764 名前:隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM [sage 五日目・昼:服屋にて] 投稿日: 2007/03/16(金) 04:52:21

あれは、葛木先生だ……

ばっちりと整えられたスーツで店内の一種厳粛と言っても良い雰囲気に溶け込み、平然と店内を物色し、なにやら考えているようだ。
そうこう考えている内に、二人に押されて自動ドアが開いていく。
その音に気付いたのかちらりと視線を向ける。
「衛宮に、間桐か」
騒がしくならないような、だがこちらに聞こえる程度の小声で声を掛けてくる。
後ろで背中を押していたはずの名城は、店に入ってすぐ店内に消えた。
「えーっと、こんにちは葛木先生、こんな所でどうしたんですか?」
学校での姿を見るに、服装にそう拘る事はないように思えた。
「ふむ……」
そう聞かれて腕を組む。
「仕立屋に行こうと思ったのだが、零観が『これだけ破れたのならば仕立て直すよりもここで買ってきた方がよい』と言ったのでな」
「へー、それでこの店に来たんですね」
……なるほど、勧められたからと言うことか。

しかしその言葉に、少しだけ引っかかる物があった。
以前見たことがあるが、葛木先生は途方もない武術の達人である。
それほどの人物が服に再生不能なほどのダメージを負うと言う点、そして、僅かに残る左手の傷痕。
……そして思い出すあの戦争の出来事。
巻き込まれ、瀕死の重傷を負った先生。
その先生を助けるために、自らの消失を選んだサーヴァント<<キャスター>>
救助された後に僅かに見せた後悔。
そして今回の異常。
全てが繋がりうる。

だがそれを確かめれば――
「衛宮、お前は今回の出来事、絡んでいるのか?」
――決まりだ、と思った。
「まさか……先生、『今回も』、なんですか」
「……あの時とは些か事情が違うがな」
「それって、どういうこと、なんですか」
黙ったままだった桜が、躊躇しながらも聞いた。
「最終段階になれば、動こうと考えている……望みのためにな」
そう、彼女<<ダレカ>>の為に――
「故に衛宮、間桐、夜の寺には近づくな」
――朽ちた殺人鬼は、動かねばならない。
そんなことを考え、僅かに微笑みを溢す。
「だが昼の間に来るならば歓迎しよう、寺の皆も会いたがっていたはずだ」
「は、はい……」

「しーろー」
ぶんぶんと手を振りながら、高価そうな服を何着も抱えて二人が走ってくる。
頭は混乱したままだったが、その姿を見て不安が急激に増大した。
ある程度豪華な服とはいえ、一着や二着ならば全然問題ない程度の金額は持ってきた……来月分の食費からだが。
だが少女二人の抱える服は一着や二着というレベルではない。
予想でしかないが、その総計金額、衛宮家の財政を破壊して余りある――!
「ねーね、コレなんかどうかな?」
ノインが手元の一着を広げてみせる。
視線をノインと同じ高さまで下ろして、広げた服を眺めて着込んだ姿を想像する。
フリルが山と付いたドレスのような服はアイドルそのものだったが、着込んだ姿を考えれば年齢相応で、全く違和感はないように思える。
「ああ、似合うんじゃないかな? 他のは戻して、それ試着してみたらどうだ?」
一応他は戻すように誘導する。
全部買い込んだら大変なことになるのは間違いない。
「シロウ、私のはどう、かな?」
イリヤの方は殆どドレスそのものだ。
銀糸の刺繍が鮮やかに巡らされ、それを敢えて抑える色調と、膝下程度で長さを抑えたスカートの取り合わせは、恐らくパーティー会場でも十二分に通用するだろう。
「うん、イリヤも似合いそうだよ、試着してみたらどうだ?」
ぱあっと二人の顔が華やぐ。
「それじゃ着てみるから、期待してねー?」
二人が試着室へ走っていく。
手元には先程見せなかった服を抱えたままだ。

「……お前の子か?」
「ち、違います!」
途方もなく真面目な言葉に思わず反論する。
反論しておかなければどこかであらぬ噂が立ってしまいそうな気さえする。
……いや、立ってもおかしくない我が家の環境ではあるんだけど。
「ふむ、とはいえ子を預かるならば責任は重大だ、その事は忘れるな」
そんな言葉と共にレジへと歩き出す。
見ればいつの間にかスーツを抱えている。

驚き、何かを話しかけようとしたときには、既にレジには居ない。
見れば既に店の外に歩いていってしまっていた。
相変わらず行動が早いというか、気付かれぬ間に終えてしまう人だ。
……追いかけて話す事はない、はずだ。
頭を振ってこの事実を思考から追いやる。

二人の服の試着が終わるには少し時間がかかるだろう、だから――


フリードリッヒ:外で待っていよう
アルフィーネ:店内を散策でもしているか
シグルーン:桜と服を物色しよう

投票結果

フリードリッヒ 2
アルフィーネ 0
シグルーン 5 決定

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2007年07月19日 19:11