563 名前: D two×three×four  ◆cCdWxdhReU [sage] 投稿日: 2007/08/22(水) 16:15:13

悔:俺を『慎二』を、この場から連れ出せ!




少年が叫ぶ。
命惜しさに逃げるのか。
しかし、躯を持ち帰ろうというその意思には、友情を伺えないことも無い。
ええ、いいでしょう。
碌に状況も判断できない『マキリシンジ』、サーヴァントを得て尚私を殺そうとしない『エミヤシロウ』。

どちらも、とても魔術師と言えはしない。

一般人を、しかも子供を殺す趣味など、私には無い。
無造作に転がっていた躯から、一歩身を引く。
そう、『見逃しましょう』。エミヤシロウ。
いつかまた会うことがあれば、その時までに魔術師に『成って』おく事です。


事前知識はあった。
始まりの御三家『遠坂』『アインツベルン』、そして、『マキリ』。
いずれの後継者も未だ年若く、この聖杯戦争に勝ち残るためには、私は彼らを殺さなくてはならない。
織り込み済みだと思っていたのに。
必死の形相で(そう、正しく必死。)私に殴りかかる、その弱々しい左腕で打たれてしまいたいと思った。
武器を得るため武器を奪う。その為、彼の右腕を貰い受ける。
唯それだけの事なのに、酷く悲しくなるのは何故だろう。(それは、恥ずべき裏切りにすら思えた。)
あの拳で打たれることで、『腕を奪った』罪が清算されるならば‥‥

(馬鹿馬鹿しい。)

兎に角新しいサーヴァントは手に入れた。
素っ気無く転がっている右腕を拾いながら考える。
この獣のサーヴァント、素性も知れない、人語を解すかすら判らない。どうしたものだろう。
嗚呼そうだ、サーヴァントといえば――――

564 名前: D two×three×four  ◆cCdWxdhReU [sage] 投稿日: 2007/08/22(水) 16:17:30

時を遡り六日ほど前、彼女は己の手でサーヴァントを召還していた。
考えた末(この過程は回想できない。彼女の記憶に無いのだ。)前回の聖杯戦争で優勝にいたった、■■■■■とやらを。
しかし、半日も経たぬうちにそのサーヴァントを失うことになる(この過程も、やはり判らない。)
つい昨日のことだ。彼女は根城と決めた双子の館の片方で、ふと目を覚ました。
その時‥‥‥彼女は『武器』と『腕』を。諸共失っていた。
腕ごと持ち去られたことと、記憶が曖昧な事から。
相手は周到な魔術師で、恐らく私の不意を付いて意識を奪った後に
腕を切り取って記憶操作でもしたのだろう‥‥‥そう、アタリをつけた。

――――サーヴァントといえば、私の呼び出したそれは。
一体どのようなサーヴァントだったのだろう?
考えて


ぱん。

左足、膝を打ち抜かれる。

「あ」

ぱん。

右足。
歩けない。
サーヴァントは手に入れたというのに。
しくじった。気を抜いた。何故、如何して。私ともあろう、モノ、が。

あの『甘っちょろい魔術使い』が私を『見逃そうと』‥‥‥

ぱん。

呼び出されたサーヴァントは、見逃す道理が無いではないか。

565 名前: D two×three×four  ◆cCdWxdhReU [sage] 投稿日: 2007/08/22(水) 16:19:06


++++++++++++++

最後に眉間に一つ。

「ふぅ。てめェが今回の雇い主か?」

女だった。
事も無げにバゼットを数度打ち抜くと、硝煙を格好よく吹き消して、これまた事も無げに振り返る。

――――バゼット=フラガ=マクレミッツ、
彼女の宝具は、滾る殺意を孕む切り札に対し、最上の『必殺』。
しかし、その彼女に‥‥‥

『ちょいと他に用事があるんで、ついでに邪魔なのを殺しとく』

‥‥‥そんな気持ちで銃を向けた相手が、今まで一人でも居ただろうか?――――

殺したいと思わなかったと言ったら嘘になる。
しかし‥‥‥殺そうとは思っていなかった。
(もう、死んでるのか。)
慎二の仇は、余りに呆気なく。

「もしかして、『サーヴァント』なのか‥‥‥」
「ハハッ、Yes,ser.『マスター』の方が?」
「いや、見た所年上だ。衛宮士郎って言うんだ。好きに呼んでくれ」
「おう。イカすぜ、ガキんちょ。ところでさ」

彼女は親しげに俺の肩を叩き。

「その『シンジ』っつーのは、あそこの挽肉の事で良いんだな?
呼び出されて最初の仕事が肉片拾いなんてよ。なかなか洒落た‥‥‥今夜はバーベキューってか。」

俺は思わず吐いた。

566 名前: D two×three×four  ◆cCdWxdhReU [sage] 投稿日: 2007/08/22(水) 16:22:24

「おーおー、あたしも吐きてえよ。頼むから撤回するか手伝ってくれ!
『かたわ』の姉ちゃんの脳漿と混ざっちまって‥‥‥」
「や、やめ、お前‥‥‥」
「『アレ』が手前の友達だか兄弟だか知らねェが、とっくにおっ死ンじまって今頃マリア様を口説いてる。
すぱっと割り切って、そうさ。次の命令は『添える花でも採って来い』?」
「‥‥‥‥じゃあそれで。」
「頼まれた、シロ。」

彼女は鼻歌を歌いながら、庭の花壇を適当に蹂躙して帰ってきた。
色取り取りの花束(悪く言えば、ごちゃまぜの)が、慎二の体に添えられる。
‥‥いつの間にか這い寄った紅い獣が、ぴすぴすと鼻を鳴らして亡骸を舐めた。

「ヘイ、シロ。ジョンに『餌』をやらなくていいのか?死ンじまいそうだ。」
「餌?」
「パトラッシュって呼んでやっか」
「え、餌って、魔力か?どうやって?」
「知るかよ。」
‥‥‥腕だ。
バゼットが奪った右腕。何か意味があるはずだ。それを。

手に取るや否や、ぐんと魔力を吸い上げられる。
透けた獣が、鮮やかな紅を取り戻した。
リミットオーバー、魔力の使いすぎです。
でもよかった。これで、これで慎二のサーヴァントだけでも‥‥‥

「シロは墓荒しに肯定的だな?日本人のくせしてよ。」

女が趣味の悪い軽口を叩いて笑う。
そうだ、彼女の‥‥
「名前は?」

「レヴィ姉さんと敬いな、ガキんちょ。」

そうか、レヴィ姉さん。後宜しく。
それだけ呟いて俺は意識を手放した。



さて。
お姉さんより、やっぱ同級生だよね。:時は遡り、数日前・遠坂邸。うっかりの予感。
お姉さんより、やっぱ妹属性だよね。:レヴィちゃん始めてのニポン語。「衛宮」って書いてある表札を探す。
お姉さん‥‥‥悪くない響き。むふ。:先程士郎を襲った車、それを操っていたサーヴァントは始終を見ていた。
お姉さん?男だ、いいから男を出せ!:教会で、独り。神父は知人の死を哂う。

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最終更新:2007年08月23日 13:08