465 名前: Fate/testarossa  ◆JtheEeHibM [sage 二日目・セイバー召喚。VSランサー - プロミスト・サイン] 投稿日: 2007/08/20(月) 10:42:44


 「え―――――?」

  それは、本当に。

 「なに………!?」

  魔法のように、現れた。

  思考が停止している。
  自分の背後から現れたそれが、女性の姿をしている事しか判らない。

  ぎいいいん、という音。
  寸前まで迫っていた槍は目の前の紋様を描いた光に弾かれ、現れた人物は間髪を入れずそこへと踏み込んでいく。

 「本気か、七人目のサーヴァントだと……!?」

  弾かれた槍を構える男と、手にした戦斧を一閃する女性。
  火花が散る。
  互いの武器を弾きあい、男の体勢が崩れる。

 「え―――」

  何の前触れもなく、体に掛かる急激な圧力。

 「………っ、は」

  だがそれも束の間。
  すぐに開放されたと思ったら、周囲の景色は土蔵ではなく庭先になっていた。
  側には、俺をここまで運んだと思われる女性が、土蔵の方へと油断なく構えていたが―――
  こちらへと、静かに振り返った。

  風の強く、雲が流れる。
  雲間から覗く月明かりが、隣にいる女性を照らし出す。

 「――――」

  言葉が出ない。
  突然の出来事に驚いていたわけじゃない。
  ただ、目の前の彼女の姿があまりにも綺麗すぎて、言葉を失った。

  彼女は宝石のような瞳に、柔らかい光を湛えてこちらを見た後。

 「大丈夫ですか、マスター?」

  労わるように、そう呼びかけた。



          Fate/testarossa



 「セイバーのサーヴァント、召喚に従い参上しました、マスター」

  二度目の声。
  その、マスターという言葉と、セイバーという響きを耳にした瞬間、

 「――――っ」

  左手に痛みが走った。
  熱い、焼きごてを押されたような痛みに、思わず手を押さえる。
  それが合図だったのか、彼女は静かに頷いた。

 「―――これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。―――契約、完了」

 「な、契約って、なんの――――?!」

  俺だって魔術師の端くれだ、その言葉がどんな物かは理解できる。
  だが彼女はその問いを聞いて、わずかに微笑んだ。

 「大丈夫。安心して」

 「―――――っ」

  その微笑に、胸の奥の何かがざわめく。

 「危ないから、あの人と一緒に離れていて下さい。詳しい話はあとで」

  手にした武器を構えなおし、彼女は別のほうへ向き直る。

  ――――向いた先は土蔵の扉。
     その中から、槍を携えた男の姿が現れた。

466 名前: Fate/testarossa  ◆JtheEeHibM [sage 二日目・セイバー召喚。VSランサー - プロミスト・サイン] 投稿日: 2007/08/20(月) 10:44:30


 「――――――行くよ、バルディッシュ」

 『Yes sir』

  謎の返事に驚いた時にはもうそこにはいなかった。
  彼女は躊躇うことなく、男の方へと身を躍らせる。
  それに呼応するように、男も槍を構えて前に出る。

 「!」

  体の痛みも忘れて立ち上がる。
  あの娘があの男に敵うはずがない。
  いくら物騒なもので武装しているからって、あの人は女の人だ。まともに打ち合えるはずがない。
  止めようと声を出しかけて、

 「な――――」

  目の前で繰り広げられる光景に、何も考えられないほどに驚嘆した。

  響く剣戟。
  月が隠れ再び闇に戻った庭の中で、打ち合わされた鋼によって火花が散る。
  断続的に響くそれは、しかし。

 「チィ――――!」

  そのすべてが、彼女の攻撃を男が防ぐときに鳴るものだった。

  振るわれる長柄の戦斧を、男は槍で確実に受けきる。
  もともと膂力の差があるのだろう、男は苦もなく攻撃に移る。

 「――――――」

  だが。
  俺では視認すら出来なかった槍の一撃は、彼女を捕らえることなく空を切る。
  槍が放たれる次の瞬間には、彼女は位置を変え、次の一撃を振るう体勢に入っている。

 「ええい、ちょこまかと――――!」

  槍の男が呪いじみた悪態をつく。
  ……まともに打ち合えぬという見立ては、正しいが間違いだった。
  セイバーと名乗った女性は、あろうことか、目にも止まらぬ槍に対し、それを上回る速度で拮抗している―――!

 「ふ―――――っ!」

  だがそれもここまで。
  わずかな移動で躱してきた動きを変えて、彼女は男の背後を取り、
  叩き下ろすように、渾身の一撃を食らわせる……!!

 「調子に乗るな、たわけ――――!」

  男の姿が消える―――否、消えるように横へと跳んだ。
  先程までと立場が逆転したかのよう。
  彼女の一撃は空を切り、地面に深く突き刺さる。

 「ハ――――!」

  三角跳びとでもいうのか、男は着地と同時に身を翻し、先の跳躍をなぞるように跳びかかる。
  対して――――女性のほうは、未だ構えきれていない。

 「―――――!」

  この隙は決定的だ。
  一秒とかからず舞い戻ってくる赤い槍と、

 『Lightening Bind』

 「なに――――!?」

  中空に男を繋ぎとめ、一秒を引き伸ばす光の輪。
  それと同時に周囲が帯電し、幾つもの光球が浮かぶ。

 「――――――!!」

  それでも男は止まらない。
  僅か数瞬で拘束は霧散し、自由を得た男は標的を貫かんと肉薄する。

  もはや勝負は一瞬で決まる。
  目前まで迫った槍が早いか、

 『Plasma Lancer』

  号令一下、男を貫く雷光が先か―――!!

  闇夜に沈んでいた庭が、閃光に包まれる。
  眼を灼く光と空を裂く音は雷のそれだ。

 「チイ――――」
 「――――――」

  次に目に入ったのは、互いに不満げな表情で距離を空ける二人だった。
  どちらも必勝を期して放った一手。
  相手の攻撃を無傷で凌げたとて、不満なのは道理だった。

467 名前: Fate/testarossa  ◆JtheEeHibM [sage 二日目・セイバー召喚。VSランサー - プロミスト・サイン] 投稿日: 2007/08/20(月) 10:45:23


  ……間合いは大きく離れた。
  今の攻防は互いに負担が大きかったのか、両者は静かに睨み合っている。

 「―――まったく、奇妙な奴だ。剣使い(セイバー)のくせに得物は剣ではなく、魔術で応戦とはな。
  呼ばれるクラスを間違えたんじゃないか?」

  ぎらりと、射抜くような視線を放つ。

 「……そもそも私がセイバーとは限らないんじゃない、ランサー?
  魔術を唱えるからキャスターかもしれないし、長柄武器だからランサーかも」

 「ハッ。テメェが最後に呼ばれたことぐらい、自分でも判ってんだろーが」

  それが本当におかしかったのか。
  男……ランサーと呼ばれた男は槍を僅かに下げた。

 「……一つ提案なんだが。お互い初見だしよ、ここらで分けって気はないか?」

  穂先を下げたランサーの構えは、一見すると槍を収めるようにもとれる。
  だが―――俺はあの構えを一度見ている。
  数時間前、校庭での戦いの最後を飾るはずだった、必殺の一撃を。

 「悪い話じゃないだろう? そら、あそこで呆けてるアンタのマスターは使い物にならんし、
 オレのマスターとて姿を晒せねえ大腑抜けときた。
  ここはお互い、万全の状態になるまで勝負を持ち越した方が好ましいんだが――――」

 「…………」

  わずかな逡巡の後。

 「……いいでしょう。ここはお互い引きましょう、ランサー」

  彼女は構えていた武器を下ろし、その提案を受け入れた。
  その返事を聞いて、ランサーも構えを崩す。

 「話が早くて助かる。先の楽しみが一つ増えた」

  庭の端まで一足飛びに下がり、苦もなく塀に飛び乗る。

 「じゃあな。次こそはその心臓、貰い受ける」

  次の瞬間には、男の姿はもう見えなくなっていた。



 「………ふう」

  知らず、溜息が漏れる。
  災厄の元凶が去ったおかげで、ようやく一息つくことができると思ったのだ。
  忘れていた体の疲れがぶり返し、その場に座り込みそうになる。

 「大丈夫でしたか、マスター?」

  気が付けば、つい先程まであの男と切り結んでいた彼女が、そばまで来ていた。

 「――――――――」

  言葉を失う。
  月光に濡れた金糸の髪、白磁の肌。
  紅玉のような瞳が、こちらを覗きこんでくる。

 「マスター?」

 「――――い、いや待て」

  間違いなく赤くなっている頬を手で隠し、どうにか静止の言葉を口にする。
  ただでさえこんなに綺麗なひとなのに、こんなそばから見つめられて、あまつさえ主人(マスター)なんて、
 とんでもない呼び方をされてはまともではいられない。
  ―――と。

 「……?」

  不意に、裾を引っ張られる感覚。
  何事だろうと振り返ってみると。

 「ひ、氷室?」

 「……衛宮。一体、なにがどうなっているんだ?」

  そうだ。突然現れた女性や槍の男との戦闘に気をとられて、氷室のことが意識からすっかり抜け落ちていた。

 「あまりに色々なことがありすぎて、私には何が何やらさっぱりだ」

  何も解ってないのは俺も変わらないのだが………


 【Mystic Tutor】:「説明、してくれるか?」 氷室同伴で、セイバーと名乗る女性に話を聞く。
 【Worldly Tutor】:「俺も、全部解ってる訳じゃないけど」 知っている限りで氷室に説明する。
 【Goblin Tutor】:「実はこの人、俺の姉なんだ」 どうにか質問をやりすごす………!

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最終更新:2007年08月24日 19:57