367 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/08/17(金) 14:17:52


 俺の目にとまったのは、アヴェンジャーの左手。
 そこに嵌められた、焦げてボロボロになった革手袋だった。

「…………?」

 なんだろう、あの手袋がやけに引っかかる。
 不自然だから……あんなに焼け焦げているものを後生大事に使っているからか?
 いや、そうじゃなくて、もっと別の……既視感のようなもの。
 どこかで見覚えがあっただろうか……俺の周りに革手袋を使ってる人間なんて……あ、居た。
 俺の脳裡に、革手袋を愛用しているある女性の姿が浮かんだ。
 しかも何の符号か、あの人がいつも嵌めてるのも左手だったな。
 さて、これは一体どういうことなんだろうか……?

「……あのさ、一つだけ質問したいんだけど」

「あ? なんだよ、今から殺されるってのに随分余裕じゃねぇか。
 冥土の土産に教えてやろう、ってやつを期待してるのか?
 オレはそんな負けフラグ立てるつもりは無ぇぞ?」

「いや、そんなつもりは無いけどさ。
 聞きたいことってのは、その……」

 根拠も薄く、ほとんど当て推量だけれど。
 俺は、思いついた推測を口にした。

「お前、バゼットの知り合いか?」

「はぁ?」

 一瞬、怪訝そうに眉をひそめるアヴェンジャー。
 だが、次の瞬間には、悩むそぶりすら見せずに、

「あぁそうだな、確かに深~い仲だな、バゼットとは」

 堂々と臆面無く言い切りました。
 ……なんと。
 知り合いじゃないかとは思っていたが、まさかそこまでだったとは。
 いや、俺はバゼットのプライベートにはノータッチの立場でありますが、まさかあのバゼットにそんな浮いた話があったなんて、正直驚きを隠せません。
 ……もちろん、どこまで本当か分かったもんじゃないけど。

「けど、それはそれ、これはこれだ。
 オレがオマエを殺すのを、止める理由にはならないぜ?」

「いや、どうだろ……バゼットの知り合いだって言うなら、止めといたほうがいいと思うぞ」

 構わず続行しようとするアヴェンジャーを、片手を伸ばして制止する俺。
 加害者に対してやんわりと諭す被害者、という構図はなかなか珍しいかもしれない。
 あまりにも余裕綽々な俺の態度に、アヴェンジャーは軽く興味を持ったようだ。

「……へぇ。
 面白ぇ、聞かせてもらおうじゃねぇか。
 一体どんな理由で、オレはオマエを殺せないんだ?」

「大したことじゃないけど。
 最近、バゼットが新しい仕事を見つけたってのは知ってるだろ?」

「あん? それがどうしたって……」

 それは、生死を分ける局面においては、あまりにも不似合いな言葉。
 だが、バゼットを知っている人間なら、これで通じるはず。

「あそこは俺のバイト先でもあるんだ。
 ……俺がいなくなったら、バゼットのフォローできる人間がいなくなるぞ。
 いいのか? また玄関開けたら二秒で粉砕、とかになっても」

「うわ、そりゃマズイなぁ」

 聞いたかバゼット、即答で納得されたぞ。

「オレ的にはすっげぇ面白そうではあるんだが。
 でも、マスターの矜持のためなら、やむを得ず矛を収める従順な俺。
 良かったな小僧、オレが忠義に厚いサーヴァントで」

 白々しく言いながら、両手の凶器をおさめるアヴェンジャー。
 忠義に厚いかどうかはともかく、コイツが話の通じるヤツで助かった。

「ひひひ、しかし、バゼットを働かせるために死ねない、か。
 まあ確かに、バゼットの働いてるのを指差して笑うまでは死ねないよなぁ!」

 ゲラゲラ笑う黒いサーヴァント。
 ……いいのかなぁ、陰口はいつどこから本人の耳に入るかわかんないのに。
 どうやらこの男、負けフラグは回避するくせに死亡フラグはしっかり立てる体質らしい。

368 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/08/17(金) 14:18:58


「――さて、オレはオマエを殺すのを止めたわけだが」

 ひとしきり笑った後、アヴェンジャーは一転して真面目な声で言った。

「『アイツ』にとっちゃ、そんなもんは関係ない。
 ……じきに、外の世界でも日が暮れる。
 そうなる前に、この場所からとっとと出てけ」

「……『アイツ』?」

「気がついてなかったのか?
 コレだよ、コレ」

 ひらひらとこれ見よがしに振って見せる左手。
 破れた革手袋の隙間から覗いて見える、あれは……薔薇の指輪!

「……っ!
 そうか……アーチャーやキャスターが言っていたのはそういうことか!!」

 夜の新都に近づくなという忠告。
 好戦的なドールの存在。
 ミーディアムたるサーヴァント。
 つまり……この、第八のサーヴァントが、薔薇水晶のミーディアム……!

「アイツはミーディアムにも容赦ないぜー。
 止めようにも、オレも立場弱いしな」

 ……なぜ鏡の中でしか会えないのか、コイツが一体なんなのか、という疑問は残るものの、どうやら間違い無さそうだ。
 ならば、俺は……。



α:この場所から立ち去る。
β:この場所に留まる。

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最終更新:2007年08月17日 19:32