969 名前: Fate/■■■■■  ◆JtheEeHibM [sage 二日目・放課後 - 運命の夜(鐘)-②b ~ ③] 投稿日: 2007/08/06(月) 14:08:13


 「氷室。こっちも聞きたいことがあるんだが、いいか」

 「ん? ああ、かまわん。協力してもらったからな」

 「じゃあ遠慮なく。……俺にはあんな質問してきたけどさ。
  氷室の方は、誰か恋人とかいないのか?」

  そうだ、氷室自身はどうなのだ。
  俺や一成のことばかり聞かれたのでは不公平だ。
  もし困っているようだったら、何が出来るかはともかくとして、手助けするのもやぶさかではない。
  ……けっして、同じ質問で俺と同じように慌てさせようとかいうことじゃないぞ、うん。

 「あいにく、そんな人物はいないな」

  だが。氷室はあっさりと、こちらの思惑を覆した。

 「私自身は、惚れた腫れたといったことにはとんと縁が無い。
  今日に至るまでそういう関係になったことなどさっぱりだ。
  その代わり、というわけではないが―――――他人の色恋沙汰には興味が尽きないところでな。
  面白そうな話題を見つけては、こうして真相を嗅ぎ回っているところだ」

 「……つまり、あんな質問をしたのは」

 「有り体に言ってしまえば、私の趣味だな」

 「…………もっとマシな趣味見つけたほうが良いぞ」

  趣味なんて人それぞれだとは思うものの、調査対象(ひがいしゃ)としてはそう言わざるを得ない。
  言われた氷室の方はといえば、まるで堪えた様子もなく笑ったままだ。
  ちょっと前まで抱いていた印象がものすごい勢いで反転した気がする。
  これも意外な一面と言っても良いのだろうか?
  さっきまでの緊張とか期待とかそういったいろんなモノを返してほしい。

 「とにかく、早く片付けよう。まだ校庭に残ってる」

 「そうだな。高跳びのマットは是非手伝ってくれ。
  さすがにあれは一人では運びきらん」

  密室での会談の後。
  片や揚々と、片や消沈しつつ、俺たちは残りの作業に戻っていった。




  ひととおり片付け終わったときには、もう辺りはすっかり暗くなっていた。
  だが作業の途中で、いくつか調子の悪そうな器具があることに気がついた。
  倉庫の奥の修理待ちの道具類も目に付いている。
  ――――乗りかかった船だ。こいつらの手入れまで済ませてしまおう。

970 名前: Fate/■■■■■  ◆JtheEeHibM [sage 二日目・放課後 - 運命の夜(鐘)-③] 投稿日: 2007/08/06(月) 14:11:21


 「氷室、先に帰っていいぞ」

  とりあえず、ここまで付き合ってくれた氷室に帰宅を促す。
  俺は別に遅くなろうと構わないが、彼女の方はそうはいかない。

 「衛宮はどうするのだ」

 「調子の悪そうなのがいくつかあったからな。その辺を直してから帰る」

  そこまで聞いて、氷室は不可解なものに出会ったような顔をした。

 「待て衛宮。……今から修理するのか?」

 「ああ」

 「何もこんな時間にやらずとも良さそうなものだが。遅くなるだろう」

 「結構かかるだろうな。だから氷室までつきあう必要はないぞ」

  氷室はさらに疑念を増しているようだった。
  ……俺、なんか変なこと言ったか?

 「まったく、噂には聞いていたがここまでとはな。
  ―――――仕方ない。付き合おう」

 「なんでさ」

  本日二回目のツッコミ。
  さすがに一回目のように手は動かなかったが、同じぐらい疑問ではある。

 「部員でもない人間に時間外労働だけでなく、その延長までさせておいて、部員が早々に帰るわけにもいかないだろう。
  だいたい、ここの鍵はどうするのだ」

  ……あ。

 「それはそう、だけど。帰りはどうするんだ。遅くなったら危ないだろ」

 「そこは仕方がない、しっかり衛宮に送ってもらうとしよう。
  今から一人で帰るよりもよっぽど安全だ」

  そうだろう? なんて笑いながら問いかけてくる氷室。
  なんだかこの先、口論では氷室に絶対勝てない気がしてきた。



  さらに時間が過ぎることしばし。
  整備も残すところあと僅かとなったものの、思いのほか時間がかかり、校門はとうに閉まっている時間となった。
  一方、氷室はというと、手伝ったり雑談を振ってきたりしながら、結局最後まで居座っていた。
  実は時間が延びた一因に、氷室がいるから『解析』が使えなかった、というのもあったりする。

 「悪い氷室、ずいぶん遅くなった」

 「好きで残ったのだ、かまわんさ。退屈はしなかったからな」

  ……話してみないと分からないもんだ。
  俺にとってはいつもの作業だったが、氷室にとってはそれなりに楽しめるものだったらしい。

 「ん……? 衛宮、その左手はどうしたのだ?」

 「え?」

  言われて左手を見てみると――――ぽたりと、赤い血が零れていた。

 「なんだこれ」

  袖をたくし上げてみれば、確かに血が滲んでいる。
  だが痛みが無い。
  肩のほうから手の甲まで一直線に伸びている痣があり、ここから流れた血だというのは分かるが、
 こんな痕がつくような覚えはまったく無かった。

 「気がつかなかったな……まあ痛みもないし問題ないか。
  あと少しで作業も終わるから、気にしなくてもいいだろ」

  作業を再開しようとしたのだが、

 「待て待て、血を滴らせて家に戻るつもりか? 家人が見たら心配するだろう」

  横合いからブレーキがかけられた。

 「部室に救急箱があるから、治療していくといい」

971 名前: Fate/■■■■■  ◆JtheEeHibM [sage 二日目・放課後 - 運命の夜(鐘)-③] 投稿日: 2007/08/06(月) 14:12:10


 「そこまでしなくてもいいって。ほんとに痛くもなんともないんだから」

 「そう言うな、備品の修理の礼と思ってくれればいい。
  あと少しなのだろう? 続けていてくれ」

  ちょっと部室まで取ってこようといって、氷室は倉庫から出て行ってしまった。
  そんなに大げさなものじゃないとは思うものの、今更断るわけにもいかないだろう。
  さっさと片をつけてしまおう。

 「…………?」

  何か、いま。
  物音が、聞こえたような。

 「―――確かに聞こえる。校庭からか」

  氷室の向かった陸上部の方向とは少し違う気がする。
  他に誰かいるのだろうか。

 「…………」

  倉庫から出ると、刺すように冷たい風とともに、さっきよりもはっきりとした音が伝わってくる。
  静寂を破って響いている物音は、絶えるどころかますます激しさを増していた。

  月のない中、校庭の方へと近づく。
  物陰に隠れながら進んだのは、その先にあるものに本能が警戒していたからなのか。
  身を隠せる程度の木に寄り添って、近くから音の発生源を見て―――――

  そこで、完全に意識が凍りついた。



 「――――――――な」

  なにか、よくわからないモノがいた。



 【Dakmor Lancer】:神速で振るわれる槍と、それを弾く一対の剣。
 【Goblin Sharpshooter】:飛び交う光弾と、それを払う長槍。
 【Searing Spear Askari】:戦斧と双剣が交錯する度に、周囲に散る火の粉。
 【Sword Dancer】:様々な軌跡を描く無数の光球を、手にした二刀で悉く打ち払う赤い男。

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最終更新:2007年08月24日 19:45