900 名前: Fate/■■■■■ ◆JtheEeHibM [sage 二日目・放課後 - 運命の夜(鐘)-②] 投稿日: 2007/08/02(木) 14:05:28
正直対応に困っていた。
二人きりになったせいで、変に緊張しているのが自分でも分かる。
――――氷室は、なんというかその、美人だ。
彼女は遠坂凛(アイドル)みたいな、鮮やかで注目を集めるタイプではない。
だが、こうして改めて見てみると、やはりキレイだと思う。
「…………」
………話しかけるタイミングを完璧に逸していた。
元々、俺は口の立つほうじゃない。
普段氷室とは話をする事はほとんど無く、陸上部の備品整備を手伝うときに顔をあわせる程度だ。
共通の話題なんてまず無いし、変に意識してしまったせいでよけい何を話していいか分からなくなってしまった。
「…………」
結果として、両手いっぱいのハードルを黙々と倉庫まで運んでいる、今の状況に至るわけだ。
実に気まずい。
「なあ衛宮」
「うおっ、なんだ氷室」
「……? 何をそんなに驚いているんだ」
少し訂正。気まずいと思っていたのは俺だけだったらしい。
「―――何でもない、気にしないでくれ。それより何かあったか」
「いや大したことじゃない。少し衛宮に訊きたいことがあってな」
「聞きたいこと?」
「ああ。かねがね、衛宮とはゆっくり話をする時間をとりたいと思っていたところでな」
体育倉庫の鍵を開け、氷室が奥へと進む。
それに一歩遅れて後に続く。
「2、3質問をするから答えてほしい」
いいか? とこちらに確認を取ってくる。
「あ、ああ。別にいいぞ。俺に答えられる範囲なら、答える」
「そうか。では訊くが……」
氷室はそこでわずかに言い淀んだあと、
「……衛宮は今、懸想している女性はいるか?」
なんて、トンデモナイことを口にした。
902 名前: Fate/■■■■■ ◆JtheEeHibM [sage 二日目・放課後 - 運命の夜(鐘)-②] 投稿日: 2007/08/02(木) 14:07:56
「な、ななな何をいきなりそんな事を?!」
「答えてくれ、重要なことなんだ」
氷室は真剣に、急かすような視線を向けてくる。
その雰囲気はこれまで抱いていた涼やかな印象とは違い、とても情熱的とも言える。
なぜこんな事を俺に訊くのか分からないうえに、自分で無茶な質問をふっておいて答えを迫るのはどうかと思うし、
もう少しこちらのことも考えてほしいと言うか、ええい落ち着け衛宮士郎っ。
ひとまずは深呼吸。混乱している自分を冷静な状態まで引き戻す。
「――――――ふう」
……どうにか落ち着いてきた。
日頃の『鍛錬』の結果だろう。自らを律するという、魔術師としての基本(こころがまえ)が役に立った。
………こんなことに役立てるのは非常に間違っている気もするが。
「いや、特にいない」
冷静さを保ちつつ答える。
「そうか。いや確かにそのような噂は聞かないしな」
その返事に、一人頷く氷室。
「それで、これからが本題なのだが……」
恐るべし氷室鐘、さっきの質問は前座に過ぎないだと……!
今のでこうなら、これから口にされる本題とは一体なんなのか。
「お、おう」
またも高まってきた緊張をおさえ、持っていたハードルを置いて、氷室を正面に見据える。
一度目はともかく、今度は二度目。魔術師の端くれを自認するなら、覚悟は出来て当然だ。
何が来ても動じまいと心に決め、氷室の次の言葉を待ち、
「やはり柳洞と君が恋仲なのは本当か」
「なんでさっ」
神速の裏拳をもって突っ込んだ。
……ってしまった。あまりの発言につい反応を――――!!
見れば氷室は案の定、突然の切り返しにフリーズしてる。
「す、すまん氷室。つい反射的に動いてた」
「……ふ」
固まっていた氷室だったが、やがてわざと抑えているような笑い声を上げだした。
「くっくっ……いや、何と言うか意外だな。衛宮に漫才が出来るとは思わなかった」
俺も驚いている。そんな能力、まともに発揮した事なんて……あ、あった。
毎日のごとく家に出入りする冬木の虎と、昨日出会った車椅子の少女を思い出す。
……これまでの藤ねえとの生活や昨日のはやてとの会話で、知らないうちに鍛えられていたということか。
903 名前: Fate/■■■■■ ◆JtheEeHibM [sage 二日目・放課後 - 運命の夜(鐘)-②] 投稿日: 2007/08/02(木) 14:08:44
「やったこと無いぞ、漫才なんて。いや俺のことはどうでもいい。
それより何だ? さっきの質問は」
「そうだったな。いや、気を悪くしたのなら済まない。
あれは一部の生徒の間で噂になっているものでな」
もっぱら女子の間で根強いのだが、と氷室は続ける。
「あれだけ人気のある生徒会長でありながら、浮いた話が一つも無い。
別に寺の息子は恋愛禁止というわけでもあるまい。
にもかかわらず噂すらないというので、もしや同性に興味があるのではないか、とな」
とんでもない話だ。
確かに一成の素行を見てると女嫌いに見えるけど、少なくとも男に手を出すような話は聞かない。
「酷いな、まったく。そんな話広まったら一成の奴大変だろ」
「広まるほどじゃない。一部の生徒が内輪で盛り上がっているぐらいだ。
……しかし、衛宮も妙な表現をするな?
君も相手役にされた被害者だろうに。自分は否定しないのか?」
「もちろん俺だって違うぞ。けど、問題になるのはどう見たって俺より一成だろ」
ただの一生徒と現役生徒会長では、あらぬ噂で被る被害は比べ物にならない。
そのぐらいは当然だと思うんだが。
「そうかも知れんが………まあひとまず置いておこう」
氷室は何か納得できなかったらしい……変なところにこだわるんだな。
「兎も角だ。君と柳洞会長は何もないんだな?」
「ああ」
禍根を断つために、はっきり断言する。
「そうか。うむ、疑問が一つ解消できた。協力感謝する」
どうやら氷室からの質問はこれまでらしい。
……さて。彼女の質問には答えたのだから、こちらから何か聞き返してもいいのではなかろうか。
聞きたいこと、と言えば―――
【Private Research】:何でこんな質問をしたんだ?
【Pure Reflection】:氷室は恋人とかはいないのか?
【Wave of Indifference】:……別にいいか。
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最終更新:2007年08月24日 19:42