88 名前: Fate/■■■■■ ◆JtheEeHibM [sage 二日目・夜 - Interlude 『救難』] 投稿日: 2007/08/09(木) 12:26:24
――――― Interlude ―――――
衛宮を倉庫に残し、ひとり部室へ向かう。
彼の怪我が無かったとしても着替える必要があり、私が動くのは決定済みだ。
そのついでと言えば聞こえは悪いが、たいした労でもないのならしない理由はない。
(………しかし………)
部室に入り、着替える片手間に考える。
今回、“衛宮士郎”という男を間近に見る機会を得たわけだが。
観察した結果、ますます分からなくなった、というのが正しい。
最初は生徒会長・柳洞一成の話題に絡む人物であり、あくまで参考人扱いだった。
だが噂を拾っていくうちに、気になる点が出てきた。
『頼まれた事は断らない、なんでも引き受ける便利屋』
『生徒会の使い走り』
『穂群原のブラウニー』
それらの話は、すべて彼の行動が基になっている。
実際に何でも引き受け、実際に生徒会の手伝いも頻繁に行い、実際にブラウニーの如き働きぶりをみせている。
だが、その理由となると、まるで俎上に上らない。
噂を話した誰に聞いても、知らないとしか返って来ない。
ある意味学園の有名人とも言える彼は、しかし。
ある意味学園の誰にも知られていない人物だった。
そんな不可解さもあいまって男色説など流れたりもしたのだろう。
今回は柳洞の一件を確かめつつ、衛宮士郎という人物にも探りを入れられるかと思ったのだが―――
(結局、目的らしい目的は聞けずじまいか)
色々と話す中に鎌をかけてみたりしても、さっぱり手応えがない。
観察眼にはそれなりに自信を持っていたのだが、まだまだ甘かったと言う事だろうか。
「……む」
少し考え込んでしまったか。
衛宮も作業を済ませている頃だろう。
穂群原のブラウニーについての考察はまたの機会としよう。
さて救急箱はこっちか、と手を伸ばしたところで、
突然の轟音に、ガラス窓が悲鳴を上げた。
「な……んだ、一体?!」
わずかの間の後、同じ衝撃が二回、三回と繰り返される。
重たい何かが落下したような音は、映画でしか知らない弩(いしゆみ)か大砲を連想させた。
これは校庭の方からか。
確認するべく、部室から出る。
「待て。向こうへは行かぬほうがいい」
そこで、低い男の声に呼び止められた。
見れば、人間大はあろうかという犬……いや、狼か?
声のした方向にはその大きな獣しか見当たらない。
「ここでじっとしていろ。危害は加えん」
聞き違いではない。声は確かに、この獣から発せられている。
校庭からは、なおも衝撃が伝わってくる。
「一体………何なのだ……?」
「………………」
目の前の獣は、校庭の方を見据えたまま動かない。
私の誰にとも知れない問いかけに、誰も返事を返してはくれなかった。
しばらくすると、断続的に続いていた轟音が途絶える。
「――――――済んだか」
一言呟くと、今までじっとしていた狼はこちらに振り向いた。
「今夜のことは忘れて、家に帰るといい」
どういう意味だ、と問い返す暇も無く、蒼い獣は飛び去ってしまった。
あとにはただ静寂だけが残っている。
89 名前: Fate/■■■■■ ◆JtheEeHibM [sage 二日目・夜 - Interlude 『救難』] 投稿日: 2007/08/09(木) 12:27:32
「…………今のは」
本当に、現実の出来事だろうか?
校庭から響く轟音も人語を語る狼も、あまりに現実離れしすぎている。
(まずは……校庭か)
あの衝撃は一体なんだったのか、校庭のほうまで様子を見に行き――――
目の前の光景に言葉を失った。
今日の夕方まで陸上その他の運動部が駆け回っていたグラウンドは、
本当に砲撃に曝されたように、いたるところが歪に削られていた。
「――――――――」
信じられない。
まさか本当に、戦争になったとでも言うのか。
誰もいない夜の学校で、一体何が―――
「そうだ、衛宮は」
誰もいないわけじゃない。私ともう一人、衛宮も残っていた。
まだ倉庫に居るだろうか?
「…………」
倉庫の前まで来ると、扉が半開きになり、明かりが漏れているのが見えた。
中には、誰もいない。
「――――――――」
嫌な予感がした。
彼の性格を考えると、こんな状態で帰ってしまう可能性はほとんど無い。
ちゃんと片付けるつもりが、現在まで戻って来ていないということになる。
推測が予感を補強する。
衛宮は一体、どこにいるのか。
「…………荷物を、取りに行ったのかも、しれない」
教室まで何か取りに行っている。
すぐ戻るつもりだからここは片付けていなかった。
これなら一応、辻褄は合う。合うが――――だからどうだと言うのだ。
「そうだな、教室か」
自分でもありえないと思いつつ、校舎の方へと向かう。
このまま倉庫にいると押し潰されそうだった。
知らぬ間に歩調が早くなる。
靴棚を通るときには早足に、階段を上る頃には駆け足になっていた。
「ハァ――――ハァ、ハァ、ハ――――ア」
鼓動がうるさい。
息が出来ない。
逃げ出すように階段を上り――――――
――――――暗い廊下に横たわる、衛宮士郎が目に入った。
――――― Interlude out ―――――
90 名前: Fate/■■■■■ ◆JtheEeHibM [sage 二日目・夜 ~ 帰宅 - もういちど] 投稿日: 2007/08/09(木) 12:28:31
―――――誰かの、声が聞こえた。
沈んでいた意識が、きっかけを得て活動を再開する。
「―――――っ、あ―――――」
「……宮、衛宮!」
起きてくるにしたがって、体が不具合を訴えてくる。
心臓の鼓動にあわせて頭痛がするし、軽い吐き気も覚える。
不調と起き抜けで胡乱な頭で、つい最近こんな風に起こされたな、なんて考えた。
「……ひむ、ろ……?」
「よかった、気が付いたか」
目の前には、今にも泣き出しそうな氷室の顔。
俺は仰向けになっていて、その上から氷室が覗き込んでいるらしい。
とりあえず、起きないと。
「…………っ」
症状にめまいが加わったが、倒れないようにこらえる。
大丈夫だ、耐えられない程じゃない。
「もう起きても平気なのか? まだ顔色は悪いぞ」
この状況が心細いのか、氷室にいつもの余裕が無い。
氷室に対しては、何事も落ち着いて対処するイメージがある。
失礼な話だが、こんな風に取り乱すのはとても新鮮に映った。
周囲を確認する。
自分の倒れていた場所は、殺人現場のように酷い有様だった。
《運が無かったな、坊主。ま、見られたからには死んでくれや》
首筋に手を当てる。
斬られた痕のようなものはないが、襟元から肩、胸にかけてべっとりと濡れて冷たくなっている。
何より、斬られたときの感覚、血を失っていく感覚を、体がしっかりと覚えている。
間違いない。
衛宮士郎はついさっき、この場で一度殺された。
「――――――っ」
「え、衛宮?!」
ぐらついた体を立て直す。
こみ上げてきた嘔吐感を押し殺す。
独りならばともかく、今は氷室がいる。
彼女に迷惑が、かからないように、しないと。
「………大丈夫だ、落ち着いた」
「本当に、大丈夫か?」
氷室は尚も心配そうに確認してくる。
「ああ。多少気分は悪いが、動く分には問題ない」
答えて、考える。
【Twiddle】:氷室を送らないといけない。
【Searing Touch】:とりあえず、ここを片付けないと。
【Lost in Thought】:倉庫の整備、済んでなかったっけ。
投票結果
最終更新:2007年08月24日 19:50