240 名前: Fate/■■■■■  ◆JtheEeHibM [sage 二日目・夜 ~ 帰宅 - もういちど] 投稿日: 2007/08/13(月) 12:31:21


  声をかけようとしたところで、

 「――――――!?」

  突然、天井につけた鐘が鳴り響いた。
  ここは腐っても魔術師の家だ。
  屋敷に見知らぬ誰かが入れば警鐘が鳴る、ぐらいの結界は張ってある。

 「衛宮、いまのは何だ?」

  氷室がこっちに気付き、訊ねてくる。

 「警報みたいなもんだ。誰かが勝手に敷地に入ってきたんだろう」

  ――――入ってくるだけのはずがない。
  このタイミングで、ただの物取りなんて来るわけがない。
  あの男は言っていた、『見られたからには殺すだけだ』と。
  ならば殺したはずの俺が生きているなら、もう一度始末しに来るのは明白だ。

 「―――――っ」

  息を呑む。
  この部屋から出ても、悲鳴を上げたりしても、即座にあの槍に貫かれると直感した。
  隣を見れば、ただならぬ空気を感じ取ったのか、氷室も息を潜めている。

 「っ………ふぅ、ぅ」

  震えそうになる体を押し留める。
  漏れ出しそうな悲鳴を恐怖ごと飲み下す。

  殺されそうになるのもこれで二度目。魔術師ならば覚悟が出来て当然だ。
  助けられた命だって、みすみす失うわけには行かない。
  加えて隣には、巻き込まれただけの同級生もいる。
  このような理不尽を振り払うために、自分は魔術師を、正義の味方を目指したはずだ。
  なら、こんな時にそれを実行出来ずして、この八年間何を学んできたという―――!

 「……氷室、ちょっと荒事になりそうだ」

  覚悟を決める。なんとしてでも、あの男から氷室を逃がしきる。

 「………」

  武器になりそうなものを探す。
  槍の相手をするからには長い棒状のものがいいのだが……

 「……もしかして、それしかないのか」
 「む……これか?」

  氷室の手元。
  つい先程まで見られていたそれは、藤ねえが昨日置いていったポスターである。
  背に腹は代えられない、というか、ここまでひどいとかえって腹が据わる。

 「ちょっと貸してくれ」

  わずかに怪訝そうな顔をしながら、氷室はポスターを手渡した。
  中身にどんな印象を持たれたかが気になったが、今はそれどころじゃないから無視。

 「同調、開始」

  自己暗示の言葉と共に、魔力をポスターに通していく。
  細部に至るまで魔力を行き渡らせ、溢れ出る直前に、

 「―――全工程、完了」

  ポスターと自身の接触を断った。
  久々に成功した『強化』は、紙の筒を鉄並みの強度にしていた。

 「何をしている?」
 「悪い、その説明は後だ。なるべく俺から離れないようにしてくれ」

  急造の剣を構え、氷室を引き寄せて居間の真ん中に陣取る。
  どのみちここに留まっても死ぬだけだし、屋敷から出たところで逃げ切れるとも思えない。
  なら、あとはすぐにでも土蔵に向かって、もっと強い武器を調達するだけだ。

 「――――――ふぅ」

  周囲を見渡し、もう一度引き締めなおそうと息を吐いた瞬間、

 「―――――――!」

  ぞくん、と背筋が総毛立った。
  いつの間にか頭上に現れたそれは、一直線に俺へと落ちてくる。
  天井から透けて来たとしか思えない、槍による一突きを―――

 「こ―――のぉ……!!」「ひゃっ?!」

  とっさに氷室を突き飛ばし、自分も横に転がるようにして身を躱す。
  たん、という軽い着地音と、無様に転がる自分。
  それもすぐに止め、獲物を構え起き上がる。
  尻餅をついている氷室の前に駆け寄って、男の方に向き直り―――ソイツの、気の抜けた様子に気が付いた。

241 名前: Fate/■■■■■  ◆JtheEeHibM [sage 二日目・夜 ~ 帰宅 - もういちど] 投稿日: 2007/08/13(月) 12:33:21


 「……余計な手間を。見えていれば痛かろうと、オレなりの配慮だったのだがな」

  ソイツは気だるげに槍を持ちかえる。
  どういう事情かは知らないが、目の前の男には校庭にいたときほどの覇気がない。
  これならばあるいは、本当にどうにかなるかもしれない。

 「苦しませろなんていわれた上に、一日に同じ人間を二度殺す事になるとはな………。
  挙げ句、その二度手間のせいで殺す人間が追加されるときた」

  ぼんやりと、こちらを気にする風でもなく、ソイツは愚痴を続けている。

 「………氷室」

  小声で背後の氷室に話しかけ、目配せで後ろの窓を示す。
  うなずく気配を確認して、目の前の男に気取られないようにゆっくりと後退する。
  窓まであと3メートルほど。
  そこまで行けば―――

 「恋人と一緒なら文句もないだろ。今度こそ迷うなよ、坊主」

  ぼんやりと。
  溜息をつくように、男は言った。

 「っぅ――――?!」

  右腕に痛みが走る。
  反応する間もなく突き出された槍は、構えていた急造の剣によって逸れ、右腕を掠めるに留まった。

 「……ほう。変わった芸風だな、おい」

  男の顔から表情が消える。
  ……しくじった。
  常識外の悪鬼を前に、なんとかなる、なんて度し難い慢心だ。
  本当に死に物狂いなら、初撃を奇跡的に躱せた地点で、氷室を引っ張り窓へ走るべきだったのだ……!

 「ただの坊主かと思ったが、なるほど……微弱じゃあるが魔力を感じる。
  喉掻っ切られて生きてるってのは、そこの嬢ちゃんへの執着だけじゃねえらしいな」

  穂先がこちらへ向けられる。
  ……今の突きは、防げない。
  初動すら見切れない点の攻撃を、防ぐことなどどうやって出来よう。
  せめて少しでも妨害にと、氷室を背に隠すように位置をずらす。

 「いいぜ―――少しは楽しめそうじゃないか。
  そっちの嬢ちゃんは後回しだ、下がってな」

  男の体が沈む。
  刹那――――正面からではなく、横薙ぎに槍が振るわれた。
  顔への一撃を反射的に受け止める。

 「くっ………!」
 「そら、次だ―――!」

  どう取り回しているのか、槍はつかえることなく美しい弧を描き、足元から頭へ抜ける斬り上げが迫る……!

 「っ…………!!!」

  思い切り振り下ろした剣ごと、こちらの体が押し上げられる。
  バランスが崩れた勢いのまま、後ろに下がって槍を躱す。
  立て直して向き直ると、男は余裕からか穂先を上げたまま戻していない。

 「なかなか筋はいいみたいだが―――」

  男にしてみれば今のはただの遊びだ。
  攻撃を受けられるかどうかを見て楽しんでいる。

 「―――やはり期待はずれか。今度こそ死ねよ」

  槍を引いて構えなおす、そのあるかないかの僅かな隙に、

 「勝手に――――」「えっ」

  そばの氷室を抱え込み、

 「言ってろ間抜け――――!」「きゃぁっ……!」

  後ろも見ず、背中から窓に飛び退いた……!

242 名前: Fate/■■■■■  ◆JtheEeHibM [sage 二日目・夜 ~ 帰宅 - もういちど] 投稿日: 2007/08/13(月) 12:35:41


  背中で窓を割り、外へ文字通り飛び出る。
  自分をクッションに着地し、抱えていた氷室をまたも突き飛ばし―――すまん!―――転がりながら立ち上がって、

 「は、あ―――!!」

  即座に背後に体をひねり、全力で槍を切り払う―――!!

 「ぬ――――」
 「ぎっ―――」

  槍は弾かれたものの、僅かに間に合わず肩を浅く抉る。
  必ず追撃が来ると読んだのだが、それでも躱しきるには至らなかった。
  いや、むしろこの程度で済んだ事が奇跡か。

 「は、っ……!」

  急いで体勢を立て直す。
  男が怯んでいる隙に、離れた氷室のもとに行ければ―――

 「――――飛べ」
 「え……?」

  空手のまま肉薄する男に虚をつかれる。
  何事かと思う間もなく、
  俺の体は、男の放った回し蹴りで宙を飛んだ。

 「衛宮!!」

  景色が流れて、氷室の声も普段より若干低く聞こえる。
  まさか生身で救急車のサイレンと同じ現象を体験できるとは夢にも思―――

 「がっ…………!!」

  背骨が折れそうな勢いで土蔵に激突し、そのまま地面に倒れ伏した。
  今ぶつかった、土蔵の扉に寄りかかってどうにか立ち上がる。
  見れば、男は20メートル近く離れた場所にいて、槍を構えなおしていた。
  標的は完全に氷室から外れている。あとは俺が、コイツをどうにかしなければ。

 「は―――はぁ、ぐ」

  瞬く間に間合いを詰められ、槍が迫る。
  迎えるこちらは足元もおぼつかず、体重を支えきれずに膝を折った。

 「チィ、悪運の強い………!」

  体勢が崩れたおかげで、男の槍は頭上を掠め、土蔵の扉に直撃した。
  衝撃で扉が弾き開けられる。
  その中へ、四つん這いのまま滑り込む。

 「そら、これで終いだ―――!」

  そこに、容赦なく放たれる一撃。
  躱しようのないそれを、

 「こ――――のぉぉおおお!!」
 「ぬ……!?」

  棒状だったポスターを広げた、一度限りの盾で凌ぐ………!

  衝撃を受け、壁まで弾き飛ばされる。
  槍を防いだポスターは破れ、もとの紙へと戻っていた。
  近くにあったガラクタを手にし、立て直そうと顔を上げた時。

 「詰めだ。よく粘ったな、坊主」

  目の前に、心臓にぴたりと槍を向けた、男の姿があった。

 「今のは割と驚かされたし、機転は利くようだが……
  魔術らしい魔術はさっぱり見せなかったな。筋はいいが若すぎたか」

  男が何か言っているが、あまり聞き取れない。
  意識は目の前の凶器に集中している。

 「もしやとは思うが、もしかしたらお前が七人目だったのかもな。
  ま、だとしてもこれで終わりなんだが」

  男の腕が動く。
  今まで全く見えなかったその動きが、まるでスローモーションのように映る。
  走る銀光。
  逃れようのない死が迫る。
  一秒後には、二回目の死が確実にもたらされる。

  殺される―――本当に?

  ……ふざけてる。
  こんな簡単に人を殺すなんてふざけてる。
  こんな簡単に俺が死ぬなんてふざけてる。
  一日に二度も死ぬことも、巻き込まれただけの氷室も狙われることも、頭にくるほどふざけてる。
  ああもう本当に何もかもふざけていて、大人しく怯えてさえいられず、

 「ふざけるな、俺は―――」

  こんなところで意味もなく、
  お前みたいな理不尽を許したまま、
  殺されてなんかやるものか――――――!!!

243 名前: Fate/■■■■■  ◆JtheEeHibM [sage 二日目・夜 ~ 帰宅 - もういちど] 投稿日: 2007/08/13(月) 12:36:39




 「え―――――?」

  それは、本当に。

 「なに………!?」

  魔法のように、現れた。


 【FATE.】:閃光と共に現れた、白い外套の女性。
 【fate.】:閃光と共に現れた、黒い外套の少女。
 【ふぇいと。】:閃光と共に現れた、黒い外套の幼女。

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最終更新:2007年08月24日 19:54