539 名前: D two×three×four  ◆cCdWxdhReU [sage] 投稿日: 2007/08/21(火) 23:35:49

ワカメ「ねんがんの サーヴァントを てにいれたぞ!」:聖杯戦争への復帰です。シンジ、安心してください。一瞬で事は済む。



嗚呼、言うが早いか慎二の右腕が宙を舞う。
それを軽やかなステップでキャッチし、着地。
一連の動作は『目で追うことすら出来なかった。』

「マキリの後継者は『出来損ない』と聞きました。回路は凡人に色がついた程度、戦闘魔術は矮小で脆弱。
とてもじゃないが聖杯戦争で生き残れる人材ではないと。
ならば、私が下手に出れば協力者になり得る。そう考えて出向いたのですが‥‥‥
なるほど、既に『協力者を作っていた』。魔術師に魔術師の『友人』がいるなどレアケースですが、
気心知れた仲ならば、私のようなどこの馬の骨とも知れない危険因子を抱え込む必要が無い。」

片腕の女性が、切断された腕を玩具のように弄びながら話す。
これは弁明なのか?判断できない。
先から次々と起こる異常の中で、腕がもげるなど死に比べれば軽度のアクシデント。
しかし。
慎二は俺の親友だ。
慎二は俺の日常だ。
慎二は、慎二は‥‥‥

状況は動き、脳が凍る。
不思議だ。自分の命が脅かされた時は、まったく逆に動いた時間が。

「強行手段に出るほか無いと判断しました。
誤解しないで欲しい。何も命を奪うつもりは無いのです。
シンジ、速やかに教会へと向かいなさい、腕のいい医師が居ます。その血が流れきる前に」
「か‥‥」
「シンジ?」

鋭利な刃物で切断された傷ではない。
恐らくそれは拳打。鋼すら砕き得る純粋な破壊。
その衝撃で、いわば『弾けた』二の腕。穿った穴が腕より大きければ、千切れる結果になる。
どう言う事かというとだ。
血はとめどなく流れる。痛々しい慎二の『爆ぜた肩口』と、バゼットの持つ『肘より先』。

慎二は、癒えぬ傷を負った。あの慎二の腕は、もう慎二に繋がらない。
そう、これより先、俺が出会う慎二は。
右の肩より先が、もう無いのだ。

540 名前: D two×three×four  ◆cCdWxdhReU [sage] 投稿日: 2007/08/21(火) 23:36:46

『そんなことは無いのに』、思い出の中の慎二までがその右腕を失う。
笑い、時に怒り、いなす度たちの悪い腹の立て方をする俺の親友が。
――――なあ衛宮ぁ。僕の右腕、無くなっちゃったよ――――

酷い目眩に自覚する。俺は今、まったく冷静では無い。

「返せ。」
「はい?」

慎二がふらりと前へ出る。最早全身殆ど、血に染まっている。
そうだよ、慎二の右腕を返してやれよ。

「返せ返せ返せ返せよッ!!」
「無理な相談です。」

無理なもんか。奪ったんだから返せ。そうするべきだ。
慎二が怒り狂っている。当然だ。右腕を奪われた。
慎二の右腕を返してやれよ。

「僕のだ、それが無きゃあ‥‥僕の。かえせ。ぼくのだ、ぼくの」

慎二の右腕を返してやれよ。


間桐邸の残骸から、無数の蟲が湧き出でる。
羽のあるもの、爪のあるもの、牙のあるもの、毒を持つもの、
小さなそれらが群れを成しバゼットに踊りかかり、
そしてまるで、その群れの長の如く。空中から突如姿を現した紅の巨体が、
漂う血の匂いに身を震わせて、鋭い牙を数度打ち鳴らす。

「ウウゥウウウウウ‥‥‥ア゛ア‥‥‥」

その時俺にはわからなかったが、それは――――慎二が。マキリの後継者たる間桐慎二が、
聖杯戦争に臨むに当たり、マキリを勝利へ導くため召還した――――サーヴァントだった。
低い唸り声。『元』主人の意を酌むように、その赤い獣もまた、バゼットへと襲い掛かり‥‥‥

541 名前: D two×three×four  ◆cCdWxdhReU [sage] 投稿日: 2007/08/21(火) 23:38:08

悲惨。
蟲どもの半分は、その矛先を獣へと向けた。

慎二の奴もまた、まったく冷静では無いのだ。
自分よりずっと格上の魔術師と相対しているのに、その攻撃は余りに稚拙。
流れる血と共に減り続ける決して多くは無い魔力の全てで、
蟲を生み出しては『襲え』という単調な命令をしているに過ぎない。
だから蟲達は襲い掛かる。バゼットに。そして『突如現れた獣』に。

壮絶な自滅だった。紅い獣はバゼットへと突進を繰り返す。その度群がる蟲を踏み潰した。
バゼットは獣の愚直な突進を素早くかわす。結果バゼットへ向かう蟲どもは、其処へ飛び込んできた獣へと噛み付く。
数度繰り返し。
蟲の殆どは獣によって容易く砕かれ、獣は『蟲刺され』を痒くも無いとばかりに尾を揺らす。
突進はしない。
今バゼットを噛み殺さんとするならば、主を巻き込む結果になるからだ。

「拾える命を捨てるのですか、マキリシンジ。」
バゼットは唯一つの傷すら負わず。
「怪しげな蟲への無駄な魔力供給を断ち、傷の治療をするべきです。」
「かえせ。それが、それがないとだめなんだよ‥‥かえせ、よ‥‥‥」

嗚呼、宛ら慎二自身は。羽も爪も牙も毒も持たぬただの蟲。
それでも腕を返せと呻く。己を捻りあげるバゼットを、残った左腕で殴ろうと――――

「残念だ。」


慎二の頭が砕け散る。舞う赤い飛沫はしかし、俺までは届かなかった。
代わりに獣の皮膚を濡らす。

物悲しげな遠吠えが一つ、響いた。

542 名前: D two×three×four  ◆cCdWxdhReU [sage] 投稿日: 2007/08/21(火) 23:40:49

友人ではなかったのですか?」
血の臭いの中に一人立つ美女は、力無く蹲る獣を見やりぽつりと漏らす。
何故彼女まで、殺人者である彼女までが悲しそうなのだろう。
「彼に加勢しなかったのは正解です。貴方まで死ぬ事は無い。
ですが、貴方は‥‥‥彼を止めるべきだったのに。」

凍った脳が動き出す。
慎二の腕が?がれたならば、止血をしてやるべきだった。
慎二が激昂したならば、なだめてやるべきだった。
慎二に、誰か言ってやるべきだった。  『冷静になれよ、慎二。』

誰か?俺以外に居なかったじゃないか!!


「マキリシンジを殺したのは、私だけではない。
そうだとは思いませんか?シロ、   」



即座に口を噤むバゼット。膨大な魔力を察知し、拳を握り地を踏みしめる。
魔力がこの場に滾り、渦巻き、唸り――――
間桐邸地下、蟲蔵。獣を召還せし魔方陣が、その地に立つ魔術師の決意に反応し、
聖杯より手繰り寄せる――――それは人の形を成す、サーヴァント。
「くそっ、まさか!」

燦然と輝く円形から突如現れたそれに、俺は、俺は‥‥‥!



怒:叫ぶ。あの女を殺せ!
哀:叫ぶ。あの腕を取り返せ!
悔:叫ぶ。俺を『慎二』を、この場から連れ出せ!

同時に思う。
慎二は俺の親友だ。
慎二は俺の日常だ。
慎二は、慎二は‥‥‥


俺が何をしようとも、二度と。かえって来る事は無いのだと。

投票結果

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2007年08月23日 13:02