4 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/08/06(月) 23:43:17
「――っ、そうだ、アーチャーだ!!」
思い出した。
真紅と薔薇水晶が対峙していた時、後からやってきたアーチャーがそんなことをほのめかしていた。
思い出せ……あの時、確かにヤツは真紅の力を借りずにnのフィールドに現れた。
そのことを真紅に訊かれた時、一体なんと言っていた?
――実世界とは異なる世界に埋没する手段があったのでね。
そこから君とのパスラインを頼りにこちらへ侵入してきただけのことだ――
うん、アーチャーは確かそう言っていたはずだ。
アーチャーが為し得る、実世界とは異なる世界への埋没……となると、思い当たる方法は一つしかない。
「アレ、のことだよな」
固有結界、『無限の剣製《アンリミテッド・ブレイドワークス》』。
俺が使える魔術、その源流に当たるもの。
いつも使っている『強化』も『投影』も、全てこの魔術から派生し、変化したものに過ぎないんだとかなんとか。
自分のことながら、直感的には理解しているんだが、理屈としてはよくわかっていなかったりする。
ただ、固有結界というのは、現実世界を自己の内面世界で塗りつぶす大魔術なんだそうだ。
それは逆に言えば、自分とその周囲を内面世界に引きずり込む魔術だ、とも言える。
なるほど、アーチャーは現実世界から自分の内面世界を介して、nのフィールド……無意識の流れ込む空間へ進入したわけか。
アーチャーは真紅とのパスラインを辿って、と言っていたが……それに関しては大丈夫だろう、俺と水銀燈の契約はまだ残っているわけだし。
問題は、俺の力量。
俺の力だけで固有結界という内面世界から、nのフィールドに渡る事が出来るのか、ということだが……。
「やってみるしかない、か」
となると、まずは場所を選ばないとな。
俺は踵を返し、ひとまず家へと引き返すことにした。
やるからには、成功率が一番高い、いつもの練習場所がいいだろう。
5 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/08/06(月) 23:44:13
家に戻ってきた俺は、まっすぐに土蔵に向かった。
やはり、俺が魔術を使うのに一番適しているのはこの土蔵だろう。
力を込めて土蔵の扉を開き、薄暗い闇の中へ足を踏み入れる。
周囲に散乱した様々なガラクタ。
そして、中央に一つだけしっかりと建てられた姿見の鏡。
ひんやりとした空気が篭る土蔵の中を、窓から差し込む光だけが浮かび上がらせる。
……そういえば、水銀燈が出入りするのに便利だからと開けて以来、窓はずっと開けっ放しだったっけ。
念のために土蔵の中を見渡してみるが……退屈そうに脚をぶらぶらさせている、小さい人影を見つけることは出来なかった。
「やっぱり帰ってきてないか」
まあ、それほど期待していたわけでもないし、落胆はしないけど。
「さて……やるか、そろそろ」
土蔵の床、姿見の正面に立つ。
目の前には、鏡に映った自分の顔。
しっかりと、鏡の中の自分と手を合わせる。
……ここが、こちらとあちらの境界線だ。
大きく深呼吸を一度したあと、目を閉じて……撃鉄を、起こした。
「――I am the bone of my sword.《体は 剣で 出来ている》」
その言葉を皮切りに、一言一言に力を込めながら呪文を紡いでいく。
その目的は、固有結界で世界を塗り替えることではない。
あくまで、俺が固有結界に埋没するため。
その上で、自分の無意識に進入するわけだから、言ってみれば自覚的に夢を見ようとしているようなものだ。
「――I have no regrets. This is the onlu path.《ならば、我が生涯に意味は不要ず》」
炎が広がる。
目を開けなくてもわかる、今この瞬間、俺は俺の心象風景の中に立っている。
それは、生きるものの気配が無い、赤く拓けた剣の丘だ。
「――My whole life was "unlimited blade works"《この体は、無限の剣で出来ていた》」
目を閉じたままイメージする。
今、俺の目の前には、剣の丘で唯一つの異物――大きな姿見が立てられている。
それに触れる手の指先から、だんだんと――鏡面の硬い感触が波打ち、たゆたい、沈み込んでいく。
ありえないという常識を超えるほどのイメージを膨らませていく。
そう、これは夢。夢の中ならば、どんなことも受け入れられる。
ゆっくりと鏡の中に沈んでいく俺の体。
完全に沈みきったとき……俺は、nのフィールドに進入したことを知覚した。
目を開けると、そこは――
α:幾多の扉が浮かんでいる空間。そこで兎が待っていた。
β:幾千幾万と積み重ねられた残骸の山。そこで知ラナイ誰カが待っていた。
γ:どこか知らない異国の街。そこで人形師の男の噂を聞いた。
投票結果
最終更新:2007年08月07日 22:45