309 名前: Fate/■■■■■  ◆JtheEeHibM [sage 一日目・関西弁と車椅子] 投稿日: 2007/06/26(火) 18:32:15


 ―――――買い物をして帰るか。
 そろそろ冷蔵庫の中身が気になる頃だ。
 それに、藤ねえにも心配をかけてしまったらしい。
 お詫びにしっかりとした夕飯を作りたい。

「わかった、今日は早めに帰ることにする。
 すまない一成、備品の方はまた明日でいいか?」

「別にかまわん。急ぎのものはあらかた済んでいるからな。
 残りはいずれ、手の空いたときに頼みたい」

 生徒会が一生徒をこんな仕事に駆り出すのはよろしくないが、と渋る一成に、別に気にしてないと返す。
 お決まりといえばお決まりの会話だ。
 融通が利かない、とも取れるが、これも含めて一成の味なんだと思う。
 最後に「くれぐれも自重するように」と釘を刺されたりもしながら、学校を後にした。



 交差点まで下りてくると、朝方見かけた一軒家が見えてきた。
 疎らながらに様子を覗く人達がいて、玄関には立ち入り禁止の札が掛かっている。
 昨晩、ここで押し入り強盗が起こったという。
 一家四人のうち、生き残ったのは子供だけ。両親と姉は理不尽な死に追いやられた。

「―――――」

 無力さに唇を噛んだ。
 親父―――衛宮切嗣のような、正義の味方になると誓った。それなのに、こんな身近で起こった事にさえ、何も出来ない。
 誰かの役に立ちたいと思いながらも、結局、今の自分に何が出来るのかさえ判っていない。




 そうこうしてるうちに、商店街の入り口に到着。
 夕暮れ時のマウント深山商店街は、夕方の買い物客の活気にあふれている。

「まずはメインを何にするか、か」

 しっかりと作り込むからには、メインディッシュとなる食材を決めなければならない。
 藤ねえの好みなら肉かと考えたところで、

「ん?」

 視界の端に何かがよぎる。
 気になったので振り向いてみると、江戸前屋の紙袋(×3)が横滑りしていた。

310 名前: Fate/■■■■■  ◆JtheEeHibM [sage 一日目・関西弁と車椅子] 投稿日: 2007/06/26(火) 18:33:10


「な………」

 いやいや、そんなハズはない。実際よく見れば、袋の下には車椅子がある。
 滑るように見えたのはこのせいか……って危ないじゃないか?!
 あわてて駆け寄り、真ん中の袋を持ち上げて視界を確保する。

「お?」

 下から顔を覗かせたのは、小さな女の子だった。
 肌は病的なまでに白く、短くそろえられた髪も栗色だが色が薄い。
 車椅子に座る様子は、重い病を連想させた。

「持ってくれたん? おーきになー。前がぜんぜん見えへんかったんよ」

「見えへんかったんよ、じゃない。危ないだろ」

「いやー、安いもんやからついつい買い込んでしもてな。江戸前屋恐るべしや」

 のんきな言い分に力が抜けかかるが、踏みとどまる。

「……そうだとしても、限度があると思うぞ」

「一個買うてみたらおいしくてな~、これは絶対食べささなあかんと思った奴がおんねん」

「食べさせたい奴?」

「そや。同居人なんやけど、そいつと二人で分けるんや」

 ……これを二人で。
 いくら半分になるとはいえ、一回で食べきるのは藤ねえでもなければ無理だ。
 少なくとも目の前のこの娘には、虎の胃袋があるとは思えない。
 つまり残りの多くは、その『同居人』にまわる事になる。

「よほどの甘党なんだな、その人」

「い~や、逆。ごっつい辛党や」

「は―――――?」

「私の料理に毎度まいど、事あるごとに香辛料を足そうとするんや。
 あげく相手がそれ食べて苦しんどるのを見てニヤニヤしとるような悪党やで。
 せやからちょう、やり返そう思てな」

 少女は実に楽しそうに説明を続ける。

「出したもんはちゃーんと食べよるから、『おみやげや♪』言うて出せば苦手なもんでも
 残さへん。
 このたい焼きやったらいくら食べても飽きへん自信があるし、付き合うて食べても問題なし。
 プチ復讐もできて、甘いもんが食べられて一石二鳥や」

「…………なんでさ」

 今度こそ脱力する。
 どうやらこの子、見た目以上にたくましいようだ。

「ちゅう訳で、お兄さん。その袋は計画の要なんや。
 見やすいとこに置き直してくれへん?」


【Eins】:袋を乗せ直す。
【Zwei】:少女の家まで荷物を運ぶ。
【GutenMorgen】:そうはいかない。少女の陰謀を食い止める……!

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最終更新:2007年08月24日 19:20