751 名前:隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM [sage 五日目・朝:出発] 投稿日: 2007/03/15(木) 05:16:00
……何となくだが、期待されているような気がする。
イリヤとノイン、二人同時に、である。
……まいった。
いわゆるお姫様だっこを望んでいるだろう事は抱っこして欲しいといわんばかりに広げた両手とか、その仕草でわかる。
お姫様抱っこを二人同時には出来ないが、この二人なら……
「二人とも、おいで」
手を広げると二人は競うように抱きついてくる。
抱き上げて腰に手を回して、体に寄りかからせる。
……二人同時はバランスを取るのが大変だが、出来なくはないようだ。
「二人とも、バランスは大丈夫か?」
「う、うん、大丈夫……だけど」
「この子と一緒なのー?」
少しだけ二人がむくれる。
「ほらほら、仲良く仲良く、な?」
一度笑みを向けて玄関に歩き出す。
「あ、士郎の手、良い匂いするね? 果物?」
ノインは体を猫のように上手に折り曲げて手の側に顔を近づける。
「ああ、うん、蜜柑だよ」
「……士郎って実はオシャレさん?」
「いや、そういうんじゃないって」
手に付いた灯油の臭いは落とすのが大変そうだったので、軽く水と石鹸で洗った後蜜柑の皮を手で潰して臭いを誤魔化しただけである。
実際にこれは灯油をおとす時にも有効らしいというのはどこかで聞いた覚えがある。
「……なにやってんの」
玄関前の廊下に出ると、二人に即座に呆れられた。
桜は困り笑いだけだったが、名城の方は誰がどう見ても呆れていると分かる仕草だ。
片手で目元と眉間を押さえ、溜息をつき、もう片方の手は腰に当てられている。
これで呆れているのでなければどうしようもなく疲れているのだろうし、疲れていると言うことはまず無いだろう。
「いや、やって欲しそうだったから」
「ええっと……せめて靴を履かせてあげてくださいね」
桜が二人の靴を持って来て二人の小さな足に履かせていく。
イリヤの靴はいかにも高級そうな靴で、服装ともマッチしていたが、ノインの靴はあの時の服と同じくボロボロで、サイズが合っていたのが唯一の救いと言って良い程度の代物だった。
これは服と一緒に靴も買った方が良いな。
「……それから、後で私にもしてくださいね」
履かせながら、耳元で桜が小声で呟く。
……多分、それだけで済むはずはない。
期待でちょっと顔が赤くなる。
「き、期待してる」
小声で返すと、桜も赤くなった。
「……どーでもいいけどね、丸聞こえだよ?」
「そうね、ひそひそ話もこんなに近くじゃね」
二人に呆れ顔で言われた。
なんというか、『衛宮士郎』株が急下落の予感である。
玄関から出ると、日差しが強くなり始めている。
この時間はまだ涼しいが、昼過ぎくらいには温かくなりそうだ。
「それで、店とかはどうするの?」
名城が聞いてくる。
そう言えば街の案内とかは全くしなかったのだから当然といえるだろう。
「んー……新都かな、こっち側には仕立屋とかしか覚えがないし」
とは言ってみたものの、服装にそれほど拘らない質なので、服関係の店には詳しいわけではない。
作業着関連の店ならば数店舗知っているがそう言うところに連れて行かれてもひたすら困るだけだろうし。
「桜、どこか良い店知らないかな?」
「はい、任せてくださいっ!」
ぐっ、と桜がガッツポーズを見せる。
「……そういえば先輩と服を買いに行くのって初めてでしたっけ」
「んー、少なくとも覚えてる限りでは、ないなぁ……」
二人で買い物に行く時はいつも、記憶にある殆どが食料品関係だったような気がする。
そう考えると桜には悪いことをしてきているような気もする。
桜だって年頃の女性なのだし、お洒落だってしたいだろうに……うん、これからはそう言う店にも一緒に行くように心がけよう。
「それじゃ、行きましょう」
「ああ、行こうか」
歩き出す。
「よーし、Los Los Los――邪魔者を蹴散らして突撃ー!」
「いやいや、蹴散らさないって」
無邪気な少女二人を抱えて。
752 名前:隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM [sage 五日目・朝:到着] 投稿日: 2007/03/15(木) 05:18:29
小一時間ほど歩いて空気が暖かくなってきている事を実感する。
そろそろ昼時間だなと思った。
「……うわ」
そして、漸く新都の目的地に到着する。
最初の感想は場違い。
自分という存在が異物なのではないかと思うほど気合の入った、それでいて微塵も嫌味にならない装飾と照明。
来店する人々を落ち着かせ、かといって眠くならないような音楽。
店と言うよりもパーティー会場のようだと、ぼんやりと思った。
左右を見ると、目を輝かせる少女が二人。
正面を見ると、感心したように頷く女性が二人。
不思議な事に、女性という、それだけのことで途方もなくこの場所に馴染んでいるように見える。
「士郎、ちょっと下ろして」
言われてノインとイリヤを地面に下ろす。
すると二人は、申し合わせたかのように走って店内にはいると目が輝かせながら服を物色していく。
「えーっと、二人も見てきたら?」
「……先輩は行かないんですか?」
「いや、なんというか、ほら、場違いな気がして」
頬を掻きながら言う。
こういう店の雰囲気は馴染めそうもないし、思い切り普段着だしなあ……
「別に気にする事じゃ無いと思いますよ? 服を買いに来てるんですから」
「そうそう、実際買わなくてもこの服を着たらどうかなーって考えるの、誰でも良いから着飾った結果を想像したりするのも服を買うときの醍醐味よ?」
二人が後ろに回って背中を押して店内に入れようとする。
嫌というわけではないので抵抗はしないが、やっぱり入らないといけないのだろうか。
店内に視線を移せば早速試着を始めようとしている二人の姿が見え、それと一緒に――
女性ですから:あれは……美綴?
仏僧ですから:あれは、一成じゃないか
殺人鬼ですから:あれは、葛木先生だ……
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最終更新:2007年05月21日 20:00