725 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM [sage 五日目・夕:ちょっとだけクロス] 投稿日: 2007/05/20(日) 04:57:51

確かに美味い。
個人的に口直しとして餡のない尾の部分を食べていたのだが、これは尾まで餡が入っているのが感触で分かる。
だがその事を全く気にせず次の一個を食べられる事を実感する。
僅かに甘みを抑え、更に全体に餡を配している事によるものだろうか。
こういう鯛焼きもあるのかと感心した。
「ところでこの鯛焼き、どうしたんだ? 労働の報酬だって聞いたけど」
二口目に取りかかる前に、何故これほどの鯛焼きを手に入れたのか聞いてみることにする。

「ふむ、まあ、考えてみれば吹聴するようなことでもないのだが……食い逃げ少女を捕まえた」
曰く、ある用事の途中で商店街に赴いたところ、人手不足から帳簿付けの手伝いを頼まれたという。
「商店街には檀家の方々も居るので無碍には出来ないし、俺の用件はあくまで私事だったからな」
それ以上に近所づきあいは大事だ、と一人納得している。
正直、寺における『近所』の範囲がどれほどの物かは不明だが、商店街ほどの位置にあっても近所なのだという。
「それにしても食い逃げか……また珍しい物だな」
身の半分ほどを食べた氷室が言う。
「正確には食い逃げとは違うのだが……状況からそう考えても無理のない状況だったのだ、とはいえ……」
所持金の確認を忘れて飲食等を行った場合、払うつもりであったがたまたま持ち合わせがなかったのであり、当事者が逃亡せずに店側に支払いについて相談するのが普通であるので、詐欺罪には当たらない。
なんて説明はあったが、要するに己の所持金分を超えて購入してしまい、混乱して逃亡した、と言うことらしい。
「……俺自身もその少女を追うために一時職務を中断してしまったわけで、少女が商店街に迷惑をかけてた事は否めんがな」
追いかけて職務を止めた自分が言うことでもないが、と一成は続けるが、その場合は仕方ないのではないだろうか。
「それで、どうなったんだ?」
「うむ、足はそう速くなかったのですぐに捕まえられたのだが、それとほぼ時を同じくして友人達らしき人に声をかけられたのでな、事情を説明したら平謝りされた」
その情景を思い出しているのか、目を閉じて笑う。
「……そんなに面白かったのか?」
どうにも面白さを共有できない。
一成が笑い話を話すのが苦手なのか、もしくは笑い話の笑い所を理解することが苦手なのか、多分両方だろう。
「いや、そう言うわけではないのだが、その人達の反応が少し微笑ましかっただけだ」
「微笑ましかったって……平謝りされたのがか?」
どうにも微笑ましい平謝りというのは想像が付かないが。
「その少女が財布を忘れてパニックになるのは良くあることらしくてな、謝っては居たのだがその後で『またか』という会話があってな、それがどうにも笑えた」
そう言われても、その面白さは理解しきれるものではなかった。
例えるならばその面白さというのは『人がゴミのようだ!』とか『目がー! 目がぁー!』のような代物だったのだろう、あれは実際に見聞きしなければ分からない。
「……ともかく、その後に金を払いに行かせたのだが、鯛焼き屋の店主が剛毅な方でな。
 きっちりと払いに戻ってきたのならば何も問わん、のみならず今焼いてあるヤツを全部持って行けなどと仰ってな」
「……それでもらってきたのか?」
「ああ、さすがに全部は食えぬし荷物にもなる、なら貴方も食うかねと言われてな」
「……ちなみにその人達はどの位持って行ったんだ?」
なんとなく、この答えは分かる気がするが。
「ああ……そうだな、一人当たりこれの三分の一と言ったところか」
「それは焼きすぎて処分に困ってただけだろ」
その言葉に全員が頷いた。

726 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM [sage 五日目・夕:一成離脱] 投稿日: 2007/05/20(日) 04:58:47

……話の面白さは分からなかったが、鯛焼きは実に美味い。
結局全員でほぼ全てを平らげてしまった。
「こんなに食べるとあとが心配です……せっかく体重減ったのに……」
美味しさでついつい我を忘れて食べてしまった桜が沈んでいる。
「確かに、夕飯要らないかも……」
遠坂は遠坂でテーブルに足を突っ込んだまま後ろに倒れ込んで伸びをする。
「ふふん、甘いですわねミストオサカ、いついかなる時も余裕と気品を持たねば貴人とは言えませんわ」
「貴方も食べた量は大して変わらないと思ったけど、余裕あるわね……」
「私、常に自制していますもの、貴方と違って浪費癖もございませんしー」
「む、聞き捨てならないわね、仕方ないでしょう……アレは研究のためなんだから」
危うく魔術のことに話が飛びそうになったことに気付いたのか、ギリギリで踏みとどまった。

とはいえ、実際どうするべきか……時計を見ればいつもの夕食の時間まで2~3時間と言うところだろう。
一度満腹になれば2~3時間でどうにかなる物ではないし、かといって食べない、と言う選択肢はないよな。
何人かは夕食のことも考えて抑えて食べていたようだし、藤ねえも戻ってくるかも知れない。
戻ってきて「今日は断食でござる」なんてなったら多分殴られる。

……さて、何を作るか考えねば。
ライダーのもらってきた魚も新鮮な内に調理しておきたいが、刺身や照り焼きは残すと少々問題がある。
おっと、それから冷蔵庫に野菜も余ってたよな、これもちゃんと消費しておかないといけない。
……とすれば、少し時期は外れるが鍋物なんてどうだろうか?
アレなら残ってもうどんの汁に出来るし、個人個人で食べる量も調整できるな。

「おっと……もうこんな時間か、すまんな衛宮、今日はお暇させてもらおう」
柱時計に視線を移して一成が立ち上がる。
「もう帰るのか? 日はまだ結構高いぞ」
まさかこんな時間に帰らないと門限がどうこうと言うわけではないだろう。
「ああ、私事があると言ったろう? 今日の内に済ましておきたいのでな」
「ん、そうか、ならば送ろう」

「しかし、本当にすまんな衛宮、あれだけ食べさせたら夕飯に支障もでるだろう」
玄関で靴を履きながら一成がそんなことを口にした。
「まあ別に気にする事じゃない、おかげで夕飯に何を作るか決めたからな、時期は少し外れるが鍋物だ」
「ふむ、そうか、残しても問題のないものに決めたのか……」
寺でもそう言うことをやっているのか、すぐに思い当たったらしい。
「ああ、だから別に支障はないから、気にしなくて良いぞ」
「うむ、そうか、今日はルヴィア殿という仲間も出来たし、迷惑もかけずに済んだか……良い日だな」
どうやら、少し居ない間に対遠坂という点で意気投合したらしい。
「ではまたな、衛宮」


ルーメン:「ところで一成、さっき言ってた私事って、この辺りでする用件なのか?」帰る前にそんなことを口にした
カンデラ:「士郎、ちょっと良い?」一成が立ち去ったのを見計らったようなタイミングで遠坂が声をかけてきた
ステラジアン:「衛宮、少し良いか?」居間に戻ろうとして振り返ると氷室が立っていた

投票結果

ルーメン:5 決定
カンデラ:2
ステラジアン:3

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最終更新:2007年05月21日 20:36