使わざるを得ないでしょうね。アレは手を抜いて勝てる相手ではない。
「――了解した」
アヴェンジャーは地面を蹴り砕き、此方へと跳躍した。
――――速い。だが、それは『人間』と比べれば。サーヴァントの中では中の下と言った所だろうか。
あの魔力は見せかけ?いや、油断はしない。それよりも……アヴェンジャーは未だに武器を出していない?攻撃手段は徒手空拳?
――――違うっ! あの構えは剣だ。とっさに剣釘を盾に防ぐ。あと半瞬気付くのが遅ければ首から上が無くなっていただろう。
その防いだはずの剣戟。だが釘剣での防御などアヴェンジャーにとっては大した問題では無かったようだ。盾にした剣釘が弾き飛ばされる。まるで爆撃。いや、その表現すら生温い程の斬撃だ。
一瞬腕が消し飛ばされたかと錯覚してしまった。たった一撃で剣釘を持っていた両手の感覚が消え失る。
この破壊力に加えアヴェンジャーの獲物は不可視。厄介なことこの上無い。
だが、剣釘を盾にした事により僅かだが猶予は生まれた。
第二戟目が振るわれるまでの僅かな隙に全力で間合いを取る。
幸いにもアヴェンジャーの俊敏性はそれ程高くは無く、俊敏性に優れた私には遠く及ばない。だがあの破壊力は、それを補って有り余る。
全く以て冗談では無い。あんなモノ、掠っただけで体半分は吹き飛ばされてしまう。先程の一撃を思い出し、体中から冷や汗が吹き出る。
あの怪物じみた斬撃を何発も防げる訳がない。私は騎兵なのだ。もとより近接戦闘力はそれ程高くは無い。劣る力に力で対抗しようとするのは愚。自分には自分なりの戦い方があるのだから。
15 名前: 381 ◆3WmQZKDzxM [sage] 投稿日: 2007/09/05(水) 20:02:49
防げないならば、攻撃させなければよい。当たらなければそれまで。騎兵を名乗る我が戦術(チカラ)見せつけてあげましょう。
機動力を生かし、空間を縦横無尽に走り間合いを測る。
さぁ覚悟しなさい、イレギュラーのサーヴァント。
頃合いを見て、地を這うようにアヴェンジャーへと跳ぶ。そしてアヴェンジャーの間合いに入る直前に、高い俊敏性を生かし目の前で一気に上へと軌道を変える。
人間の目とは、左右の動きには強いが、上下には案外脆いのだ。それは元人間であるサーヴァントも同じ。
とはいえ、既に人の身を超えた存在。そんな簡単には殺れない。
上空から牽制程度に剣釘での投撃。しかし此方に視線を向ける事すらなくアヴェンジャーは剣釘を避けた。そして剣釘の軌道から私の位置を読み、反撃をしようとするが……私は既にそこに居ない。
上空を見上げたアヴェンジャーの脚に、先程放った釘剣の鎖が蛇のように絡みつく。そしてそれを力任せに上へと放り投げる。
「くっ!?」
空中では回避出来ないでしょう。
体制を整える事も出来ずに、無防備に此方へと向けられた背中へ剣釘での一撃を放つ。
「ッハァ!!」
しかしそれはアヴェンジャーから裂帛の気合いと共に放たれた爆発的な魔力により強引に弾かれた。
「っ!?なんてデタラメな……」
しかもそれは防御魔術ですらない。ただの魔力放出。
確かに今の攻撃には魔力は籠められてはいないし、武器である剣釘には強固な概念は無い。
アレだけで倒せるとは思わなかった。それでも並みのサーヴァントなら無視できない傷を与える事は出来る筈だった。最早、出鱈目と言うしか無いであろう。
「少々油断しましたね。騎兵の名を冠する貴女の力、三騎士ではないと侮った。
その非礼の詫びに全力を持ってアナタを排除しよう」
まるで猫の様に体を捻って、体制を整え着地する。
「風王結界(インビジブル・エア)」
アヴェンジャーが言霊を紡ぐとそれは起きた。魔風が解き放たれると、先程まで何も握られていないかったアヴェンジャーの手には、黒より尚深い闇のような剣が握られていた。
――――ゾクリ
あれは不味い。あの剣が姿を表した瞬間に世界が恐怖し震えだす。
先程のが真名だろうか?恐らく違う。剣の封印を解いたのだ。あれは不可視の剣などという生易しいモノではない。
16 名前: 381 ◆3WmQZKDzxM [sage] 投稿日: 2007/09/05(水) 20:09:06
どうする?相手の宝具の能力は不明。迂闊に仕掛ける訳にはいかない。だが、あの宝具を解放させるのは不味い。
しかも半端な攻撃では傷付けられないどころか、触れる事すら出来ない。手詰まりも良いところですね、全く。
とはいえ、まだ引くわけにはいかない。最低でも、もう少しだけ――十分でもいいから時間を稼がなければマスターに危険が及ぶ可能性がある。
いよいよ此処で決めなければならなくなってきた。ここで宝具の使用を躊躇えば敗北(リタイア)もありえる。
だが宝具を使用するのは、必殺の時でなければならない。自然と短剣を握る右手に力がはいる。
アヴェンジャーを確実に倒すには、眼や天馬だけではなく『アレ』も使わなくてはなりませんね……
先程からの攻防の中で、住宅街からは離れた。ベルレフォーンの使用も問題はない。
「――さぁ、懺悔は済みましたかライダー?」
「いえ、その必要はありません。私も本気を出しますから」
その言葉を聞き、アヴェンジャーのマスターの眉ぴくりと震えた。
「――――自己封印・暗黒神殿!(ブレーカー・ゴルゴーン)」
それは自分ですら制御できない、最悪の魔眼を抑える封印を解く呪文。
常時封印されている魔眼の名はキュベレイ。数ある魔眼の中でも高位……いや最高峰である石化の眼。
人間に使える魅了などとは較べるべくもない、正に悪魔の瞳。それが今、現へと解き放たれる。
「マスターっ、宝具の使用許可を!」
いち早くこの眼の凶悪さを察したアヴェンジャーが、己のマスターへと許可を求めた。
その僅かな隙が仇となり……いや、元よりこの瞳から逃れる術は無いのだが……アヴェンジャーはキュベレイの呪縛に捕らわれた。
「くっ、私の抗魔力を以てして防げぬ邪眼……一体何者」
これは驚きましたね。抗魔術を使ったわけでもなしに『重圧』だけとは。攻守において此処までとは……
ですが、これで彼方の戦力は低下した。
後はあの宝具が放たれる前に倒すのみ。
17 名前: 381 ◆3WmQZKDzxM [sage] 投稿日: 2007/09/05(水) 20:11:01
「――いいわ、アヴェンジャー。早くソイツ殺っちゃって!」
そう叫ぶと、イリヤスフィールの令呪が一つ消えた。
すると、アヴェンジャーの剣が反応する。それはまるでブラックホールが光すら飲み込むかの様。
「総てを喰らう(エクス)――――」
令呪を以て飢えを増幅された漆黒の剣が大気中のマナを枯渇させてゆく。
飢えた剣が――マナ 光 闇 空間 希望 未来 命――あらゆるモノを喰らい尽くす。
「――――暗黒の剣(カリバー)!」
そして世界は斬り裂かれた。
◎:黄金の少女
○:白き天馬:
×:赤毛の少年
※選択肢によってはDeadEnd又はサーヴァント一体脱落有り
ヒント:『世界は切り裂かれ』
投票結果
最終更新:2007年09月06日 04:31