590 名前: はじめてのさーう゛ぁんと(仮) ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2007/07/15(日) 22:45:44
その技、遠を穿ち:『犬』『猪』の二つの漢字が浮かんだ。
『犬』と『猪』。
いぬと、い。
乾。
「って駄洒落かよ!?」
思わず自分で突っ込んじまう。
しかしまあ、これで思い出せた。
俺の名前は乾 有彦。どこにでもいるナイスガイな愛の伝導師だ。
「――ふぅ。やっと思い出せたのか? いつまで待たせるつもりだ?」
と、急に背中から声をかけられる。振り向いてみると、女の子が立っていた。
……正直、綺麗だった。
身長は俺の胸ぐらい、体付きは豊かとは言えないが、バランスが無茶苦茶良い。
透き通るような短い銀髪。
人形のように白い、滑らかな肌。
淡く光る、紅い瞳。
全体的に色素が薄いんだろう、そのせいか目の前の女の子が、今にも消えてしまいそうに感じちまう。
結論。
「よー、そこの君。ちょっと俺と付き合わない?」
申し込み。
「断る」
即断。
「ちぇっ……まあ良いか。お前は誰だ? ここはどこだ? 俺はどうしてここにいるんだ?」
「順番に答えよう。まず私のことだが、私に名前はない。ただ役割があるだけ。 答えを知り、答えを出す者。便宜上、『解答者〈〈アンサラー〉〉』とでもしておこうか」
そう言って、目の前の女の子――アンサラーちゃん、で良いのか?――は、ちょこん、とお辞儀をした。
「ふーん。アンサラーちゃんか。よろしく」
俺はアンサラーちゃんの頭をぽんぽん、と撫でた。
俺の手を振り払うことなく、アンサラーちゃんは解答を続ける。
「そしてここは英霊の座。行き着いた場所。林檎の島。アヴァロン。呼び方は色々あるが、要は『英霊を住まわせる場所』ということだ。
英霊……は分かるか? 死してなお語り継がれるような偉業、異業〈〈いぎょう〉〉を成し遂げた人物が、死後に昇華し、人間を越えた存在になる……これが英霊だ」
「待ってくれ。どうしてここはオフィス街なんだ? 見たところ俺が生きていた場所と変わらないように思うけど。ここは『英霊を住まわせる場所』なんだろ?」
「お前には『おふぃすガイ』とやらに見えているのか? ここは、その英霊の思いのあり様でいくらでも変わる世界だ。ある者はかつての祖国に見え、ある者には星屑の中に見える。かく言う私には、ここは草原に見える。
最初に来た者は大抵、かつて住んでいた街や仕事場に見えるそうだが」
かつて住んでいた街や仕事場……ってことは、
「げー。俺、ふっつーなリーマン何てやってたってことか?」
「そうとは限らんが、そうかも知れんな」
どっちですか。
「そして、お前がココにいる理由は……話さなくても大丈夫そうだな」
「あぁ、おっけーおっけー。俺も英霊なんだろ?」
そういうことだ、とアンサラーちゃんは少し微笑んだ。ヤバいです。ナニかに目覚めそうです。
まあ、閑話休題。
「で、だ。俺に何の用?」
「ほぅ。以外に切れるんだな」
アンサラーちゃんは、出来の良い生徒を誉める先生のような目で、俺を見る。
何故だかこっ恥ずかしくなり、視線を逸らしてさらに続ける。
「だってよ、アンサラーちゃんがここにいる、ってのがおかしいんだ。アンサラーちゃんの役割は『答えを知り、答えを出す』だろ? んでもって、ここはただの英霊の溜り場。
アンサラーちゃんは『誰の答えを知り』、『誰に答えを出す』のか。そこまで考えたら、答えは一つだろ?」
一息で言って、アンサラーちゃんの顔を見る。
その顔は、はっきり言って綺麗だった。
――寒気を、感じるぐらい。
「単刀直入に言おう。『望み』を叶える気はないか?」
591 名前: はじめてのさーう゛ぁんと(仮) ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2007/07/15(日) 22:46:55
望みと言うと、あれですか? 何でも良いってやつですか? 今の俺の一番の望みは……。
「俺と付き合わない?」
アンサラーちゃんの手を握り、『望み』を言ってみる。
「断る。と言うか、私の言った『望み』とはそういうことではない。もっとちゃんと言った方が良いか?
――お前は、『運命』を変える気はないか?」
「『運命』? なんのことだ――」
ジジッ。
「!?」
また、頭痛がする。ノイズが走る。擦り切れたビデオのように、途切れ途切れの映像がフラッシュバックする。
――夜の闇。
対峙する二人の男。
向こうの手にはナイフ。
閃く銀光。
ぶすり、という音。
心臓に突き立った――
ドガッ!!!!
硬く握り締めた拳を、自分のあごにお見舞いする!
目の前に火花が散ったが、おかげで嫌な映像は鳴りを潜めた。
「はぁ! はぁ! はぁ!」
歩道に寝っ転がり、この数瞬で荒れた息を整える。
「もう一度聞く。『運命』を変えたくはないか?」
逆さまに、アンサラーちゃんが映る。その顔は酷く冷淡で、妖艶で、慈悲深かった。
「本当に、変えることができるのか?」
「無論だ。お前に、その意思があるのならば、な」
その顔を直視しながら、俺は、アンサラーちゃんに『答え』る。
「――ああ。変える。変えて見せる」
言った瞬間、視界が闇に染まった。
さっきも味わった浮遊感。だが、上に引っ張られているのか、下に落ちているのか、平行に歪んでいるのか。判断が全くつかない。
数秒か、数分か、数時間か。時間間隔の失せた状態で、やがて小さな光が見えた。
その光を見た瞬間、理解した。
――これが始まりで、終わりなのだと。
どのような形でも、これは始まりで。
どのような形でも、これで終わる。
やがて、小さかった光が拳大になり、バスケボール大になり、視界一杯になって――
――視界が開けたそこには、
子:胸を血で染めた少年が、呆然としていた。
丑:怒ったツインテールが、ぷりぷりしていた。
寅:蟲が張りついた女性が、虚ろにしていた。
卯:ほにゃっ娘(+黒豹、女史)が、びっくりしていた。
辰:わかめが、漂っていた。
巳:眼鏡をかけた少年が、倒れていた。
午:三つ編みミニスカ少女が、見つめていた。
未:白猫が、飛びついてきた。
申:竹箒を持った少女が、鍋をかき混ぜていた。
酉:トランクを持った赤髪の女性が、蹴り飛ばしてきた。
戌:法衣の少女が、戦っていた。
亥:……一般人?
投票結果
- 子 0
- 丑 1
- 寅 0
- 卯 4
- 辰 5 決定
- 巳 0
- 午 0
- 未 1
- 申 0
- 酉 2
- 戌 1
- 亥 0
最終更新:2007年07月16日 23:21