555 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/08/22(水) 01:59:04
一見しただけでは、普通の恰好をした男たちにしか見えない。
しかし、男たちがローゼンに対して向けている目は、少なくとも常人の目ではなかった。
感情の読めない瞳で、先頭に立っていた男がローゼンに告げた。
「封印指定の魔術師が、こんな場所で工房を構えているとは。
協会の監視下を嫌って逃げ出した割には、隠れるのが下手なようだな?」
「ぶっ……!?」
思わず噴き出してしまう俺。
しかし、やはりと言うか、男たちにもローゼンにも気付かれた様子は無い。
やっぱり、俺の存在はここでは無いことにされているみたいだ。
いや、そんなことより、ローゼンが封印指定の魔術師だって!?
ってことは……こいつら、協会の封印指定執行者か!?
「逃げ出した時点で、お前に酌量の余地は無い。
規定に基づき、封印させてもらう」
言いつつ、懐から銃を取り出した……随分古い銃だ、単発式か?
随所随所で、ここが過去の世界なんだということを実感できるが、まさかこんなところでバゼットの同業者を見ることになろうとは……!
「人工的な擬似生命の物質化……か。
魔法の域にも至るかもしれん代物を作っておきながら、していることは人形遊びだとは。
魔術師が聞いて呆れるな」
……そうか。
魔術を魔術以外の目的で使う人間は魔術師じゃない。
魔術を使って究極の少女、アリスを求めたローゼンは、魔術協会にしてみれば、魔術師ではなく魔術使いになるのだろう。
「では、会って早々だがこれでお別れだ。悪く思うなよ」
男は取り出した銃を、ローゼンの背中に向ける。
多分、ローゼンを殺しても、ローゼンの才能や魔術回路、知識だけはしっかり回収するつもりなんだろう。
「…………」
対するローゼンは……なにも喋らない。
ローゼンは男たちが部屋に入ってきてからも、身じろぎ一つせず、それどころか、まるで男たちに気付いていないかのように……いや、男たちが存在していないかのように、ただただ作業を続けているだけだ。
そんなローゼンの態度を不審に思ったのか、銃を突きつけた男も撃つのを躊躇ったが……それも一瞬のことで、直後に男は引鉄を引く。
――乾いた銃声は、甲高い破砕音にかき消された。
「なっ、これは!?」
執行者たちにざわめきが広がる。
それはそうだろう、もちろん俺も絶句している。
なにしろ銃弾で撃ち抜いたと思ったら、ローゼンが消えてしまったのだから。
撃たれた瞬間、ローゼンの体はガラスで出来ていたかのように、粉々に砕け散った。
鏡に映ったローゼンを銃で撃ったら、確かにこうなるのではないか、と思わせるような、そんな非現実的な光景だった。
しかし、確かに撃たれたのはローゼン本人で、振り返ってみてもそこに人影など存在しない。
つまり、ローゼンは……やはり、この部屋から消えてしまったのだ。
ようやく我に返った男の一人が、ローゼンの机に駆け寄る。
ローゼンの座っていた場所には、バラバラに砕けたガラス……いや、鏡の破片が散らばっているだけだ。
そこには血の一滴も流れてはいない。
机に手を当てて何かを読み取ったのか、男はギリ、と歯軋りをして叫んだ。
「転移……そうか、ローゼン……貴様、既にこの世界から消えていたな!?」
……この世界から、消えて……?
俺の頭が理解するより早く、男たちは一箇所に集まると、二言三言、なにやら早口で言い合った。
そして全員で頷くと、それぞれが部屋の中に散らばって、おもむろに物色し始めた。
どうやら、ローゼンの魔術の研究に関する情報を探すことにしたらしい。
俺はというと、先ほどから展開についていけない上に、干渉も出来ないので、部屋の隅でただ見ていたわけだが……。
α:この場所から立ち去る。
β:この場所に留まる。
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最終更新:2007年08月23日 13:10