397 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/08/18(土) 23:24:59
この場から立ち去るべきだ。
アヴェンジャーの言うとおり、この場所には何も無い。
ここは何者にもなりえなかった残骸だけがある、空虚な廃棄場。
これ以上留まっていても、時間の浪費にしかならないだろう。
「そうだな。長居してもしょうがないし、忠告に従うよ」
「そうしとけ。
なにせ、肝心のドールがいないのに、ミーディアムだけ殺されてちゃ、情けないにも程があるからな」
「……なんのことだ?」
ギクリ、と体が硬直しかけたが、かろうじてとぼける事が出来た。
相手がアリスゲーム参加者である以上、こちらからバラす訳にはいかない。
だが、アヴェンジャーは呆れたように溜息をついた。
「あのな、普通、このnのフィールドに入るにはドールの力が必要なんだぜ?
それをわざわざ一人で来てるって時点で、もうバレバレだろうが」
……なるほど、それもそうか。
ドールと一緒に入れるならば、それに越したことは無い。
なのに一人でいるということは、そうしなければならない事情があると言っているようなものだ。
「それが分かった上で、見逃してくれるのか?」
「そうだよ、だからもう行きやがれ。
オレが見に行くまでは、バゼットがクビにさせるなよ?」
ほれ、とアヴェンジャーが指差すと、俺とアヴェンジャーの間に、剥き出しの鏡が現れた。
空中で固定されたように静止している、恐らくこれが出口なんだろう。
「……努力はする。
でも、また会うことってあるのかな?」
見れば、アヴェンジャーは既に、俺に背を向けて立ち去ろうとしていた。
振り返ることもせず、そのまま手だけ振って応じている。
「さぁな。
少なくとも、nのフィールドじゃなきゃ会えないんじゃねぇか?
ま、会ってもあんまりいいこと無さそうだけどな」
そう言って、アヴェンジャーは闇の中に消えていった。
……つかみどころの無い奴だったけど……あれが薔薇水晶のミーディアム、か。
「……あれ、待てよ?」
あいつ、『一人でnのフィールドにいるのは、ドールがいない証拠だ』って言ってたけど、それはあっちも同じはずだよな?
なんでアヴェンジャーは、一人でこんな場所にいたんだろう……?
「うーん……考えるのは後にするか」
それより、今は急がないと。
アヴェンジャーは、外の世界ではそろそろ日没だ、と言っていた。
nのフィールドの中では時間の流れがどうなっているのか分からないが、確かに俺が潜り始めた時間を考えればもう夕方になっていてもおかしくない。
「早く探さないと……みんなに心配かけるかもしれない」
俺は再び鏡に手を合わせ、意識を集中させはじめた。
俺が次に辿り着いた場所、そこは――
α:幾多の扉が浮かんでいる空間。そこで兎が待っていた。
β:どこか知らない異国の街。そこで人形師の男の話を聞いた。
γ:――Interlude side 1st Doll
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最終更新:2007年08月19日 15:59