873 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/09/01(金) 01:33:56


 いきなり「氷室、薔薇乙女《ローゼンメイデン》のミーディアムだよな?」などと尋ねるのはまずいだろう。
 まずは当たり障りのない質問を装って問い尋ねていくことにする。

「その前に、一ついいか? その薔薇の指輪、どうしたんだ?」

「……む。これのことか」

 俺が尋ねると、氷室は左手を目の高さまで持ち上げて、その指を広げて見せた。
 薬指に嵌められた、薔薇の意匠の指輪が鈍く光る。

「ああ。氷室はそういうのしてるってイメージじゃなかったから」

「なに、以前蒔につき合わされて覗いたアクセサリーショップで見つけてな。
 蒔と店員に勧められてつい買ってしまったのだ」

 よどみなく、すらすらと答える。
 流石は氷室、あらかじめ質問された時の答えは用意していたのだろう。
 だが、それは逆に言えば、指輪がなんであるかを知っている、ということ。
 つまり、氷室は薔薇の指輪の意味を理解している――!

「つい買ってしまったとはいえ、自分でもなかなか気に入っていたんだが」

 左手をひらひら動かして、いろいろな角度から指輪を確認する氷室。
 不意に、その手をぴたりと止めると、こちらを覗きこむような目で見てくる。

「……私がこういう指輪を嵌めているのは不釣合いだ、と衛宮は言うわけだな」

874 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/09/01(金) 01:35:07


「えっ……!?」

 薔薇の指輪のことを考えていたところに、氷室からのいきなりの不意打ち……!
 拗ねたように半眼で睨んでくる氷室。
 その姿は、なんというか……不謹慎かもしれないが、とても可愛い、と思ってしまった。

「えっ、あ、いやっ、そんなことはないぞっ。ええっと……」

 慌てて否定してみるものの、なんと言えばいいものやら。

 ――未熟者め、女性の身に付けている物はとりもなおさず褒めるのがマナーだ。

 はっ!?
 今、俺の脳裏に英国紳士のお告げがっ!
 と、とりあえず思ったことをそのまま口に出してみることにする。

「その、銀の薔薇ってのも、派手すぎないで落ち着いた感じで、氷室に良く似合ってると思うぞ!
 お、俺は好きだな、うん!」

 ……こうですか? わかりません!
 俺の脊髄反射の褒め言葉に、氷室は一瞬きょとんとしたが、

「………………そ、そうか。一応、褒め言葉だと思っておく」

 と、なんだか嬉しそうな照れくさそうな、曖昧な顔をして頷いた。

 ……ええと、多分成功したんだと思いますけど、むしろ会話がし辛くなりましたよ紳士?
 てゆーか、今のお告げはひょっとして英国ではなくイタリア男子の口説き講座では?

「…………………………」

「…………………………」

 俺と氷室の間に、思い沈黙が横たわった。
 氷室のほうは、俺から話を切り出すだろうと思っているんだろうし、俺のほうはどう質問するべきか言い悩んでいる。

 ううむ、やはりもうちょっと突っ込んだ質問をしてみるべきか……?
 そう思いつつも、なかなか言い出せずに氷室から視線をそらす。
 ……と。

「……ん?」

 視線の先。
 何気なく目を向けた場所で、おかしなものを見つけてしまった。


α:氷室の指輪がうっすらと、異様な赤い光を放っていた。
β:開かれた窓の外から、黒い羽根が舞い込んできた。
γ:氷室の背後、ふすまの隙間でツインテールが揺れていた。

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最終更新:2006年09月03日 18:44