848 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/09/01(金) 00:02:56
無理だ、この空間に氷室を連れてくるのは無理だ……!
中の連中に気付かれないように、今度はゆっくりと引き下がる。
幸い、中にいる四人はセイバーの気迫に飲まれて――あのライダーすらも――、オレに気づいた様子はない。
「一旦、俺の部屋に連れて行くしかないか……」
そろりそろりと、廊下を逆に辿って玄関まで。
それにしても最近、家の中だというのに移動に気を使うことが多いなぁ。
玄関まで引き返すと、そこでは先ほどと同じ姿勢で待つ氷室の姿があった。
「待たせたな、氷室」
「む、もういいのか?」
俺を見て、片付けは終わったのか、と訊いてくる氷室。
まあ実際は片付けなどしていないのだが。
「ああ。……実はさ、今ちょっと客間も兼ねてる居間が家族で使われてて。
しばらく使えそうに無いんだ」
「そうなのか?」
「うん、それで悪いんだが、話は俺の部屋でってことでいいか?」
……良く考えたら、俺の部屋なら他の住人に聞かれないだろうし、割とベストな選択なんじゃないか?
俺がそんなことを考えながら、氷室にそう提案すると……。
なんか、氷室が絶句してる。
「……っ!? …………!?」
言葉も出ないらしい。
何でこのタイミングで氷室が固まるのか。
何であんな熟したトマトみたいな赤い顔をしてるのか。
それも凄い勢いで。
額に汗を滲ませて、早まるな、一度踏み込めば二度と拒めぬわ、という修羅の如き葛藤。
というか本当にどうしたんだ氷室、顔の赤さが尋常じゃないぞ。
もしかして嫌なのか。
この木と土で築百年ぐらい経過して切継が住み着いたあげく
現在俺の家今後もマスターの駆け込み寺みたいなこの家に入るのが嫌だというのか。
だとしたらまずい。
氷室もまずいが俺にしてもまずい。
あの指輪、絶対危険な何かが含まれてる。
そうでなければあの神秘の説明が出来ない。
「……どうしたんだ?
ここで立ってても話できないだろ。中に入れよ」
とにかく氷室を中へ誘う。
「……………………」
用心しながら……いや、氷室がナニを用心しているのか俺には解らないが……ともかく用心しながら俺を窺う氷室。
「――――――――――」
じっと氷室の様子を観察する。
……おかしい。
氷室の顔が更に赤くなっていく。
氷室、一体どうしたって言うんだ……と、喉を鳴らした時、不意に氷室が顔を上げた。
「――――――――――――」
「――――――――――――」
視線が合う。
氷室鐘は、相変わらず赤い顔で俺を見つめて。
「するつもり、なのか――――?」
「は?」
よくわからないことを、口にした。
853 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/09/01(金) 00:26:19
「するつもりって、なにがさ」
「いや、だから、え、衛宮の部屋でその、なにをするつもりなのだ、と……!」
「なにを、って」
それは学校で既に言ったはずなのだが。
氷室に個人的な話がある、と言って俺の家に招待して、そのまま俺の部屋に案内しようと――――ちょっと待て。
氷室を……?
俺の部屋……に?
連れ込んで……?
「あ」
わかった。
俺わかっちゃいました、紳士。
これは俗に言う、『お持ち帰り』という奴ではないでしょうか?
――多分大正解です紳士。
「ど、どどどどどどどどぉっ!?」
脳内紳士協議を開いてる場合じゃない!
話は俺の部屋で、だとぉ!?
な、なにを言ってるんだ俺は!?
「ちちちちち違うぞ氷室、待て、誤解が、それはとんでもない誤解が!!」
「な、なにが誤解だというのだ、衛宮某! 女子をここまで連れ込んできて、何か申し開きがあるとでも言うのか!?」
自分の肩を抱いて一歩後ずさる氷室。
いや、確かに言い訳の余地は限りなく零に近いけど!
自分でもこりゃあかんわって意見が濃厚だけど!
「俺は単純に、氷室と話したいことがあるってだけだ! 特に他意はない!!」
「う、嘘を……」
「居間には家族もいるって言ったろ!?
俺の家、古い造りだからさ、部屋でそんなことしたら他の家族にばれるって!
だからやましいことは絶対ないから!」
おお、口からでまかせの割には信憑性のあることが言えてるぞ俺!
俺の言い訳に一理あると思ったのか、氷室が――それでも半信半疑そうに――恐る恐る尋ねてくる。
「……本当に、話をしたいだけなのか?」
「本当の本当だ。
もし氷室にやましいことをしたら、俺はゼロカウントで藤ねえに殺される」
身内から犯罪者が出ることも、俺自身が犯罪者兼被害者になるのも断じて御免被る。
俺が戸を開けて手招きすると、氷室はようやく、といった感じで俺の家の仕切りをまたいでくれた。
855 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/09/01(金) 00:28:30
「――――そうか。
だが衛宮、今後はそういう物言いはやめたほうがいいぞ。
その、色々と誤解を招くからな」
「わかった、気をつける」
全力で頷く。
こんな発言を遠坂あたりに聞かれたら、一生モノの貸しが作れてしまう。
彫刻刀で掘り刻むように、しっかりと肝に銘じながら、氷室に先導して部屋まで案内する。
「本当にその気はないと見るべきなのか……まあ、衛宮だからな……」
途中、後ろで氷室がなにか言ってた気がするが、小声だったのでよく聞こえなかった。
程なく俺の部屋へ辿りつく。
「ここが俺の部屋。何もないけど、まあ座ってくれ」
「ふむ。……本当に何もないな」
俺の部屋を見渡して、正直な感想を述べてくれる氷室。
言葉の通り、俺の部屋は基本的に物が少ない。
これでも最近はライダーに借りた本をしまうための本棚とかが増えたのだが……それはおいておこう。
押入れから座布団を引っ張り出すと、それを氷室へ勧める。
と、居間が占拠されているために台所が使えないことを思い出した。
「悪い、居間を家族に占領されてるせいで茶の用意もできないんだ」
「そうか。実を言えば少し期待していたのだが」
「すまん」
俺が謝ると、氷室はかすかに笑って見せた。
もしかして、今のは冗談だったのか……?
「いいさ。……では早速本題、ということでいいのかな、衛宮?
私と二人っきりでしたい話とは、一体なんなのだ?」
いつものペースを取り戻したのか、氷室の会話は間をおかずに進展する。
そうだ、色々と誤解を招きかねない言動を弄してここまで氷室を連れてきたのも、全ては氷室に尋ねたい事があったからなのだ。
俺は氷室の正面、向かい合うような位置で座ると、一度大きく深呼吸をした。
さて、果たしてどう尋ねてみればいいのだろうか……?
α:「その薔薇の指輪、どうしたんだ?」と軽く尋ねてみる。
β:「最近、なにか変わったことがなかったか?」と少し突っ込んでみる。
γ:「薔薇乙女《ローゼンメイデン》って知ってるか?」と核心を突いてみる。
δ:「実は俺もミーディアムなんだ」と一気にカミングアウトしてみる。
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最終更新:2006年09月03日 18:43