646 名前: Fateサスペンス劇場 ◆7hlrIIlK1U [sage] 投稿日: 2006/08/13(日) 01:15:07

「入った―――!」

 人間、あきらめずに頑張れば何でもできるものだ。だけど、まさかこうも上手くいくとは思わなかった。大きめのを選んだとはいえ、トランクにルヴィアがすっぽり入ってしまったのだから。

「んー! ぅんーー!」

 抗議するようにガタガタ揺れるが気にしない。一本だけはみ出たドリルはちょっとしたお茶目だ。これならチケットがなくても飛行機に乗れる。イリヤに招待されてなくても島に渡れるというナイスアイディア。我ながら素晴らしい冴えっぷりである。かくして俺は、ルヴィアの入ってるトランクを転がしながら、意気揚々と遠坂の待ってる空港のロービーに向かうのだった。

「あれ、ルヴィアは?」
「帰ったよ。見送りも程々でいいでしょう、って」
「ふーん。で、そのトランクは?」

 なんか、あからさまに不振の目で見つめてくる遠坂。やたらとトランクをじろじろ見てくるものだから、ばれやしないかと気が気ではない。

「ああこれ? ルヴィアからイリヤ達へのお土産。向こうで食べるものとか、色々とな」
「へー。……ねえ、本当に食べていいわけ?」

 食べる、という単語に反応して、ガタガタガタッと暴れるルヴィア。もといトランク。この状況で遠坂の口から食べる、なんて言われると、なぜかアインツベルンの森でセイバーを押し倒した彼女が脳裏に浮かぶ。……そんな展開は嫌いじゃないっていうか、むしろ機会があったら俺もまぜてくれると嬉しいと思います。

「まあ、それはそうとして、衛宮君?」
「おう」
「キャンセル待ち、今ならまだ間に合うけど?」
「……おう」
「イリヤも、事情を話せば歓迎してくれると思わない?」
「…………そうかもな」
「女の子のからだはとってもデリケートなんだけど」
「肝に銘じます」

 遠坂の、全く噛み合ってないのに的確すぎる指摘が心に痛い。トランクもガタガタと賛同する。これじゃまるで俺が悪役じゃないか。そりゃ、こんな手段しか思い付かなかったのはあれだけど、だけど俺だって一生懸命―――。

「無能な働き者は処刑するしかないって言葉も―――」
「―――ちょっとトイレいってきます」
「ええ、ごゆっくりー」

 遠坂の不吉すぎる台詞を遮って、ルヴィア入りトランクを回収する俺だった。キャンセル待ち、急がないとな。



「お兄ちゃーん!」
「先輩っ、お久しぶりです!」

 飛行機と船を乗り継いで、ようやく辿り着いたアインツベルンの島はまさに楽園だった。ぬけるような空に青い海。白い砂浜と壮大なサンゴ礁に囲まれた島は、すがすがしい風と豊かな緑に覆われている。先に辿り着いていたイリヤと桜に迎えられて、それだけで俺は幸せになれた。

「泳ごう! ねえ、シロウ。まずは泳ごうよ」
「だめですよ、イリヤさん。着いたばかりで先輩達は疲れているんですから。ほら先輩、早くコテージに来て下さい。歓迎のお料理、腕によりをかけちゃいました」

 そうだな。まずは―――。

一、泳ぐさ!
二、食べるさ!

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最終更新:2006年09月04日 16:34