827 名前: Fate/testarossa  ◆JtheEeHibM [sage 二日目・再襲撃 - 迎撃する] 投稿日: 2007/08/30(木) 11:43:17


  先程の、ランサーと呼ばれた男との一戦を思い出す。
  またあの化け物のような男が近づいてくるという。
  こちらは聖杯戦争というのも今知ったばかりで、それに対してどうするかさえ決めていない。

 「………………」

  目の前には、こちらを見つめてくるフェイトがいる。
  ただ静かに、俺の言葉を待っている。
  振り返ると、氷室と目が合う。
  学校の校舎で、さっきの居間で見た、不安げな視線。
  ……覚悟を、決める。

 「―――まずは、襲ってくる連中を迎え撃つ」

  彼女たちを危険に晒すわけには行かない。
  ちゃんと、守りきらなければ。

 「了解。念のため、士郎はその娘の側にいて」

  だが言い方がまずかったのか。
  彼女は塀の外へと向き直り、武器を構える。

 『Scythe Form, Set up』

  フェイトの返事とともに戦斧から声が響き、その形が変化する。
  驚きに目を見張るうちに、そこには輝く鎌が完成していた。

 「行きます」

  言うが早いか、彼女は大鎌を手にあっという間に庭を渡り、軽々と塀を乗り越えていった。

 「―――って、ちょっと待て……!」

  先に飛び出していったフェイトを追いかけて、全力で門へと走り出す。
  迎え撃つなんて言ったが、それはあくまで俺の話だ。
  自分がこれから来る連中を相手にし、追い払うという決意でしかない。
  フェイトにはさっき助けてもらったとはいえ、荒事をさせるわけにはいかない。
  たとえ自分よりずっと強くても、女の人が殺し合いなんかしちゃダメだ………!!

 「はっ、はっ、は――――!」

  門まで走って、慌てる指で閂を外して飛び出る。

 「何処だ……!?」

  闇夜に目を凝らす。
  こんな時に限って月は隠れ、あたりは闇に閉ざされている。

 「………! こっちか!」

  物音を耳にし、人気の無い小道へ走り寄る。
  そこではすでに、戦いが始まっていた。

  見覚えのある赤い男が、フェイトと武器を打ち合っている。
  掻き消えるように移動し振るわれる鎌を、男は手にした二刀で受け流す。
  高速で行われるやりとりは他の介入を許さない。
  止まることなく響く剣戟に、ただ見ていることしか出来ない。

 「――――――――」

  ―――いや、それだけじゃない。
  正直に言えば、俺は男の剣筋に見入っていた。
  フェイトの動きは目にも映らぬ、人を超越したものだ。
  だがあの男はそうではない。
  舞うような双剣の軌跡。
  死角を突き、人知を超える速度で回り込む斬撃を、男は俺でもなんとか届きそうな技量で受けきっていた。

 「――――!」

  何度目かの剣戟の後、二人の動きが止まる。
  互いに得物で押し合い、鍔迫り合いになっていた。
  どちらも引く気配はなく、尚も緊張した状態が続く。
  見れば、赤い男の後ろにいる、もう一人の襲撃者も事態を見守って……って、ちょっと、待て。
  真剣な面持ちで戦況を見ているのは、その、間違いなく、ええぇ―――――!?

828 名前: Fate/testarossa  ◆JtheEeHibM [sage 二日目・再襲撃 - 迎撃する] 投稿日: 2007/08/30(木) 11:44:22


 「お、お前遠坂!?」

  思わず素っ頓狂な声を上げる。
  それがきっかけになったのか、フェイトと男は後ろへ飛びのき、互いの連れの隣に来た。

 「ええ。こんばんは、衛宮くん」

  言葉だけはいつも通りに、しかし表情は見たことも無いほど険しくして、遠坂は挨拶を返してきた。

 「ちょ、ちょっと待て、なんで遠坂が」

 「あら、今更しらを切るつもりかしら?
  今まで隠し通してきたのは褒めてあげるけど、とっくにばれてるわよ」

  遠坂の言葉には棘がある。
  どうしてだか知らないが、遠坂は俺を敵と認識しているらしかった。

 「だから待てって。しらを切るも何も、こっちだって何がなんだか」

 「協力者つきとはいえ、自力でランサーから逃げ切っておいてよく言うわ。
  それともモグリも見抜けないような管理者(セカンドオーナー)ならどうとでもなる、なんて考えてる?」

  ますます視線が厳しくなる。
  とてもじゃないが、こちらの話が通じるような雰囲気ではない。
  こっちはいきなり遠坂が現れただけでも理解が追いつかないのに、さらに説得しなければならないなんて荷が勝ちすぎだ。
  どうすればいいのか頭を抱えそうになる。

  その時だった。

 「無事か、衛宮……?」

  自分の背後、路地の入り口からの声に背筋が凍る。
  連想されるのは校庭での顛末。
  それだけは絶対にさせまいと決意して、

 「逃げろ、氷室――――!!」
 「逃げなさい、氷室さん!!」

  ………………。

 「………え?」
 「………は?」

  同時に叫んだ内容に、お互いにあ然となった。

829 名前: Fate/testarossa  ◆JtheEeHibM [sage 二日目・再襲撃 - 迎撃する] 投稿日: 2007/08/30(木) 11:45:22


 「――――――」

 「………………」

  氷室が動く気配は無い。
  フェイトは苦笑いを浮かべているし、赤い男は溜息まで吐いている。
  先程までの張り詰めた状況から一転、緊張感というものがきれいになくなってしまった。

 「………このあたりで、ひとまず引いてくれませんか?」

  最初に沈黙を破ったのはフェイトだった。

 「……確かに、もはや闘争の空気ではないな」

 「ちょっとアーチャー?!」

 「少しは気を利かせたつもりなんだが。
  それとも凛、君はこの状況で戦闘を再開するつもりか?」

 「それは―――そうだけど」

  赤い男――アーチャーと呼ばれたそいつは、フェイトの提案に応じるつもりらしい。
  遠坂も渋ってはいるが、あまり反発は強くない。

 「………衛宮」

 「………なんだ、氷室?」

 「遠坂嬢からも衛宮からも、別段逃げる必要は無さそうだが?」

 「………………言わないでくれ………………」

  ――――ただ、まあ。
  魔術師だったのには驚いたけど。
  遠坂が思っていた通りの良いやつだったのは、素直に喜んでいいことだろう。
  その遠坂はというと、なおもアーチャーと二言三言交わしていたが、どうやら納得してくれたようだ。
  アーチャーを後ろに下げ、こちらへと向き直る。

 「―――いいわ、ひとまずは見逃してあげる。
  けど今回だけ。次に会うときは必ず仕留めるわ」

  覚悟なさい、と極上の笑みを浮かべて宣告する遠坂。
  やはり怒りは収まっていないらしい。
  ……というか。なんかアイツ、学校の時はずいぶん分厚い猫を被っていたんだな。
  アイドル然としたイメージとか密かに抱いていた憧れとかが、音を立てて崩壊してしまった感じだ。

 「さて、と。氷室さん?
  見ての通り最近は物騒ですから、お家までご一緒しますね」

 「―――む」

  そうだった。
  色々と立て続けに起きたせいですっかり忘れていたが、一応氷室を家まで送る約束だったっけ。
  遠坂の申し出に任せれば楽ではあるのだが―――


 【Trusted Advisor】:遠坂に頼む。
 【Liability】:自分で送る。

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最終更新:2007年08月30日 22:24