419 名前: Fate/■■■■■  ◆JtheEeHibM [sage 一日目・言峰教会・返事 - オルター・ペド] 投稿日: 2007/07/06(金) 10:23:09


 「それよりちょっと待ってくれ。
  アンタには言わなくちゃいけないことがある」

 「ほう。懺悔ならばいつでもかまわんが」

 「いや、そうじゃない。はやての事だ」

  そうだ、こんな重圧に負けている場合じゃない。
  ここに来たのは、はやての護衛だけではなかった筈だ。
  つい先程、

 『家に着いたらまずは、保護者にがつんと言ってやらねばなるまい』

  なんて決めたばかりじゃないか。
  ここで言うべき事は言っておくべきだ、正義の味方的に。
  …………何だかすでにヘンな思考になっている気もするが気にしてはいけない。
  冷静になったら負けだ。何に負けるかは知らないけど。


 「アンタ、あの子の保護者なんだよな。
  深山町まで一人で行かせたりするなんて何考えてんだ」

 「成程……その事か」

  神父から薄ら笑いが消え、表情が引き締まる。

 「放浪癖のある娘でな、こちらもほとほと手を焼いている」

 「いやアンタに言ったんだアンタに」

  間髪入れずにつっこむ。
  真面目に聞くかと思えば責任転嫁してるじゃないかこの男……!

 「忙しいとも聞いてる。ちゃんと目が届いてないんじゃないか?」

  監督不行届きとなれば、それはもう問題である。
  アクティブすぎるお出かけとかどこから仕入れたか分からない知識とか、もういろいろと。
  甘いもので仕返しなんて、いつか藤ねぇ路線に走りかねない。

 「好きで放っているわけではない。私とて出来うる限り目を離さんようにはしている。
  だが私一人では限界があるのも事実でな。
  手が離せないときに何を見、何をしていようと止めようが無い」

  ええやんそんぐらいー、と抗議の声が聞こえたが、ひとまず無視。

 「分かってるなら、対応策ぐらいちゃんとするべきだろ」

 「もっともな話ではあるが。
  ……ふむ、随分と絡んでくるな。そんなに彼女が気に入ったかね?」

 「――――!」

  き、気に入ったかって、なんでそんな話に―――!

 「な、なんの話だ! 俺はただ、保護責任の問題をだな―――」

 「まあ落ち着け。そこまで言うのなら、君が世話役になればどうだ?」

 「―――え?」

 「先ほども言ったが、私以外にはやての世話をする人間はここにはいない。
  忙しい時に、私の代わりにはやての様々な世話をこなす役が空いている。
  見ての通り足の不自由な子でな。
  プライベートな部分を含め多くの場合で手助けが必要だ」

  見透かしたような笑みを浮かべ、神父は続ける。

 「幸い、アレも君を気に入っているようだ。その身を委ねることに異は唱えまい。
  抵抗すらせず、その全てを君にさらけ出すだろう。
  故に望むがいい。
  もしその時が来たら、君はこの巡り合わせに感謝するのだからな。
  その、己の底にある嗜好を満たしたいのなら、申し出を受け入れるだけでいい」

 「な――――」

  目眩がした。
  神父の言葉はまるで要領を得ない。
  そんな話じゃない、はずだ。

  ……それなのに何故か、コイツの言葉はいやに胸に入り込み、まとわりついて離れない―――

 「あかんよ綺礼。士郎さん学生なんやから学校があるやん」

  神父の言葉を遮る、はやての声で我に返った。

 「そうか。こういった手合いは時間がかかるからな、いっそ気付かぬまま倫理観をぬぐってやろうと思ったのだが」

 「それは単なる犯罪者さんやんか」

 「だからこそ良い意匠返しになると思うのだが……まあいい」

  そこまで言うと、神父ははやての方に向き直った。

420 名前: Fate/■■■■■  ◆JtheEeHibM [sage 一日目・言峰教会 - オルター・ペド ~ 教会みやげ] 投稿日: 2007/07/06(金) 10:30:55


 「興味は尽きないが、悪いが私はこれから用事がある。
  接待なら奥の部屋を好きに使うといい」

 「何や、でかけるん? せっかくお土産も買うてきたんやけど」

  そう言い、はやては江戸前屋の袋を掲げる。

 「残念だが無理な相談だ。その分を客に振舞えばいいだろう」

 「しゃーない、ちゃんと取っとくから後で食べるんやで」

 「手ぶらで帰すのも悪かろう。土産に渡したらどうだ」

 「ええな。綺礼の分の残りはそうするわ」

 「――――」

 「…………」


  互いに黙り込む。
  さっきまでとは違った意味で、重い空気が流れる。
  神父は先ほどまでと違い、浮かない表情に思える。
  はやては笑みを浮かべているものの、ある意味凄惨なものに見えた。

 「……時間だ。私は行くが、君はゆっくりしていくといい、衛宮士郎」

  沈黙を破ったのは神父のほうだった。

  はよ戻ってきいやー、というはやての言葉を背に受けて、神父は礼拝堂から去っていった。



 「残念、逃がしてもうた」

  振り返ると、はやてが舌打ちしていた。
  長年の付き合いから要領を得ているのだろうか。
  あの神父のあんな表情を見ることになるとは思ってもみなかった。

 「本当に仕返しだったんだな、そのたい焼き」

 「最初からそう言うてたやん」

  甘いなぁ、と笑う少女。

  ……切嗣(オヤジ)、女の子にはやさしくしろって、危機回避の言葉じゃないよな……?

421 名前: Fate/■■■■■  ◆JtheEeHibM [sage 一日目・言峰教会 - 教会みやげ] 投稿日: 2007/07/06(金) 10:31:56



  あのあと。奥でたい焼きをお茶請けに、ずいぶんと話し込んでしまった。
  気がつけばけっこうな時間で、家までの距離を考えるともう出ないといけないタイミングだ。

 「悪いな、お邪魔したうえにみやげまでもらって」

 「べつにええて。もともとお礼なんやし、こっちも楽しかったからとんとんや」

  三袋あった江戸前屋のたい焼きは、一つはあの神父の分として手をつけておらず、
  一つはお茶請けとして半分ほどを消費し、残る一袋が俺の手元にある。
  ……あの神父に同情するわけじゃないが、この量はやはり尋常じゃない。
  甘味好きでも食べきるのは難しいんじゃなかろうか。

 「……なあ、はやて。今更だけど多過ぎないか、たい焼き」

 「ああ、これな? 心配せんでも大丈夫や。
  実は綺礼、わたしに知らせんと狗拾ったみたいなんや」

 「い、犬?」

 「食べ切れへん時はそっちにあげるやろ。
  一応ナイショにしとるから黙っとるけど、もうばれとるんやから会わせてくれてもええのに」

  …………あの神父が?
  少ししか見ていないが、生き物を飼うなんて柄じゃないぞ、アイツは。

 「……まあ大丈夫ならいいか」

  親子関係は良好らしいので、深くは考えなくてもいいだろう。




  礼拝堂を通り、扉へ向かう。

 「せや、ちょうええか?」

 「ん? 何だ」

 「士郎さん、『お守り』みたいなもん持っとる?」

 「お守り?」

 「大事にしてたり、いわれとかありそーな物とかや」

  言われて一つ、思いついたものがある。
  十年前の火災から助かったとき、俺は銃弾のようなものを手に持っていたらしい。
  底部に何かの文字が刻まれたそれは、今でも引き出しの奥にしまってある。

 「あらへんのやったら、言峰教会参拝記念っちゅーことで、なんか記念品でも渡そ思てな」

  お守り(アミュレット)の類は教会としてはご法度なんじゃなかろうか……?
  まあ、それは置いておくにしても……どうしようか?


 【Arc Lightening】:もう持っているから、遠慮しよう。
 【Psionic Gift】:せっかくなので受け取ることにする。
 【Temple of the False God】:すまない、俺は仏教徒なんだ。

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最終更新:2007年08月24日 19:28