364 名前: Fate/■■■■■ ◆JtheEeHibM [sage 一日目・即席騎士~丘の上の教会] 投稿日: 2007/06/29(金) 16:17:12
「いや、このまま運ぼう。家はどっちだ?」
さっきの状態を目撃してしまった以上、放っておく事は出来ない。
視界を塞ぐたびに止まるよりは、もう一人荷物運びがいたほうが話が早い。
「へっ? 運んでくれるん?」
意外そうに聞き返してくる少女。
「新都の方やから、けっこう遠いで?」
「俺は別にかまわない。それより新都まで一人で行く方が問題だ。
さっきみたいに前が見えないのもそうだけど、最近は物騒だろ。
帰りが遅くなるなら女の子一人よりは誰かがいた方がいい」
この時期は日暮れが早い。
今はまだ明るいが、新都に着く頃には真っ暗になっているだろう。
こんな小さい子に危険な夜歩きをさせるわけにはいかない。
「んー、せやたらお願いしよかな。
危ないときにはよろしゅうな」
「ああ、頼まれた」
「っと、そや。お互い自己紹介もしてへんかったな」
……む。そういえばそうか。
「わたしは言峰はやて。小学3年生相当の女の子ってとこや。お兄さんは?」
「衛宮士郎、穂群原学園の学生だ」
「衛宮――――――士郎」
それを聞き、少女―――はやてはちょっとだけ驚いているようだった。
「どうかしたか?」
「いや、なんでもあらへんよ」
偶然ちゅうのもあるもんやなぁ、なんて呟いていたが、話してくれる様子は無い。
「えっと、士郎さんでええか? あ、それとも年下にはお兄ちゃんって呼ばせたいとか、そんな趣味?」
「そんなわけあるかっ」
「あはは、せやたら士郎さんでええな」
ここではやては少し居住まいを正し、
「じゃあ士郎さん。
これから帰り着くまでの間、臨時の守護騎士に任命や」
なんてことを宣言した。
確かに家まで送っていくとは言ったし、その間彼女のことを守るつもりではあったけれど。
『守護騎士』とはまた、ずいぶんと大げさな表現をしたものだ。
……いや、まあ。
『正義の味方』を目指している俺も、他の人からすればとやかく言える筋合いじゃないか。
「了解しました、姫様」
話をあわせて返事をしてみる。だがはやては甘いで、と言わんばかりの反応を見せる。
「ちゃうちゃう。実はわたし、こう見えて『王様』なんや。
姫様ゆーのは残念やけど間違いや」
「……? 女王様じゃないんだな」
「それやったらロウソクとかムチとか必要やんか」
「駄目だはやて。そんな知識は、早く忘れた方がいい」
いったい誰だ、この子にこんな知識を持たせたのは?!
家に着いたらまずは、保護者にがつんと言ってやらねばなるまい。
「まったく。早く動こう」
「ん、せやな」
出発やー、との号令の下、即席の主従は商店街を後にした。
365 名前: Fate/■■■■■ ◆JtheEeHibM [sage 一日目・丘の上の教会] 投稿日: 2007/06/29(金) 16:18:00
冬木大橋を渡り、市街地を抜け、今は丘の方に向かっている。
最初はバスを使おうかと考えたのだが、はやて曰く
「車椅子も乗せられるんは少ないからなー。
たぶん、待っとる間に着いてまうんやないか?」
とのこと。
言われてみて納得した。
深山町と新都を結ぶバス路線はよく利用しているが、確かにバリアフリー車両はあまり見かけない。
来るときも自分一人でやって来たらしい。
この華奢な体のどこにそんなバイタリティが蓄えられているのやら。
「さあ、もう少しやでー。ゴールはこの先の教会や」
「教会?」
「そ、教会。その名もなんと言峰教会。
十年来のわたしの住処で、性悪神父の根城や」
十年来と聞き、この街の教会に孤児院があったことを思い出す。
―――――十年前、自分が切嗣の子供になったとき。
他の身寄りのない子供たちは、教会の孤児院に引き取られたという。
冬木に住んでいながら、今まで一度も教会に足を運んだことがなかったのは、自分だけが
違う境遇になった引け目のようなものも感じていたのかもしれない。
「とーちゃーく」
坂を登り切ると、広い前庭と威圧感を放つ教会があった。
「……うわ、すごいな」
わずかに気圧される。
信者も多そうな、立派な教会を前にして、しかし。
「すごい言うたらすごいんやけど、けっこう不便やでここ」
ここに住んでいる少女は、そんな愚痴をこぼしていた。
……今のはなんか、わりと実感のこもった言葉だった。
どのくらいかと言うと、さっきまでの威圧感とかなんとかがさっぱり消えて、妙な脱力感を覚えるぐらい。
「ここまで来たらもう大丈夫やな。
騎士エミヤ、ここまでの護衛ご苦労さんや」
「ははぁっ」
芝居がかったやりとりに、お互い顔が笑っている。
これにて騎士のアルバイトは終了のようだ。
「そや。せっかくやしちょう、寄っていかへん?
コレもお裾分けしたいし」
そう言いながら、江戸前屋の袋を示すはやて。
俺は―――――
【Pandemonium】:お邪魔する。
【Evacuation】:遠慮しよう。
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最終更新:2007年08月24日 19:22