798 名前: はじめてのさーう゛ぁんと ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2007/07/27(金) 23:45:43

徘徊:クソガキに呼び出され、夜の街へ。





 正直、気が乗らなかった。
 夜の街へ行くということは、こういうことになるからだ。

 ドサッ。

 何か、荷物が落ちるかのような、重い音。分かってる、荷物じゃない、人だ。人が倒れる音だ。
 憐れな小羊は、その小羊としての役割を十二分に演じていた。すなわち――生け贄。

 ジュル、ジュルジュル。グビリ。

 ライダーさんに血を吸われ、ぐったりとしたその人影。俺はそいつの顔と名前を知っている。

 美綴。

「全く、人が下手に出てれば付け上がりやがって、このメスブタが! メスブタはメスブタらしく僕に跪《ひざまず》いて、体と魔力を差し出せば良いんだよ!!」

 ぴくりともしない美綴に対して、何度も何度も罵詈雑言を浴びせ、思い出したかのように頬を叩く。

「ほらアーチャー! お前もぼさっとしてないでこいつの魔力を奪え!」

 クソガキの叱責に、俺はゆっくり美綴に歩み寄る。動かなければ、魔力が抜け出てしまうから。
 聞こえるはずもないのに、悪い、と小さく呟いて、一瞬だけ口付ける。ほんの少しだけ、魔力が流れ込んでくる。

「……何やってるんだよ。さっさと奪えよ!」
「もう取った。つーか、その前にライダーさんが血ぃ吸ってるんだ。これ以上無くしたら、死んじまう」
「いいから奪え……! ……そっか、なるほど。要は生きていれば良いんだな?」

 クソガキは、薄気味悪い笑顔を浮かべる。

「おい、ライダー。こいつを家に運んでおけ。客間じゃないぞ? ……『地下』にだ」
「待て。何のつもりだ?」
「んん? 僕はお前の意見を取り入れてやったんだがね」

 クソガキの言いたいことが分からない。
 だが、次の奴の言葉で、俺は怒りを爆発させた。



「家で『飼って』、少しずつ魔力を奪うんだよ」



 OK。ちょっと顔《つら》貸せ。形が変わるまで殴ってやる。
 右拳を握り締め振りかぶり、クソガキの顔面に叩き込む。

「ぐぎゃんっ!」

 情けない悲鳴を上げて吹き飛んだクソガキに、さらに追い打ちをかけようと一歩踏み出す。だが、その瞬間。

 バヂバヂバヂィッ!!!!

「ぐあっ!?」

 青白い電光が、体を這いずり回る。同時に、風船から空気が抜けるように、魔力が放出されていく。

「くっ! ……あ、あ、あ」

 たまらず膝をつき、うずくまる。
 消えていく。俺を構成している重要なものが、消えていく。消える。消滅する。何も無くなる。楽しいことも辛いことも、嬉しいことも悲しいことも失われる。失われる、ということさえ奪われる。無。有限。限りが有るから、人は生きそれは尊い。無限こそ真理有限こそ宝玉。消えるのは恐い、無くなるのは恐い、殺されるのは、また殺されるのは恐い……。恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い!

 ゴガン!

 突然蹴り上げられた頭が、トビそうになっていた思考を取り戻す。

「よくも……よくもよくもよくも貴様ぁ!!」

 ドガッ、ドゴッ、ドゴッ。

 続け様に、踏み付けられる。
799 名前: はじめてのさーう゛ぁんと ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2007/07/27(金) 23:46:36

「やろ……くっ!」

 反撃しようと立ち上がるが、途端に襲い掛かる痛みと脱力感。なすがままに踏み付けられる。

「この……!!」

 足が振り上げられ、振り下ろされる瞬間。俺とクソガキの間に、割り込む影が一つ。

「シンジ。」

 ライダーさん。

「シンジ。彼女を運びます」
「ライダーさん……!?」
「……ああ、そうしてくれ」

 興が削がれたように、一歩離れるクソガキ。
 ライダーさんは、哀れみと嘲りが混ざった視線をこちらに向け、美綴を背負って闇に消えた。

「ふんっ。ほら、行くぞ。お前の分の魔力補給がまだだからな」

 すたすたと、一人で先を歩いてしまう。動けるような状態ではなかったが、意に反して体はクソガキを追い掛けていた。

「さっさとしろよ、このグズが。大体お前はサーヴァントのくせに生意気なんだ。僕はマスターなんだぞ? それを……」
「――! 待て、クソガキ」

 背筋があわ立つような感覚に、俺は足を止めた。

「誰がクソガキ……っ痛!?」

 クソガキが、左手を押さえる。
 ――令呪を、押さえる。

「いるぞ。敵の――マスターと、サーヴァントだ」

 視線の先、坂の上。

 そこには、初めて出会う、『敵』の姿があった――。





   【特別ルール】
【今回は、サーヴァント群かマスター群、どちらか一つに投票してください】
【スペードとブラックジャック、というような投票は無効とします】

サーヴァント群
スペード:剣士を従えた――
ダイヤ:槍兵を率いた――
クラブ:巨人を携えた――
ハート:マジカルステッキ(宝石仕様)を持った――

マスター群
ポーカー:――赤毛の、切り返しのシャツを着た少年がいた。
ブラックジャック:――ツインテールの、赤いコートを羽織った少女がいた。
ダウト:――銀髪の、お姫さまみたいな少女がいた。

投票結果

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最終更新:2007年07月28日 15:23