325 名前: ◆CC0Zm79P5c [sage] 投稿日: 2007/06/28(木) 04:02:24
――気付けばそこには『夜』があった。
その『夜』は少し特別だ。
まず月がない。星々も瞬かない。おまけに電灯もないから、足下を確認することも出来ない。
そして普通の夜は日没からだけど、俺の傍に在る奴はいつからかやってきてずっと離れなかった。
出来れば、どうにかして振り払いたい。でも、そんなことは不可能だって心の隅でこっそり諦めている。
だから、遠野志貴の周りは、ずっと暗い。
居心地は悪くない。だが良くもない。
それは例えるのなら、そう――独りで人気のない屋上に長時間居続ければ、きっとこんな気分にもなるのだろう。
隔絶された心地。それはおかしな力を持つ自分だからこそ安堵できる状況。
だけど、安堵と享楽は違うから。
結局、いくら変な目を持っていたって、他の部分が人のままじゃ脆弱だ。
独りぼっちに寂しさを感じる時もあるし、無様に嗚咽を漏らすこともある。
そういうわけで、遠野志貴は一生、死んだようにこの暗闇の中で暮らすしかないのかも知れない。
――遠野志貴の人生は、少しだけ非凡である。
幼い頃酷い事故に遭い、死ぬほどの重傷を負った。
幸いにして一命はとりとめたものの、退院してすぐに実家から縁切りされた。
実家である遠野という家は、遠野グループという財閥じみた団体の宗主である。
だからこそ、その当主はしっかりとしたものでなくてはならなかった。
病み上がりで慢性的な立ちくらみを持つような少年では、不適切だったのだ。
だから遠野志貴は生還に感動されず、ただ体調が不安定ということで勘当された。
そのこと自体は、それほどその後の遠野志貴に影響を及ぼさなかったと思う。
いや、及ぼしたのだろうが。それでも遠野の当主として育てられた自分というのは想像できないし、心的外傷も残さなかった。
だけどそれは、自分が特別聞き分けの良い子供だったというわけではないだろう。
小さな波は大きな波に打ち消されてしまう。勘当という出来事では、同時期に遠野志貴を襲った波に打ち勝てなかった。
事故に遭って意識が戻ってから、遠野志貴の両目は狂っている。
奇妙な目。医学では解明できなかった、有り得ざる現象を宿したそれは――
【選択肢】
敗残者:森羅万象、あらゆる『死』が見える魔眼である。
臆病者:なにかわからないけど、とても不気味な線が見える。
ろくでなし:説明をしたところで、邪気眼を持たぬ者には分からぬだろう……
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最終更新:2008年10月25日 16:34