347 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/08/16(木) 15:37:00


 ――そこは、見た事も無い光景だった。

 目の前に堆くそびえる奇怪な山。
 単一ではなく、多数の不揃いな部品が積み上げられて出来上がったオブジェ。
 積み上げられているのは、死体……いや、違う。
 人のようでヒトでないモノ。
 獣のようで、ケモノになりきれていないモノ。
 それをなんと形容するべきか……いずれにしろ、そもそも生き物じゃないモノが、死体になる道理はない。
 ならば、あそこに幾千幾万と積み重ねられたモノは、死体ではなく……残骸。
 そのオブジェの正体は、恐ろしくもおぞましい、残骸の山だった。

 ――繰り返すが、そこは見た事も無い光景だった。
 はっきりと断言出来る。
 俺はこんな残骸の山を、今まで見た事無い。
 だと言うのに、俺はこの地獄のような光景を…………。

「――はぁ?
 おいおい、冗談だろ?
 なんで、オマエが此処を『知ってる』んだよ?」

「っ!?」

 その声に、弾かれたように振り返る。
 俺の背後、残骸の山とは反対側に、一人の男が立っていた。
 いつからそこに立っていたのだろうか……全身にくまなく刺青を施した、とても奇妙な恰好をした男は、嫌いな食べ物を出された子どものような顔で俺のことを見ていた。
 男の第一印象を一言で言うなら……有り得ない。
 理由はわからない。
 何が有り得ないのか、なぜそんな印象を抱くのか。
 ただ、頭の中の俺の知らない記憶が、この男との出会いが不吉であることを叫んでいた。

「誰だ……俺のことを知ってるのか?
 生憎、俺はそっちの顔に見覚えが無いんだが」

 警戒しながら……無論、最大レベルでの警戒、いつでも投影が使えるように身構えながら……尋ねる。
 すると男は、左手を額に当て、馬鹿にしたような口調で言った。

「質問したのはこっちが先なんだけどな。
 俺が誰かって?
 このツラを見て、見覚えが無いなんて本気で言ってるのか?」

 顔?
 まじまじと、刺青だらけで真っ黒になっている顔を見つめる。
 そう言われてみれば、男の顔は、どこかで見たことがあるような…………あ!?

「まさか……アーチャー!?」

「……すげえな。
 そこでそういうボケをするかよ。
 意表を突かれた反面、こんなのがオレのかぶったカラなのかって思うと、ショックで軽く死ねそうだ」

 ただでさえ半眼だった男の目が、より一層細められる。
 オレの被ったカラ?
 一体なんのことだ?

「まあいいや。
 良く考えりゃ、そもそも、オレとお前がこんな姿で出会うなんて有り得ないんだしな。
 わからないほうが都合がいい」

 腕を組んで、うんうんと頷く男。
 よくわからないが、男は一人でなにやら納得したらしい。

348 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/08/16(木) 15:38:40


「納得するのは勝手だけど……結局なんなんだよ、お前」

「何って、サーヴァントだよ。
 復讐者《アヴェンジャー》のサーヴァント」

「サーヴァント……アヴェンジャー!?」

 有り得ない名前に驚愕する。
 聖杯戦争で呼び出されたサーヴァントの中には、そんなクラスは無かったはずだ。
 だが……俺はどこかで、その名前を聞いたことがあるような……。
 それを思い出すよりも早く、アヴェンジャーと名乗った男が口を開いた。

「それよりオマエ、こっちの質問にも答えろって。
 なんでこんなところに潜り込んじまってるんだよ。
 オマエはこんなところは知らないハズだろ?」

「……そんなこと、わからない。
 俺はただ、人を探しに来ただけで……」

「なんだ、だったら見当違いだ。
 オマエが何を探しているにしろ、ここにはなんにもありゃしねぇよ。
 しかし、こうして出会っちまった以上はなぁ……」

 面白く無さそうに、頭を掻き毟るアヴェンジャー。
 どうやら、俺がコイツの存在に戸惑っているように、コイツも俺のことを持て余しているようだ。
 やがて、頭を上げたアヴェンジャーは、挨拶を告げるような軽い口調で、こう提案した。

「んー、とりあえず、殺しあっておくか?」

「は?」

 ぽかんとする俺を尻目に、アヴェンジャーは、いきなり何かを取り出して両手に構えた。
 それは、歪な形をした、赤黒く染まった奇怪な刃。
 見たことの無い武器だが、それでも殺傷能力は十二分にあることは良くわかる。

「って、おい、ちょっと待て!
 今あったばかりのヤツと殺しあう理由なんて、俺にはないぞ!?」

「そうかい。
 オレにとっちゃ、殺さない理由も特に無いんだけどな。
 他にやることも、特に思いつかないし。
 どうする? 抵抗するなら構わないぜ?
 それとも、おとなしく死んどくか?」

 挑発とも取れる、意味深な台詞を吐くアヴェンジャー。
 俺としては、そんな訳のわからない動機で戦うなんて、まっぴら御免なのだが……。
 そのとき、俺の目にとまったのは……


α:アヴェンジャーの両手に提げられた、奇怪な形をした武器。
β:アヴェンジャーの左手の薬指に嵌められた、薔薇の指輪。
γ:アヴェンジャーの左手に嵌められた、焦げてボロボロになった革手袋。

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最終更新:2007年08月17日 02:56