407 名前: D two×three×four ◆cCdWxdhReU [sage] 投稿日: 2007/08/19(日) 00:52:22
ある女子生徒の視界に、銀色が掠める。
ああ、綺麗だなあ。何とは無しにそう思って、目で追った。
追った先には、何も無かった。
あれ?おかしいな‥‥見間違いだろうか。
見間違い?いや、そもそも『何を見間違うというんだろう。』
『見るものなんて何も無かったじゃないか。』
自分は何故視線をそらしたか、小さな疑問を抱きながら校門をくぐる。
今日は少し早めについてしまった。何をして時間をつぶそうか。
遅刻がちな恋人に、起きているかどうか確認のメールでも送ってみようか。
もしかしたら、それがモーニングコールになるかも知れない。
女子生徒は、口元で笑いながら階段を上る。
穂群原、何時も通りの一日が始まる。
そして、衛宮士郎にとっても今日は、何時も通りの一日だった。
朝、何時もと同じ時間に起き、同じ時間に学校に来た。
同じように授業を受け、同じように昼飯を食べた。
すべては何時も通りだった。
否、何時もと何処かずれていた。
家族同然の後輩が、急に無理を言って数日前から我が家に泊り込んでいた。
誠実という言葉をそのまま人間にしたような学友が、授業中に転寝をしていた。
それだけではない。小さな違和感。つまづき。疑問。
通常を異常にしない程度に散りばめられた異変の数々。
誰にも気付かせず。
誰も気付かず。
何時も通りに日が暮れる。夕焼けだけは、紛れも無く。何時も通りに赤かったと言えるだろう。
その日最後、そして最大の異変に。
唯一。
衛宮士郎は気付いてしまった。
夕焼けに照らされた無人の校舎と、校庭にただ一人佇む影と
猛スピードで走る軽自動車。
唸る、車体。
「‥‥‥はぁっ?!」
408 名前: D two×three×four ◆cCdWxdhReU [sage] 投稿日: 2007/08/19(日) 01:10:35
驚いたのはまず一つ、ブレーキをかける風の無い自動車の速度にだった。
次に一つ。その自動車が、眼前に立つ人間に向かってまっすぐに走っている事だった。
もう一つ、その明らかな『異常』に。
『一歩踏み出して手を伸ばせばふれられる』。そんな距離になるまで気がつかなかった事、だった。
「危ない!」
危険を判断する。全身が逃げろと叫ぶ。
車が向かう先は自分ではない。身動ぎ一つで避けられるかもしれない。
危険を判断する。大声で逃げろと叫ぶ。
一歩踏み出してとどくならば、一歩踏み出すのが衛宮士郎という少年だ。
危ない、危ない、危ない、危ない。
幸い、『突き飛ばせば、助かるかもしれない。』
彼にわかる事は、『目の前に居る男性の身が危ない』。だから、助ける。
ただそれだけを考えて、逃げたがる全身に力を入れて、
右斜め前に手を。触れた肩を思い切り押した。
びくともしなかった。
(あれ?)
作用は無く、状況を変えられるほどの反作用も無く。
結果衛宮士郎ともう一人は、迫る車の直線上に二人で並ぶ羽目になる。
すわ、車が減速した。と衛宮士郎は思った。此れならば避けられる。
しかし足が動かない。手が動かない。肺が、空気が、状況が動かない。
ならばと結論付けるに、つまり『減速した』のではない。
『自分の脳が加速した』のだ。
溢れるのは絶望以前に諦め。次は走馬灯でも見ろっていうのかよ、畜生。
ゆっくりとだが車は近づき‥‥それ以上の速さで、男の目がこちらを向いた。
先生、人間の眼筋って、時速何キロぐらいで動くんですか?
ああすみません質問を変えます。表情筋。表情筋はどのくらいで?
いやね、すっごい驚いた顔しているんですよ彼。例えて言うと『お前なんで居んの?』みたいな顔。
それだけじゃないですよ、その後すぐに渋い顔に戻って、片足踏ん張って。
俺を突き飛ばすんですよ。
車がゆっくり動いてるって言うのに、この人だけ等速。
なんでさ?
409 名前: D two×three×four ◆cCdWxdhReU [sage] 投稿日: 2007/08/19(日) 01:11:52
簡単だった。つまり、この男が速いのだ。とんでもなく。
その証拠に押された右胸が、
とんでもなく痛いじゃないかちょっとお前コラふざけんなコレアバラの一本や二本折れてるんじゃねえの?
顔を上げた。
男は、左腕で自分を突き飛ばし。
右手で車を受け止め。
受け止めきれず。
血が。血が、血が、降る。俺にだ。真っ赤。え?
「あんた。お逃げンさい、死にたかァないでしょう。」
無論です。
起き上がるや否や全速力で校門へとダッシュ。肺が痛い。主に右。空気が吸えない。
畜生、あんたが手加減しないからだ。マジありがとうございます助かりました。
一度も振り返らずに校門を抜ける。
―――――ギィギャギャギャギャギャ‥‥キィッ
ターンだな。強引な。
まっすぐ俺たちのほうに向かってきた車がUターンする。
って事は?追ってきてるのか。俺を。なんでさ!!!
死にたくない死にたくない死にたくない‥‥俺は
みきり:全速力で家に帰った。ら、土蔵を残して全壊していた。
はっしゃで:全速力で遠坂の家に逃げ込んだ。ら、地下室を残して全壊していた。
ごめんなさい。:全速力で後輩の家に逃げ込んだ。ら、慎二を残して全壊していた。
投票結果
最終更新:2007年08月19日 15:59