339 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM [sage五日目・昼:岸部露伴の一日] 投稿日: 2007/04/16(月) 04:33:18
少し時間を遡り、S市杜王朝
岸部露伴は朝から事件の現場にいた。
昨日の事件も、今朝残された現場も、等しく彼にとって観察の対象である。
自宅の庭で上空の戦闘を余さずスケッチした。
これまで戦闘機の写真は手に入れることは出来ても撃墜の瞬間の写真などを入手することは出来なかった。
だが昨日の空戦のおかげで撃墜される瞬間のスケッチを残すことは出来た。
おかげでリアリティのある空中戦が描けるようになると思うと、ついつい空中戦のストーリーを考えてしまう。
「上空の空戦と、それによって生じた被害、なんてのも絵になるな」
崩れ落ちたビル街の風景をスケッチしながら、岸部露伴は三冊目のスケッチブックに手を伸ばした。
「仗助、あそこにいるの露伴先生じゃねーか?」
「ん? あー、そーだな……」
特に興味なさげに仗助は頷く。
「よーっす、先生ー! 何してんスか?」
「ん? ああ億泰に仗助じゃないか、スケッチだよ、スケッチ」
視線を一瞬だけ向けて戻し、ページを捲り鉛筆を走らせていく。
「これもマンガのネタになるんスか?」
「ああ、そうだよ、だから邪魔をしないでくれ、どーせ君達は暇つぶしだろ、僕は忙しいんだよ」
はっきりとした拒絶。
今、彼の頭の中にあるのはスケッチをすることだけだ。
「そーすか……そりゃ別にいいんスけどね……飽きないスか? そんなに描いてて」
「フン、飽きると思うかね? こんなに良いネタに出会ったばかりだというのに」
さらにページを捲り、立ち位置と体勢を僅かに変えてさらに鉛筆を走らせていく。
一枚一枚が画集の1ページに採用されそうなほどの気合いの入ったスケッチは、見る者が見れば卒倒する程の代物だ。
それを僅か一分程度で書き終える岸部露伴という男は、既に人間の域にはない。
だがそう言った方面にまるで疎い二人はそんな事実を気にする様子はない。
漫画家という人種は得てしてこんな物なのだろうという誤った認識だが、恐らく是正されることは今後もあるまい。
「ネタ、ねぇ……ま、いいっすよ、偶々見かけただけっスから、邪魔になるってんなら退散しますよ……いこーぜ、億泰」
「お、おう……じゃーまた今度ってことで」
その場から立ち去る二人に一顧だにしない。
さらにページを捲り、スケッチを続けていく。
瓦礫の山の中からバラバラ死体が発見され、事件となったのはこの僅か20分後である。
当然の如くそれもスケッチしたが、警察に見咎められ、スケッチブックを一冊丸ごと没収されることとなる。
「なー、仗助、さっきの露伴がスケッチしてたビル……やっぱりアレ関係だと思うか?」
「だろーな……ニュースだけならそーゆー『スタンド』かとも思ったけどよ、ありゃ一人のスタンドだけで出来るとは思えねーんだよな」
彼自身の視力では判別しきれなかったが、彼のクレイジー・ダイヤモンドは破壊されたビルの残骸の詳細を捉えていた。
真横から叩き付けられたかのように折れ飛んだビルと、剣かなにかを突き刺したような巨大な穴に壁面に穿たれた拳の痕跡。
それぞれ余りにも結果に違いがありすぎる。
「一対一のスタンド使いの戦いだったとしても、二つのスタンドじゃ無理そーなモンだからな……
多分、サーヴァントってヤツなんだろ、勘だけどな」
「ふーん……」
取り留めのない話をしながら、二人は住宅街へと戻っていく。
「フン……全く理解のない連中だ」
捜査車両から解放された時には岸部露伴の機嫌は途方もなく悪くなっていた。
全てを没収されることは回避できたが、さすがに死体をスケッチした物は問答無用で没収された。
「ま、良いさ……」
がりと一度頭を掻いてから、パラパラと描かれたスケッチを眺めて確かめつつ自宅へと歩き出す。
予備として最後の一枚だけ余白が残された途方もないリアリティをもって描かれたスケッチ。
それを眺める本人に自覚はまるきり無いが、そこに浮かぶ笑顔は子供が泣き出すほど邪悪に満ちている。
彼自身気付くことはないが、偶々顔を見てしまった小学生が腰を抜かして逃げ出した程である。
「……ん?」
ふと何かを感じて顔を上げる。
ネタになりそうな事態が近くにある。
彼の直感はそれを感じ取っていた。
周囲を見渡すと――
管区警察局:妙な風体の警察官を見つけた
方面機動隊:機動隊の特別警備車を見つけた
方面総監部:陸上自衛隊と書かれたトラックを見つけた
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最終更新:2007年05月21日 20:25