602 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/08/23(木) 13:08:28
多分、それは憧憬だ。
この感情をいつから抱いていたかと考えると、多分それは最初から。
初めて水銀燈を見たときから、俺はその美しさに目を奪われていた。
そして、ドールの美しさへの感動と同時に、その創作者に対して、無意識のうちに敬意を抱いていたんだろう。
衛宮切嗣と、正義の味方への憧れとは、また違う意味で。
そのときから俺は、作る、という行為に憧れたんだ。
とは言うものの……。
「……ガラクタ修理が関の山だけどな、俺は」
そもそも俺には一から創作することなど向いてないのだ。
既存のものを解析し、復元したり……あるいはそっくり模倣することなら出来るだろう。
俺の本質は贋作者だと、アイツも言ってたしな。
だが、オリジナルとなると、悲しいほどに俺には素養が無い。
俺にオリジナルと呼べるものがあるとすれば、それは剣製の一点だけだろう。
なので、俺は将来就きたい職業リストの人形師の欄に『保留』と書き込むだけにとどめて、この件について考えるのを止めた。
「さて、それじゃあ次に行きますか」
しゃがみこみ、鏡の破片の一つに人差し指を当てて、目を閉じて集中する。
普通に考えれば、砕けた鏡の破片の中に入り込むなんて芸当、出来るわけが無いのだが、可能であるというイメージさえ膨らませてしまえば問題は無いだろう。
……この世界でも、水銀燈は居なかった。
体感的にはニ、三十分くらいだったけど、外でどれくらいの時間が経っているかは分からない。
既に日が暮れてしまっているのは確実だと思うが、それでも……水銀燈を見つけるまでは、止めるわけにはいかない。
家で待っているみんなに対して、ごめん、と呟いてから、俺は次の場所へと沈んで行った。
α:幾多の扉が浮かんでいる空間。そこで兎が待っていた。
β:――Interlude side 1st Doll
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最終更新:2007年08月23日 15:35