30 名前: はじめてのさーう゛ぁんと ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2007/08/07(火) 21:09:08

友人邂逅:「遠坂!? 慎二も!?」少年の、驚いた声が聞こえた。





「遠坂!? 慎二も!?」

 少年の、驚いた声。そこには、いつか見た、強い意志の目を持った少年がいた――。



   【interlude】

『マトウ』。
 俺は、矢が残したメッセージの意味を、捉え切れずにいた。

(普通に考えるなら。三枝達を襲った犯人を教えるために残した、だな)

 しかし、この考えに、俺は首を横に振った。

(犯人が『マトウ』――間桐だとするなら、慎二か、桜か……どちらにしろ、人を襲うとは考えられない)

 ぐるぐると、思考が空回る。さっきから、同じことを考え、色々な結論を出して、そのたびに反論をしている。これでは考えている意味がない。

「――先輩?」

 気持ちを切り替えようとしたタイミングで、隣から少女の声が聞こえた。
 見るとそこには、薄紫色の長い髪を持った、後輩がいた。

「桜? どうしたんだ」

 間桐 桜。親友の妹で、弓道部の後輩。とは言っても、俺はすでに部活を辞めているのだが。
 その桜が、隣で心配そうに立っていた。

「どうかしてるのは先輩の方です。鮭、焦げちゃいますよ?」
「え!?」

 そう言えば、料理の途中だった! 急いでグリルを引き出して、鮭の焼け具合を見る!!

 …………。

 俺が茫然としていると、桜はくすくすと笑って、

「嘘です。先輩、さっき引っ繰り返したばかりですよ?」

 まだ焼けてすらいない鮭を指差した。
 そこでようやく、からかわれたのだと分かった。

「全く……師匠をからかうとは、とんだ弟子だな」
「えへへ……ごめんなさい」

 桜はちろっ、と舌を出して謝る。その仕草に、俺は赤面して視線を外した。

「じゃあ先輩、私はお皿を出しますね」
「あ、ああ、頼む」

 桜は食器棚から皿を取り出して、コタツへと運んでいった。

「それと。お魚、本当に焦がしたら駄目ですよ?」
「――はい。」



「いやー、おいしかったー。さっすが士郎だね☆」

 結局少し焦げてしまった焼き鮭だったが、我が家の欠食児童――という年でもないが――、藤村 大河こと藤ねえには気にならなかったらしい。さすが虎。
 俺達は食後のお茶を啜《すす》りながら、まったりとしていた。

「ほらほら士郎ー。ミカンがあるよー」

 言いながら、藤ねえはコタツの上のミカンを、一つ二つ三つと、目の前に置いていく。
 そのミカンは藤ねえが大量に持ってきた物で、まだ段ボールに二箱ほどの量があるのだった。

「いや、俺はもう今日のノルマ分は食べたから。桜に渡してくれ」

 藤ねえから渡された分を、そのまま隣の桜へと回す。

「あ――」
「む。士郎」

 桜が困った声を、藤ねえが怒った声を出す。俺はすぐに、その理由に思い当たった。
 桜は、生の果物が食べられないのだった。

「えっと……すまん」
「いえ、いいんです……悪いのは私何ですから」
「いや、そんなことはないぞ、うん」

31 名前: はじめてのさーう゛ぁんと ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2007/08/07(火) 21:09:58


 どうにも気まずい空気が流れる。

「あ! そうだ!」

 この空気をどうにか打破しようと回転した脳は、ある事柄を思い出した。
 立ち上がり、冷蔵庫へと向かう。開けたのは冷凍室。そこから目当ての物を取り出し、皿に盛って桜の前に置く。

「先輩? これは……?」
「冷凍ミカン。これならいけるだろ?」

 要は、生でなければいいのだ。桜のために冷凍しておいたミカンを出した。
 しかも、食べやすいように実を一房一房に分けてから冷凍してあるのだ。気分的には、チョコならダ○ス、アイスならピ○。

「あ、ありがとうございます」
「それにしても、どうして生が駄目なんだろうな。こっちも美味いぞ?」

 もう一個ミカンを剥き、一房差し出しながら聞いてみる。

「それは……」
「む。士郎、誰にだって言いたくないことはあるし、できないことだってあるのよ。無理強いしちゃ駄目」

 藤ねえが珍しく、教師っぽいことを言う。

「もしそれで、桜ちゃんが倒れちゃったらどう責任取るつもり? むしろ取らなきゃ駄目なのよ。責任取れよ!!」
「何で最後キレてんだよ!? 何ギレだよ!?」

 気のせいだった。

「私食べます! そして話します!」
「桜もノらなくていいから! そんな真っ青な顔してノらなくていいから!」

 桜の顔は青ざめ、瞳孔は拡大し、息は浅く早い。そこまでして藤ねえに付き合わなくても。

「っと。そーだ。私、そろそろ帰らないと」
「え? あ、私も」

 不意に立ち上がった藤ねえに合わせて、桜も立ち上がる。ちなみに、それぞれのミカンはすでに消費されている。

「桜ちゃん、最近物騒だから士郎に送ってもらいなよ」
「え?! でも、」
「いいのいいの。士郎だって男の子なんだから、桜ちゃんを守ってくれるって」
「本当に大丈夫ですから!」

 わたわたと、逃げるように玄関に向かう桜。て言うか藤ねえ。本人を無視して話を進めようとするな。

「……まあ、確かに物騒だしな。送るくらいなら構わないけど」
「大丈夫です。私、こう見えても逃げ足は速いんです」

 えっへん。と胸を張る桜。しかし、その突き出た胸が邪魔をして、走りにくいのでは……?

「はっ!?」
「? どうしたんですか、先輩」
「何でもない! き、気を付けて帰れ!」

 自分の想像に赤面して、背中を向けて居間へと向かう。

「はい。お邪魔しました」
「じゃーねー。士郎ー」

 玄関の戸が二度鳴り、静かになった。

 さて、俺は――。





送り狼:唐突な閃き。「『マトウ』のメッセージは、次に狙う奴を宣言していたんだよ!!」な、何だってー。
パトロール:食器を洗って一息ついて、「――よし。見回りに行くか」木刀片手によいこらせ。

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最終更新:2007年08月08日 18:50