431 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM [sage五日目・昼:乱入] 投稿日: 2007/04/26(木) 04:53:00

常に最悪のケースを想定しろ、奴は必ずその少し斜め上を行く
冨樫義博「レベルE」


広瀬康一は巻き込まれた人間であるが、巻き込まれたその事件に立ち向かう勇気を持っている人間でもあった。
故に、早期の解決を求めて街を探索することもしたし、時に敵とも戦って、生き残ってきた。

そしてその日の昼。
だが、テレビに映った、徹底的に破壊されたビル街を見つけた瞬間、唐突に予感が走った。
「――あ」
テストの解答が一つずつずれている事に、終了5秒前に気付いたような表情をしていた。

彼と契約したサーヴァントは、現地の知識を交えてこう提案した。
「大切な人を巻き込まないためにも、この戦いの終了までは友人達との連絡は出来るだけ断つべきです」
その提案は、その前に聞かされたこの世界における魔術の大原則「神秘の隠匿」と照らし合わせて考えれば当然のように思えたから、あっさりと提案を受け入れた。

だがその映像を見た瞬間、あの人の事を思い出してしまったのだ。
岸部露伴。
あの人は、絶対に何かを巻き起こす。
「キャスターくん、お願いがあるんだけど」
その言葉に、霊体状態で隠れていたキャスターが実体化する。
「なんですか?」
「この人を探してきてくれるかな? 出来るだけ急いで」
机の上に置かれた写真を手に取り、その中の一人を指差す。
集合写真の中、一人だけ肩を組んだりもせずにポーズを付けた人物で、協調性はあまりなさそうだと言うのが第一印象だった。
「この人物がなにか?」
「うーん、言っちゃって言い物かどうなのか……トラブルメーカーなんだよね、それもこういう事件には首を突っ込むタイプの」
困ったように笑う。
そしてかつて自分が体験した話で、彼が関わった件をまとめて話す。
聞いている途中で目を見開いたり頭を掻いたり眉間を揉んだりと、一つ一つに動揺が見て取れた。
「……成る程、それは危険ですね、いろんな意味で」
聞き終えると、既にカード状の彼の武器――S2Uを展開し、窓を開けていた。
「見つけたら念話で知らせます、それまでは家に」
言い終えると同時、その姿が掻き消え、一陣の風が吹いた。


上空に飛び上がり、まず最も可能性が高いと考えられるビル街に向けて進路を取りながら、街全体に向けて探索用のスフィアを放つ。
目標を発見したときのみ連絡するタイプに術式を組み替え、逆探知されないようにしつつ探索範囲をS市全域に広げる。
視界を強化し、周辺の人物をチェックしていく。
「だとすれば……目標は自宅か?」
それならば気にすることはない、漫画家として仕事に没頭している限りに於いては何の問題も――
そこまで考えて、S2Uが反応する。
「言ってる側からこれか――仕方ない」
反応は僅かで、位置しか分かりはしないが、向かうにはそれで十分
予め確認しておいた地図によれば、反応場所は郊外の田畑が多く残る郊外、建造物だとすれば廃工場、ないし牧場の厩舎の辺り。
「詳細な情報を取得、残りの探索スフィアは休止モードへ」
連続で術式を組み上げ、当該スフィアの情報収集能力を底上げする。
「位置は廃工場、人物は一人……いや、二人? あれはサーヴァント……いや、人間なのか?」
一人は目標である岸部露伴に間違いはない。
だが、もう一人はまるで靄がかかったように実態を掴めない。
実体はあるようだが、酷く霊的だ。
「武器は拳銃、この世界の近代……いや、これは確実に現代の物だ」
厚みのある紺色のベストは間違いなく対トカレフを想定した防弾ベスト、防弾盾はジュラルミンとFRPの複合素材の物で、目にしたことがある。
紛れもなく日本警察の装備品だ。

「くっ! 始まってしまった!」
銃弾による初撃は弾けたようだが、このままでは間に合わない。
「このままでは間に合わない……」
未だ距離が遠く、また標的と護衛対象との距離は近い。
故にそこまでの決断は一瞬で済んだ。
「仕方ない……!」
スフィア情報を元にした間接照準射撃。
建造物を破壊して視界を奪い、同時に防御フィールドを展開する荒っぽく、だがこの距離から取り得る最速の、そして恐らく最良の手段。
数秒で術式を編み上げ、展開を開始する。

そして、スフィアが撃ち抜かれる岸部露伴を捉えた。
だが、それでも死んではいない。
崩れゆく瓦礫を蹴散らしながら、キャスター、クロノ・ハラオウンは突撃した。

432 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM [sage五日目・昼:岸部露伴の矜持] 投稿日: 2007/04/26(木) 04:54:08

この乱入で、恐らく標的はこちらに移ったはずだ。
突入の寸前の念話で、既に位置情報はマスターに連絡したから遠からず彼も到達するはずだ。
だからここから離脱して貰えば、彼を探し、保護するという目的は達成できる。

そこまで考えていたから、『だが断る』なんて言われる事など考えもしなかった。
相対していた『敵』もこの言葉は予想外だったようで、いつの間にか装着されていた防弾ヘルメットの奥の瞳が見開かれている。

「命が惜しくないのですか! 死んだらなんにもならないでしょう!」
敵から視線を外さぬままに怒りをぶつける。
「この岸部露伴が命惜しさにこんな面白そうなネタを見逃すと思っているのかァ―――ッ!!」
一喝する。
「ぼくは『読んでもらうため』にマンガを描いている! 『読んでもらうため』ただそれだけのためだ!」
震える手で鉛筆を握り、スケッチを始めている。
自分自身のことで気になるのは、血糊がページ上に落ちることだけ。
命の危険だとか、怪我をしているとか、そんなことは気にすることではない。
「僕は今! 一つの『傑作』の種を手にしようとしているんだぞッ! そんなことを気にしていられるかッ!」
この言葉で、完全に説得を諦めた。
正直な所、彼という人間を見誤っていたのだと考えざるをえなかった。
マスターである彼から聞いた話は殆どが主観から来る思い込み、その類だと思っていたのだ。
だが、全くもって話の通りの人物であったことには素直に驚いた。
本来命を賭けることから縁遠いはずのこの国で、命を賭けている人物なのだと、尊敬の念すら抱いた。


タンネンベルグ:「命の保証は、できませんからね」それだけ言って、意識から彼の存在を消した。
プノンマライ:「……そっちはただの一般人だったか」ぽつりと男が呟いた。

投票結果

タンネンベルグ:5 決定
プノンマライ:4

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最終更新:2007年05月21日 20:26